お正月頃から、本屋に並んでいるのを見て読みたかったのだが、先日ようやく買って読んでみた。
以前はこの種の本をよく読んだ。僕は遅れてきたクラシックリスナーで、音楽のことは右も左もわからなかったので、一時期はむさぼるように読んでいたことがある。さいきんはもう演奏がどうの、という事を余り文章で読むようなことはしていなかったのだが、小澤征爾さんも村上春樹さんも、僕にとってはとても興味深い人たちなので、本屋でこのタイトルを見て、極端な言い方をするとちょっとどきどきしてしまった。
途中で村上氏がこう独白している。プロとアマを隔てる壁はとても高いもので、ましてや相手が超一流のプロの場合はなおさらだ。しかしそのことは音楽について率直に語り合うことの妨げにはならないのではないか、と。
しかし、村上氏は音楽のプロではないが、言葉のプロだし、それに、この本の中で見せているレコードの読み取り方は普通のアマチュアのものとはとても思えない。冒頭で村上氏は自分と小澤氏には共通点がある、共に仕事に熱中することに喜びを見いだす、ハングリーさを失っていない、そして頑固で妥協を許さない、とも言っている。
よく、小説や随筆を読んでいて、自分にも何か書けるんじゃないか、と思ったりするが、たとえば村上氏の平易にみえる雑文をよく読んでみると、あらためて彼我の差に愕然としたりする、という経験をすることはあるが、この本を読んでいると、アマとアマの間にも大きな壁があるのではないか、と思ってしまう。
もう一つ、小澤氏が、じつは僕はレコード・マニアみたいな人が好きじゃなかった。でも、村上さんのような人と話をしていると、違った見方を知ることができて勉強になる。できればこの本は(余り好きじゃないタイプの)レコード・マニアではなく、本当に音楽の好きな人たちが楽しめる本にしたい、と言ってたところも面白かった。
小澤氏はレコード・マニアへの嫌悪を、さいきんは忘れかけていたそうだが、用事があって大型量販店に行ったらまたぶり返してきたのだという。僕は先日CDを買いに量販店に行ったが、そこで「対談集で小澤氏が絶賛していたCDはこれ!」という推薦文をつけて陳列してあるのを見て、心の中で笑ってしまった・・。