『龍吐水』に心奪われる・・・。
當麻寺のすぐそばまで来ると、古い町並みが残る。
何だかいい気分で歩いていると、格式のある家の軒に設置されている箱に、なんと、『龍吐水』と記されている。
私は飛び上がらんばかりに、息子に叫んだ。
「りゅうとすい??・・・。龍、吐く、水だって!!」
龍が水を吐くとは、なんと、縁起がいいではないか。
私は有頂天でこの家や箱、向かって右に備え付けられた井戸をしげしげと見ていた。
いつもならば絶対できないだろうが、龍とあらば、井戸の中も見たい・・・。普段ではあり得ない衝動に駆られ、ついつい蓋をあけ、中を覗く。
息子は、小さな声で、
「お母さん、やめておけば。」
といいつつ、他人の顔を決め込んでいた。
井戸の中は、きれいに巻き込まれた布製のホース。
一通り自分なりに納得したが、『龍・吐く・水』が頭から離れず、もう、顔は でれでれだったと想像できる。
理由はともあれ、第三者から見れば 不審者極まりない姿。
ただ、救いとしては、當麻寺の方向から帰ってきた観光客のご夫婦が、にこやかに通り過ぎて下さった事。
おそらく彼らにとっての私は、いちびり者か 阿呆に映ったにちがいない。
龍が気になり、帰ってから 『龍吐水』を大辞林で調べてみた。
りゅうど‐すい【竜吐水】
1 消火用具の一。水を入れた大きな箱の上に押し上げポンプを備えたもので、横木を上下させて水を噴き出させる。オランダからもたらされ、名は竜が水を吐くのに見立てたことによる。江戸時代に町火消しに支給され、明治末ごろまで使用。
2 水鉄砲。
なるほど、『龍吐水』とは、江戸時代まで火を消すときに使っていた道具らしい。
それにしても 『龍・吐く・水』とは威勢の良い名前である。
辞書を引いたとたん、私の関心はあっという間に『龍』から歌舞伎演目『め組の喧嘩』に移っていた。
単純!
ところで皆さんは、『龍吐水』ってご存じでしたか。
私は今回まで、『龍吐水』知らずのため、自分ひとりで盛り上がり、たったひとりで一騒動といった感じでした。
息子はといえばそんな母を、
『またか・・・。』
といったあきらめとも優しさとも着かぬ表情で見守ってくれていました。
お粗末・・・。
東京消防庁消防博物館HP『龍吐水』 ↓
http://www.water.go.jp/honsya/honsya/referenc/material/dougu/23.html