はぐくみ幸房@山いこら♪

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スギノアカネトラカミキリ 幼虫の孔道

2018年04月26日 | 樹木の病気・森林被害のお話

 スギノアカネトラカミキリ(以下、アカネ)の生態について最後のお話にかる今回は第5章「幼虫の坑道」。

  枯れ枝の中で、孵化した幼虫は、枯れ枝の樹皮下を食べ、成長とともに枯れ枝の中心部に進みながら、樹幹木部へと向かっていきます。

 そして、樹幹にたどり着くと、通ってきた枯れ枝を中心に上下方向に坑道を作ります。

 幼虫の坑道には、白くて細かな屑が詰まっています。

 

 幼虫は、樹幹にたどり着くまで、かなりの長期間、枯れ枝の中で食害を続けるがの一般的で、中には枯れ枝だけで一生を終えるものもいます。

 このような場合は、枯れ枝が太くて、それだけで十分なエサになった時や産卵された場所が樹幹から遠く離れている時に起こると言われています。

 なので、アカネが一生を終えるには、必ずしも樹幹部を加害しないといけないというわけではありません。

 あと、生枝の二次枝が枯れていた場合、そこにも産卵し、枯れた二次枝を通って、生枝の木部を食害して、一生を終えます。

 中には、生枝を食い進み、樹幹木部にたどり着くものもいます。

 

 幼虫の坑道をまとめると、

  1.枯れ枝から樹幹木部へ食い進む。

  2.枯れ枝の条件次第では、枯れ枝を食害し、そこで一生を終える。

  3.生枝の枯れた二次枝から生枝の木部へ食い進む。

  4.生枝の枯れた二次枝から生枝の木部へ食い進み、樹幹木部まで食い進む。

 この4パターンが考えられ、基本は1の被害例が多数ですね。

 

 被害傾向をスギとヒノキで比較すると、自然落枝しにくく、枯れ枝の着生期間が長いヒノキの方が単木あたりの被害が多い傾向にあります。

 枯れ枝になってから幼虫が食害するまでの年数は、スギで2年後、ヒノキで3年後が一般的とされています。

 ヒノキにいたっては14年前の枯れ枝が食害されたという報告もあります。

 スギよりも長い期間、多くの枯れ枝を残すヒノキの方が被害が多くなります。

 樹幹内部における幼虫の分布は、枯れ枝の分布が影響しているので、地上高2~3mと樹冠上方にほとんど見られません。

 しかし、木の生長とともに、今の生枝が枯れ枝になれば、そこにアカネが産卵するので、被害が蓄積されていきます。

 

 以上、アカネの生態「幼虫の孔道」に関するお話でした。

 次回から防除について、複数回に分けて、お話していきたいと思います。

 


スギノアカネトラカミキリ 交尾と産卵

2018年04月20日 | 樹木の病気・森林被害のお話

 スギノアカネトラカミキリ(以下、アカネ)の生態について、今回は第3章「交尾と産卵」について。

 枯れ枝から脱出した成虫は、5~6時間の間に交尾を行うとされています。

 交尾は日中の明るい時間に行われ、10時から14時の間が最も盛んだと言われています。

 ところで、マツ枯れで有名な「マツノマダラカミキリ」は、脱出後、マツの新葉を食べないと体が成熟せず、交尾・産卵ができません。

 しかし、アカネは枯れ枝から脱出して、すぐに交尾することが可能です。

 周りにエサがなくても、繁殖・交尾が出来ることが、人工林という単純な林層の中でも被害が拡大していく1つの要因だと思います。

 

 交尾が終わったメスは、約1週間後くらいから産卵を始め、約1ヶ月~1ヶ月半の生存期間の間に、2~3日の間隔で産卵を行います。

 メス1匹の平均産卵数25個程度。

 餌となる花粉を食べにきたアカネの抱卵数は、この平均産卵数よりも低いと言われているので、訪花と産卵を繰り返していると思われます。

 産卵場所は枯れてから2~3年以降の枯れ枝が対象なので、枯れて間もない枯れ枝には産卵しません。

 枯れ枝ならどこでもいいというわけではなく、枯れ枝の粗皮がめくれている裏側、粗皮の裂け目、二次枝の付け根などが産卵場所になります。

←中途半端に残した枝にも産卵することがあるため、枝は樹幹に沿って除去すること。

 

