秋が深まると、この映画をおもいだす。
映画の中心となるのが、主人公が滞在先のパリからロシアに向かうシーンであり、晩秋のパリの町並み、ベルリンに向かう列車内外の様子がとても印象的だからだ。
初めて見たのは10年ほど前だ。他の番組を録画していて、録画ボタンを切り忘れてしまい、そのときに放映していたのが「ジュリア」だった。いったん録画を切ったが、見ているうちに引き込まれてしまい、再び録画ボタンを押した。
幼友達のジュリアは、成長に伴い社会意識に目覚め、大学卒業後は市民運動に参加するようになった。一方リリアンは出版社につとめながら劇作家を目指し、やがて高名な作家、ダシール・ハメットと生活を共にするようになる。
1934年、欧州では既にファシスト政権が誕生しており、緊迫の度合いを高めていた。創作に行き詰まり、パリに滞在するリリアンにもその邪悪な空気は伝わり、仕事ははかどらない。ジュリアはひどい怪我をし、リリアンは見舞いに行くがジュリアは病院からいずこへか連れ去れてしまう。
アメリカに戻り、戯曲を完成させたリリアンは、ハリウッドで大成功を収める。有名になったリリアンはモスクワの演劇祭に招かれ、再びヨーロッパの土を踏む。パリでセレブリティたちのパーティに招かれ、朝帰りして戻ったホテルで、リリアンはジュリアからのメッセージを持った男に声をかけられる。男は反ヒトラーの組織で、政治犯などを救うための資金を、ベルリンに運んで欲しいという・・。
早朝のホテル、午前の日差しが美しいチェイルリー公園、依頼を受けるかどうか悩みながら、落ち葉を踏むリリアン、夕闇のなか、慌ただしく駅に駆けつけ、列車に乗るシーン。
更に、発車直後の落ち着かない列車通路、車窓に打ち付ける雨、対向列車の汽笛にはっとするリリアン。列車が国境に達したときの、寒々しい駅構内、通関後のほっとした車内・・。
これらのシーンが、リリアンの揺れ動く心、行く先への不安感を上手に表現していて、本当に見事だ。同時に、ぼくらが自分たちの人生の中でどこかで経験した迷いや不安感、旅先の街や移動中の心細さなの記憶などを呼び覚ましてくれる。この空気感だけで、この映画を見る価値がある。
午後のパリの街を歩きながら、リリアンは少女時代のジュリアとのことを思い出している。そこをマントを着た少女達が楽しそうにかけていく。また、ドイツ国内に入った列車に、制服(ヒトラーユーゲント?)を着た少女達が乗り込んできて、笑いながら通路を歩いたり、駅に着くと窓に鈴なりになって手を振ったりしている。不安と悩みを抱えるリリアンと、コントラストを作りたかったのだろう。
リリアン(ジェーン・フォンダ)の演技は素晴らしい。ダシールや、友人達の間では気の強い女で、友人のために危険も厭わず活動する勇気、けなげさも持ち合わせている。しかし、ジュリアのような政治意識、社会意識は持っていない。ジュリアの読む、ダーウィン、エンゲルス、ヘーゲルなどはわからない。リリアンのジュリアに対する心は、いつまでも少女時代のままだ。名声を得ながら、筆を絶ち泰然としているパートナー、ダシールに対しても、時に怒りをぶつけながらも、畏敬の念を抱いている。
こういう、大人の女のかわいらしさというのは、誰でも表現できるものではないという気がする。
ジュリア役のヴァネッサ・レッドグレイブ、ダシールのジェイソン・ロバーヅも素晴らしい。メリル・ストリープが、ちょい役で映画デビューした作品でもある。
暗い時代のヨーロッパが舞台だが、とても好きな映画だ。
「ジュリア」は、作者リリアンヘルマンの自伝的な作品だ。JuliaはPentimentという短編集に収められている。映画冒頭でも、その冒頭の記述が、作者のモノローグの形で語られる。
以前は時々洋書屋をさがして、見つけられなかったが、さいきんはamazonなどで検索するとでてくる。買おうかな?でも、最近洋書を読むのがおっくうで・・。