うさぎくん

小鳥の話、読書、カメラ、音楽、まち歩きなどが中心のブログです。

柳美里 JR上野駅公園口、JR高田馬場駅戸山口

2024年08月12日 | 本と雑誌
3月にブックカフェ「フルハウス」で購入した柳さんの作品です。柳さんの作品を読むのは初めてです。

「山手線」シリーズと銘打たれていますが、物語は相互に関連性はない。

共通点はまるでレコーダーを街に持ち出して録音したものを、そのまま文章にしたような描写だ。駅のアナウンスや列車の入線してくる音、街のざわめきと、聞こえてくる歩行者たちの会話など。
看板などのち密な描写もあるので、レコーダーと言うよりはビデオ画像なのかもしれない。

「上野」では貧しい東北の村出身の主人公が、壮年期のほとんどを出稼ぎをして過ごし、その間も、引退してからも、様々な身内の不幸に見舞われる。

人生のさいごに、彼は上野の公園での生活を始める。。


「高田馬場」は幼稚園の息子をひとりで育てる母親の話。
都心の公営住宅に息子と二人暮らし。単身赴任中の夫、その両親、団地の自治会のひとたち、幼稚園の先生方、生徒の母親たち、誰ともうまくやっていくことができない。

大気中の放射性物質、砂場の病原物質に神経をとがらせ、近くにある戦前の医療施設で行われた人体実験に強い興味を持ったり、幼稚園の教育方針に反感を抱き、施設の人や園長に突撃を試みる。

いきおい周囲から孤立し、しだいに自縄自縛に陥っていく。



「上野」のほうは、このくらいのネタバレは許されると思うがホームレスの話が主体だ。吾妻ひでお「失踪日記」もそうだが、この種の話は妙に惹かれるものを感じる。

「高田馬場」は子育ての中での不安な心持をいわばぶちまけたような話だ。これは柳さん自身の経験が色濃く反映されているのだそうだが、その分真に迫るものを感じる。

どちらも自分の人生の中では直接経験し得ないシチュエーション、心境を語っているという所に興味を覚える。舞台が上野、高田馬場というよく知っている場所(上野公園や戸山にはそうそう行かないけど)であることも、作品のライブ感をより際立たせている。

そういう素材性やシチュエーション選択、背後のテーマに評価すべきポイントを見出すことができる反面、小説としての完成度はいまひとつかもしれない。
評論家ではないから、ここが良くないとかいう立場にはないが、漠然ともっと洗練できるはずだな、いう感想はわいてくる。

とはいえ、この方のとがった部分を表現するためには、これら洗練されない部分も必要なのかもしれない。
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