 あと、あまり太い枯れ枝や直径5ミリ以下の細い枝に産卵することは非常に少なく、直径15ミリ前後の枯れ枝に産卵が集中します。

 1箇所の産卵数は、普通1~2個くらいですが、稀に5~6個も産む場合があるとのこと。

 

 今回のポイントは、2~3年以降の枯れ枝に産卵するというところです。

 つまり、枯れて間もない枯れ枝には産卵しないので、下枝が枯れ始めた時期を目安に枝打ちを行えば、アカネの被害を未然に防止できると考えられます。 


スギノアカネトラカミキリ 成虫の脱出

2018年04月16日 | 樹木の病気・森林被害のお話
 スギノアカネトラカミキリ(以下、アカネ)の生態について、今回は第2章「成虫の脱出」。
 
 脱出時期は、地域や年によって異なりますが、和歌山県では3月下旬~4月下旬とされています。
 ちなみに岩手県など東北方面では、4月下旬~6月上旬と去れています。
 脱出の時期は、脱出する1カ月前の気温に影響すると言われており、低温が続く間、脱出が全くなく、気温が上がると一気に脱出したという事例もあります。
 
 成虫は枯れ枝の樹皮に直径3~4mmの脱出孔をあけて脱出します。
 
 
 脱出孔のある枯れ枝の太さは、2cm前後のものが多く、脱出孔のある枯れ枝の位置は、樹幹から近く、距離にすると平均で4cmだそうです。
 
 なお、アカネは枯れ枝だけでなく、生きた枝(生枝)の枯れた二次枝にも産卵します。
←枯れた二次枝からの脱出孔。
 この場合、幼虫の食害が枝だけで完了した場合、脱出孔は樹幹から離れた位置に作られます。
 
 成虫は日中の気温が15℃を超えると脱出の準備を始めます。
 日中の気温が20℃前後になると脱出すると言われています。
 
 こんな感じで、アカネは脱出にも行動にも、気温に左右されやすい生き物だと考えられています。

スギノアカネトラカミキリ 生活史

2018年04月15日 | 樹木の病気・森林被害のお話

 今回は第2部として、スギノアカネトラカミキリ(以下、アカネ)の生態について。

 一言で生態と言っても、複雑というか、奥が深いというか、色々あって、ネタがつきません。

 そこで、生態については生活史・成虫の脱出・交尾と産卵・訪花・幼虫の坑道、5つの構成で情報を提供したいと思います。

 今回は、第2部第1章生活史・・・ライフスタイルについて。

 

 アカネが加害する樹種は、スギ、ヒノキだけではありません。

 サワラ、クロベ、アスナロ、ヒノキアスナロなどにも加害します。

 一般的には2年で一世代。一世代に3年以上もかかるという報告もあります。

 脱出した成虫の生存期間は約1ヶ月と言われています。

 

 でわ、2年一世代のアカネの一生について。

 

 成虫は4月頃、枯れ枝に脱出孔をあけて脱出します。

 アカネは昼行性なので、昼間に行動し、夜間は行動しません。

 脱出した成虫は、間もなく交尾を行い、枯れ枝に産卵します。

 孵化した幼虫は、枯れ枝の樹皮下、木部の順に喰い進み、樹幹に到達すると樹幹の木部に潜り込みます。

 樹幹内部で1年目の冬を過ごし、翌年の春~夏にかけて老熟幼虫になります。

 この頃には、元の枯れ枝か近くの枯れ枝に戻ります。

 樹幹と枯れ枝を行き来しながら食害し、枯れ枝に蛹室を作り、8月末から蛹になって、10月に成虫になります。

 と、言葉で書いても分かりにくいので、図にしました。

 ちなみに、一般的に蛹は枯枝内とされていますが、調査をしてみると、幹内でも蛹や成虫が見つかっています。

 なので、必ずしも枯枝内に蛹や成虫がいるとは限りません。


干害(乾燥害)

