ささやき
「あれは奇跡だった」
そう思えることがいくつもある
屋根から落ちたとき
手術後の大出血のとき
危ない人から手を引いたとき
だれかが傍にいたような気がする
甍をわたる風だったかもしれない
枕もとのカスミ草だったかもしれない
忘れ物に戻らなかったら
百トンの石の下敷き
あのときは
郭公の声だったかもしれない
かたづけられないことは
〈偶然〉でかたづけ
聞こえない声は聞こうとせず
ひとは
風が悲しむのを
雨が嘆くのを
聞き漏らしてしまう
医師はありえないと笑ったが
手術の間
微かにヘンデルの曲が聞こえていた
順調に進んでいることを
ずっとだれかが
囁いてくれていたのだ
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