東京多摩借地借家人組合

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解約申入れ後にされた立退料の提供を考慮して明渡の正当事由を判断した事

2008年02月27日 | 最高裁と判例集
解約申入れ後に立退料の提供又は増額された場合、この立退き料の提供又は増額を考慮して解約申入れの正当事由を判断することができる。 (最高裁第2小法廷平成3年3月12日判決)

 (事案)
 X(賃貸人)の先代は、昭和10年頃その所有する建物をY(賃借人)に賃借し、Xの先代死亡により右建物を相続したXは、昭和61年8月、建物の朽廃による賃貸借契約の終了及び信頼関係の破壊による賃貸借契約の解除を理由として、Y(賃借人)に対し建物明渡請求訴訟を提起した。

 訴訟提起後の昭和62年5月、Xは、100万円の立退料の提供を申出て賃貸借契約の解約を申入れ、右解約申入れを明渡しを求める理由として追加した。

 1審判決は、Xの主張を全て否定して、X(賃貸人)敗訴。Xは控訴し、平成元年7月、300万円もしくはこれとそれほど差異のない範囲で裁判所が相当と認める立退料を支払うとして再度賃貸借契約の解約を申入れた。

 2審判決は、300万円の立退料の提供申出により解約申入れの正当事由は具備したとして、平成元年7月の解約申入れを有効としてX(賃貸人)勝訴。Yはこれを不服として上告した。

 (判決)
 判決は、賃貸借契約の解約を申入れ後に、賃貸人が、立退料を提供した場合または解約申入れ時に提供していた立退料を増額した場合でも、立退料の提供または増額を考慮して当初の解約申入れの正当事由を判断することができるとして、昭和62年5月の解約申入れを有効とし、Y(賃借人)の上告を棄却した。

 その理由は「立退料等の金員は、解約申入れ時における賃貸人及び賃借人双方の明渡しに伴う利害得失を調整するために支払われものである上、賃貸人は、解約の申入れをするに当たって右金員の提供を申出る場合にも、その額を具体的に判断して申出ることも困難であること、裁判所が相当とする額の金員の支払により正当事由が具備されるならば、これを提供する用意がある旨の申出も認められていること、立退料等の金員として相当な額が具体的に判明するのは建物明渡請求訴訟の審理を通じてであること、さらに、右金員によって建物明渡しに伴う賃貸人及び賃借人双方の利害得失が実際に調整されるのは、賃貸人が右金員の提供を申出た時ではなく、建物の明渡しと引換えに賃借人が右金員の支払を受ける時であることなどにかんがみれば、解約申入れ後にされた立退料等の金員の提供又は増額の申込であっても、これを当初の解約の申入れの正当事由を判断するに当たって参酌するのが合理的である」

 (寸評)
 この最高裁判決は、1審判決と比較すれば明らかなように、借地借家法の趣旨・精神に照らせば正当事由の補完として厳格に判断されなければならない「立退料の提供」の適用場面を広くするものである。立退料の提供によって正当事由が補完できることを明文(6条・28条)で認めた「借地借家法」の成立と相まって、今後、ますます立退料の提供による明渡請求に拍車がかかるものと思われる。 1992.3.


(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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