2017年06月04日 | 樹木の病気・森林被害のお話

 いい天気が続いています。

 時々、夕方から夜明けにかけて、やさしい雨が降る程度で、日中は本当、天候に恵まれた日が続いています。

 ただ、雨が少ない日が続くと、「干害(乾燥害)」の被害が発生しないか、気になるところです。

 下の写真は、平成25年に和歌山県で干害が発生した広葉樹林。

Kangai_2

 干害は、夏季の間、30日間無降水日が続くと発生すると言われています。(冬季は40日間。)

 

 干害が発生した林内は・・・

Kangai_rinnai_2

 下層木の葉がしなしなに萎れてしまいます。

 写真に映っているほとんどの木は、タイミンタチバナで、和歌山県では海岸林によく見かける一般的な常緑広葉樹の1つで、比較的乾燥に抵抗のある樹木です。

 

 元々「シイノキ」は干害に弱くて、枯れやすく、干害の度合によっては、ウラジロガシやタブノキなども枯れます。

Kangai_shi_2(←シイノキ)

Kangai_urazirogashi_3(←ウラジロガシ)

 低木のアクシバが枯れるという現場も・・・。

Kangasi_akushiba_2(←アクシバ)

 

 干害で枯れた木は、先端の枝葉は回復しないものの、萌芽や胴吹きによって、再生する可能性もあります。

 また1から成長することになりますが、頑張って、緑を取り戻すこともあります。

 

 干害が発生した平成25年は、ヤマザクラなどの落葉広葉樹が8月くらいに紅葉しました。

 観察すると、冬芽を形成していたので、冬眠(夏眠?)に入って、この干害を乗り切るという対策を取ったと思います。

 なお、落葉樹は、落葉する際、葉柄の基部に「離層(りそう)」という葉を切り落とすコルク層を形成します。

 離層が出来ると、養分が行き来できず、葉の中に残った養分がカロチノイド(黄色の色素)やアントシアン(赤色の色素)という成分に変化し、紅葉(黄葉)します。

 葉が黄色or赤色に変色して、落葉した木は、正常の機能で落葉したものなので、枯れる心配はないかとおもいます。

 しかし、正常な機能とはいえ、雨が降らなくて、水不足になったので、落葉せざるを得なかったので、木にとっては、大きなダメージ・ストレスを受けたことに変わりありません。

 

 干害で枯れる木は、徐々に葉の色が茶色に変色します。

 なので、毎日、同じ山を観察していると、茶色の割合が少しずつ多くなる様子が分かります。

 干害は一気に枯れる・・・というよりも、上方部から下方部に向けて、葉が少しずつ茶色く変色して枯れます。

 また、山が全体的に枯れる場合もあれば、単木だけ枯れる場合もあります。

 

 ちなみに、平成25年に発生した干害は、スギやヒノキも被害を受けました。

 この被害について、問い合わせが殺到する!・・・かと思いきや、問い合わせはほとんど0.

 むしろ、干害が発生したその半年後くらいに、「そういえば、スギやヒノキが枯れているんだけど・・・」。

 スギやヒノキが枯れるって、その程度のことなのか・・・と、なんとなく、寂しい想いを感じました。

 

 以下、関連記事です。

  干害~枯れる原因~


スギノアカネトラカミキリ(アカネ材) 天敵防除

2017年01月29日 | 樹木の病気・森林被害のお話

 林業木材産業業界では、長年、問題になっている「スギノアカネトラカミキリ(アカネ材)」にも、天敵生物が存在します。

 関係者が見ると、「おっ!」と思うかもしれませんが、天敵防除の研究も行われていました。

スギノアカネトラカミキリ

アカネ材(スギ) ←アカネ材(ヒノキ)

 

