うさぎくん

小鳥の話、読書、カメラ、音楽、まち歩きなどが中心のブログです。

イスラーム国の衝撃

2015年02月05日 | 本と雑誌

池内恵 文春新書

 

テレビのニュースでは連日イスラム国の話題が報道されている。日本人人質が殺害された件では本当に暗澹たる気持ちにさせられたが、一方、こいつらは一体全体何者だ、という疑念も強くわいた。

本書はそんな折に発売された、イスラーム政治思想の第一人者の本であり、非常に興味深く読んだ。

アラブ世界のニュースは随時報道されているし、それなりにフォローしているつもりだったが、体系的に学習したことはなかったし、そのときそのときの現象をただ漠然と眺めているだけだった。イラク戦争、アラブの春など、個々の事件や動向を、自分は単にばらばらにとらえていただけだったんだな、いう感想をまず持った。

たとえば「アラブの春」についても、何となく東欧の民主化の時と同じような経過をたどっていくのかな、という程度の関心しか持っていなかった。ごたごたしている国でも、いずれ良い方向に進むだろう、ぐらいに考えていた。

そのことと、ある日突然宣言されように思えた、イスラーム国樹立宣言のニュースは、自分の中ではつながっていなかった。しかし、イスラーム国は、こうした既存政権が揺らぎ、「統治されない空間」ができたからこそ、アルカイーダなどのテロ組織がなしえていなった領域の実効支配ができた、のだという。

過激思想家や、原理主義的な集団というのは今までも活動していたが、それを押さえていたのはシリアなどの独裁国家だった。独裁国家が過激思想を生み育てていたともいえるが、そのタガが緩むことで彼らが活動する空間ができてしまったと言うことらしい。アラブの春は、それがエピローグなのではなく、物語の始まりであるようだ。

イスラーム国はカリフ制を宣言している。このことは、指導者バクダーディが支配地域であるイラクとシリアの一部だけではなく、全世界のイスラム教徒の政治的指導者としての地位を地位を主張したことになる、のだという。

ローマ法王は宗教的指導者だからこのカリフとは位置づけが異なるのかもしれないが、とにかくイスラームの宗教的共同体全体を指導する立場、ということなのだろうか。逆に言うと、現在そのようなイスラーム社会全体の指導者となるような人物なり組織なりは確立されていないらしい。

池内氏の見解では、(カリフ制を宣言しているにもかかわらず)イスラーム国がこのまま勢力を拡大し、大帝国になるようなことは現実には考えにくいのだという。巧みなメディア戦略などで、世界中から戦士を呼び寄せる一方、統治の不全が招いた宗派主義、地域主義的な紛争により亀裂の深まったイスラム社会では、全体を統治できるような勢力は容易には現れにくいようだ。

本書は簡潔で要領を得ていて、非常に参考になるが、それと同時に、知れば知るほど、ますますイスラム社会というのがわからなくなってくるな、という感想も持った。

 

 

コメント (2)
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