 本題に入る前に、まず、スギノアカネトラカミキリについて、簡単に紹介を(詳細は、いずれ別の機会に。)。

 成虫は、スギやヒノキの幹に付いている枯れ枝に産卵します。

 孵化した幼虫は、枯れ枝内部を喰い進み、やがて、幹内部に潜り込みます。

 幹内部では(一般的に)2~3年間、棲み付き、幹内部の材を食べます。

 そして、再び、枯れ枝に戻り、蛹室を作り、枯れ枝に脱出孔を作って、羽化します。

 

 上の写真で言うと、青い矢印が初期幼虫の孔道、赤い矢印が終期幼虫の孔道となります。

 幼虫が喰い進んだ穴は、きなこのような虫糞が詰まっています。

 

 これを製材(柱や板)にしたとき・・・

 

 幼虫の孔道や虫糞が表面に出てきます(ちなみに、上写真のアカネ材は、我が家の書斎に使用しています。)。

 右写真の矢印は、黄色い矢印が孔道&虫糞、青い矢印がカミキリが侵入した影響により発生した青変菌(せいへんきん)です。

 このようにスギノアカネトラカミキリが侵入した木材を「アカネ材」、「アリクイ材」などと呼びます。

 

 同一樹種間におけるアカネ材の強度と一般木材の強度は、大きな差はなく、アカネ材は見た目上の問題だけで、材としての強度は問題ありません。

 

 上の写真はアカネ材が使われた柱で、強度は問題ありません。

 とはいえ、「見た目上の問題」が一番の大きな問題になるわけですが・・・ 

 山主にとって、アカネ材は木材価格を下げられる要因になります。

 売り手にとって、アカネ材はユーザーから苦情を言われる要因になります。

 

 アカネ材を防ぐ方法は、枝打ちです。

 それも磨き丸太や良質材(無節や四方無節など)を生み出すような枝打ちではなく、産卵場所となる枯れ枝を除去する枝打ちです。

 枯れてすぐの枝ではなく、枯れてから約2年経過した枯れ枝に産卵すると言われているので、下枝が枯れてきそうになったら枝打ちをするだけで、被害を抑えることができます。

 残念ながら、材価の低迷と枝打ちのコストから実践している方は、かなりの少数派だと思います。

 

 タイトルの通り、スギノアカネトラカミキリにも天敵はいます。

 1つは「アシブトクロトガリヒメバチ」や「クロアリガタバチ」などの寄生バチ。

 幼虫に卵を産み付ける寄生バチ。

 もう1つは「キツツキ」。

 

 今回は後者について。

 

 上写真2枚とも枯れ枝の下部付近をキツツキが突いたものです。

 右写真の赤い矢印が、それです。(左写真だけだと分かりにくいかもしれないので。)

 材を割ると・・・

 材内に幼虫はいません。

 ヤニで固まっているところが、キツツキが突いた箇所で、そこから幼虫が食べられたと思います。

 

 スギノアカネトラカミキリの天敵「キツツキ」。

 残念ながら、カミキリの生息密度低下に貢献できても、業界が望む防除は期待できそうにありません。

 キツツキはある程度成長した幼虫を狙うので、結果、材内に孔道や虫糞が作られているので製材するとアカネ材に。

 さらに生きた幹の部分を突くので、ヤニが出て、変色などを起こすかもしれません。

 アカネ材に鳥害が加わった木材に悪化するかもしれません。

 

 期待させるようなタイトルで、大変申し訳ありませんm(_ _)m。

 ですが、何もせず、アカネ材を防除できる方法は、あまり期待できないと思います。

 昔、寄生バチの研究もされていましたが、ある研究では寄生率は最大で約36%、最低で0%と言われています。

 スギノアカネトラカミキリの生息密度を0にしないと被害は0になりません。

 しかし、一気に0ではなく、少しずつ減少して、0になるので、やはり、アカネ材は発生します。

 無理難題だと承知の上ですが、やはり、産卵場所となる枯れ枝の枝打ちが最適かと思います。 


気象害 雪の被害

2017年01月15日 | 樹木の病気・森林被害のお話

 雪害は、積雪・雨氷・雪崩などによる「機械的雪害」と積雪の期間が長く生育を妨げる「生理的雪害」の2つに区分されます。

 雪害の種類は冠雪害・雪圧害・雪崩害・雨氷害があります。

 今回は、それぞれの雪害について紹介しますが、前回の「寒さの被害」同様、文字ばかりの説明となり、申し訳ございません・・・。

 

「冠雪害」

 雪が樹木の枝葉に付着し、枝や幹が折損したり、湾曲したりする被害を言います。

 冠雪害が発生する気象条件として、

  1.気温が+から-へ移行する」

  2.気温は-3℃以下で、降雪中の風速は3m/秒以下

  3.降雪後に強風が吹く

 等が指摘されています。

 被害程度は、樹形、樹冠の偏在、胸高直径、形状比などによって変化します(形状比など専門用語の説明は別の機会で・・・今回は省略しますm(_ _)m。)

 林業の場合、これに立木密度が加わり、間伐が遅れている高密度の人工林では、甚大な被害を受けやすくなります。

 林業における冠雪害対策は、

  冠雪害に弱いとされる品種の造林と密植を避け、三角植え・並木植えなど傾斜方向の林木間の距離を長くとる。

  間伐は、傾斜方向の間隔をあけるように選木し、枝打ちは谷側の枝を山側の枝よりも高く打ち上げて、樹冠のバランスをとる。

 と言われています。

 

「雪圧害」

 樹体が埋雪され、積雪の荷重に耐えきれず損傷する被害を言います。

 最深積雪深の2~2.5倍以下の樹高の樹木は、積雪により湾曲し、樹体全体が埋雪しやすいと言われています。

 急傾斜では写真のように湾曲することもあります。

 雪圧に対する対抗力が弱い部分では幹折れ、枝抜け、樹皮剥皮などの被害が発生し、その損傷部が腐朽菌等の侵入口となり、別の被害が発生することもあります。

 雪圧害は被害は豪雪地で激しくあらわれます。

 林業における雪圧害対策は、

  下刈り、雪起こしを行い、早い段階で樹高と直径を大きくし、埋設・倒伏しない大きさに育てる。

  下刈りは、積雪の滑りを抑えるため、秋に全刈りするのが望ましい。

 と、されています。

 

「雪崩害」

 その名の通り雪崩の衝撃力によって樹体が損傷・変形する破壊力が最も高い雪害です。

 雪崩が広範囲に及ぶと大規模な森林災害になり、数十年生の森林が壊滅することも。

 

「雨氷害」

 気温が0℃に近いとき、過冷却水滴が枝葉に凍結し、その重量で樹体が破壊される(枝折れ・幹折れ)被害を言います。

 本州では海抜1000m付近に発生することが多いそうです。

 

 林業関係の専門用語がチラホラ出ていたので、詳しい説明もなしで、続けてしまい、申し訳ございません。

 以上、雪害4種類についてのご紹介でした。

 雪圧害で湾曲した材は、材価を低下させる要因になります。

 しかし、湾曲した材は、意匠性のある床柱的なものになったり、階段の手すりになったり、需要があれば、値が吊り上がる場合もあります。

 ←この材も需要があったので、ヘリで搬出され、確か、1本数万円で売れたと思います。

 被害を受けたことで、普通は売り物にならないはずの商品が、ちょっとした需要で高価な商品に変わる。

 林業に関わると、こういう面白い一面に出会えるのも楽しみの1つです。

 


気象害 寒さの被害

2017年01月10日 | 樹木の病気・森林被害のお話

 冬、樹木は、気温の低下による寒さの被害を受けることがあります。

 和歌山県は温暖な地域なので、寒さの被害は一部の地域に限られます。

 文字ばかりで申し訳ないですが、今回は、寒さの被害の種類を紹介します。

 

冷温障害

 熱帯・亜熱帯産の樹木は、15℃以下の気温で生理的障害を受けます。

 これは、低温状態における生理機能の低下が原因で発生します。

 身近なもので例えると、野菜や果物を5℃以下の冷蔵庫に入れると変色する現象と似ています。

 

寒害

 0℃以下の低温により樹体の一部が凍結することで、水分不足を引き起こして発生する被害を言います。

 

凍害

 植物が低温に耐えられる温度以下に冷やされると、細胞内で凍結が起こり、細胞の生理機能を損傷する被害を言います。

 この被害は、季節と樹種毎の耐凍性と密接な関係を持っています。

 カラマツのように耐凍性が高い樹種ほど凍害にかかりにくく、スギのように耐凍性が低い樹種は凍害にかかりやすい・・・ということです。

 細胞が凍結しているため、材内で変色が起こり、その傷を「凍傷痕」といい、材木の価値を低下させる原因にもなります。

 

早霜害・晩霜害

 晩秋の成長休止前(休眠前)に起こった突然の寒さで生じる被害を早霜害といい、春の成長開始後の寒さで展葉直後の枝先に生じる被害を晩霜害といいます。

 いずれも細胞の凍害が原因で発生します。

 

寒風害・寒乾(干)害

 土壌凍結や幹の凍結で水分の供給ができないとき、樹体水分が低下して起きる被害を言います。

 寒風害は、冬の季節風にさらされた葉からの蒸散が原因で起こる被害をいい、寒乾(干)害は、日射による樹体温度の上昇による蒸散が原因で起こる被害を言います。

 簡単に言うと、水分が供給されない中で葉が蒸散するため、このような被害が発生するということです。

 水分が供給されない環境というのは、真夏のような暑さや乾燥だけでなく、凍結などもその要因になります。

 

凍裂

 厳冬期に幹の内部から樹皮部分まで、縦(放射)方向に割れる被害を言い、「蛇下がり」とも言います。

 ←スギで発生した凍裂。

 割れ目は1m~数mまでに及ぶ場合があり、材内の含水率が高い木ほど発生しやすいです。

 割れ目は癒合されますが、再発することもあり、何度も繰り返されると凍裂した部分が盛り上がる「霜腫れ」という傷が発生し、材質の低下と材価の低下を招きます(1度でも凍裂が発生すれば、材価は下がりますが。)。

 凍裂は、成長の良い樹木、肥沃な立地で発生しやすいとされています。

 

凍上害

 霜柱によって苗木の根が浮き上がり、苗木が倒伏枯死する被害を言います。 

 

凍土滞水害

 積雪が少なくて寒さが厳しい地域において、緩傾斜地、平坦地、凹地などの土壌が深さ数十cmにわたって凍結し、この凍結が春先に融けて、土壌中に停滞水として留まることで、根の過湿害や呼吸障害を起こす被害を言います。

 

 文字ばかりで分かりにくく、大変恐縮ですが、以上、寒さによる被害のご紹介でした。

 

 虫害や病害は、ある程度の事前・事後対策は可能ですが、気象害はいつ発生するのか分かりませんし、その規模も予測できません。

 収穫(主伐)まで50年以上要する林業において、寒さの害をはじめとする気象害は、一番の悩みどころではないかと思います。


干害~枯れる原因~

2016年09月04日 | 樹木の病気・森林被害のお話

 大雨警報が出ているところもありますが、和歌山県では、夕立の様な雨は降るものの、基本的に1日中雨という日が、今年は少ないです。

 雨が少ないと、ついつい山を見てしまう。

 木が枯れていないか・・・と。

 

 3年前のように目立つような枯れ木はないものの、所々で木が枯れています。

 (←今年の干害)

Kangai_2(←3年前の干害)

 

 一般的に干害は、夏季で30日間、冬季で40日間、無降水日が続くと発生すると言われています。

 

  3年前は、下層木がしなしなになるくらい酷かった・・・。

 

Kangai_rinnai_2

 

 下層木がしなしなになっていました。

 

 干害は、乾燥害ともいいますが、なぜ、水分が不足すると木は枯れるのか。

 

 

 木は根から水を吸い上げますが、根が水を吸い上げて、葉まで送り届けているわけではありません。(広葉樹では一部「根圧」という作用も働いてますが・・・。)

 水分は、葉の蒸散によって発生する張力と水分子の凝集力によって、梢の先まで送ることができます。

 つまり、葉の蒸散によって、水が梢の先まで引っ張り上げられていると考えてください。

 

 正常な時は、導管が水に満たされているので、何の問題もなく、根から葉まで水分が送られています。

 1_2


 しかし、土壌中の水分が不足すると、その張力によって、樹液に圧力がかかり、その力に水分子が耐え切れず、導管の中に気泡が発生し、やがて、張力に耐え切れず、導管が損傷し、正常に水分を送ることができなくなります。

 減圧によって、導管の中に気泡ができて、根から葉まで水分を送ることができなくなったと考えてください。

2_2

 気泡の発生は、天気が良い日や暑い日が続いたりすると頻繁に起こっているそうです。

 それでも、木が枯れないのは、導管が損傷する前に、雨が降って、回復するからだそうです。

 

 干害は、まず、葉先から枯れて、次第に下部の葉が枯れていく様子が特徴的です。

 あと、枯れた葉の色が少し汚いかな・・・マツ枯れやナラ枯れと比べると・・(主観的なことなので、参考にしないでください

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 しかし、干害によって枯れた木はすべて枯れるわけではなく、広葉樹なら根元などから萌芽(ぼうが、別名:ひこばえ)して、1から再生しようとします

 ただし、残念ながら枯れた部分は復活しません

 あと、スギやヒノキだと、カミキリムシやキクイムシなどを招き、材に被害を与えてしまう場合もあります

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 また、すべての葉が枯れず、一部の葉が枯れずに残る場合もあります。

 残った葉は、無事、導管の損傷を免れた葉だと思います。

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 専門的な分野の話なので、僕も100%正しく認識しているとは言い切れないんですが、まぁ、だいたい合っていると思います。

 まだまだ、実力不足・理解不足の部分があって、申し訳ないです


落雷

2016年02月25日 | 樹木の病気・森林被害のお話

 ヒノキの人工林内を歩いていたら、幹折れしたヒノキを発見。

 被害の原因は・・・?

 周囲のヒノキには、もめなど風による外傷は見当たらず、この1本だけ。

 そして、この1本は、周囲のヒノキよりも樹高が高い。

 ので、「落雷」が原因ではないかと・・・。

 

 ところで、「樹木医学研究(2008 Vol.12 No.1)」に”落雷によるヒノキ人工林の集団枯損被害”という報告があります。

 簡単に要約すると・・・

 ・落雷の中心から周辺に分散した電流が、樹冠全体に流れると全枯れ被害が、一部の枝に流れると枝枯れ被害が起こる。

 ・落雷による集団被害が、時間の経過とともに周囲へ拡大することはない。

 ・ただし、時間の経過とともに半枯れ被害が全枯れ被害に、枝枯れ被害が全枯れ被害に移行することがある。

  この場合は、半枯れ被害木や枝枯れ被害木がマスダクロホシタマムシなどの穿孔被害を受けて、枯損する場合もある。

 とのこと。

 

 さて、問題は落雷による集団枯損被害が受けた後・・・

 落雷被害による枯損木や衰弱木が、マスダクロホシタマムシなどの穿孔性害虫を誘引し、それらが原因で枯損被害が拡大したり、材質劣化を招くおそれがあります。

 なので、落雷被害木を放置しておくと、残存するヒノキを穿孔性害虫を受け、材質劣化を招く恐れもあります。

 そこで、

 ・落雷被害後の材質劣化被害を防止するため、被害木の伐採搬出が有効である。

 ・伐採木の選定は、全枯れ被害木、全枯れ被害木に移行する可能性が高い半枯れ被害木を含むこと。

 を対策として行う必要があります。

 

 ある日、突然!

 スギやヒノキの人工林で集団枯損被害が発生したら、落雷かもしれません。

 もちろん、干害や穿孔性害虫の可能性、人的被害の可能性も否めませんが、落雷が及ぼす被害は単木のみではない場合もあります。