2019/11/03
10月27日に見た、東京バレエ団の『春の祭典』についてはまだ書いていませんでした。
趣味的になりますが、書いておきます。
ストラヴィンスキーのバレエ曲『春の祭典』、初演は1913年のニジンスキ―振付のものです。発表当時は物議をかもした作品でした。
今回、東京バレエ団の公演で見たのはベジャールの振付けですが、こういうものだったかと驚きました。
独特な動き。でも面白くて目が離せません。野性的な、動物的な、原初の時代の人を感じる。男女の愛の営みが直接的すぎる。ロマンチックな古典的バレエとは全く違った動き、振付が斬新です。
音楽の拍子が不規則、アクセントの入れ方も不規則、演奏も難しいだろうなあ。演じ手も音楽に合わせるのは難しいだろうな~ けれど、武満のように拍が感じられない音楽よりもリズムが明瞭だから、カウントはとりやすいかも、なんて感じながら見てました。
東京バレエ団のサイトには『春の祭典』について書かれたものがあります。振付のベジャールの言葉もあります。
わかりやすいと思いますので、引用させていただきます。
サイト https://thetokyoballet.com/repertory/Maurice-Bejart/the-rite-of-spring.html
〈ストラヴィンスキーの最高傑作であり、現代音楽史上もっとも重要な作品のひとつである『春の祭典』は、太陽神への礼賛と生贄として選ばれる乙女を描いたもので、1913年ニジンスキーの振付によりバレエ・リュスによってシャンゼリゼ劇場で初演され、劇場中が騒然とするほどの賛否両論の激しい反響を呼び起こした。〉
そのニジンスキー版の踊りは、探したら解説付き動画がありました。ベジャール版とは違って、シャーマンの女性が踊るというテーマですが、1913年頃にこんな振付けで踊ったのでは、当時の観客はさぞ驚いたことでしょう。今回私が見たベジャール版とは別物ですが、参考程度に載せておきます。ニジンスキー独特と思われるあのユニークなしぐさもジャンプも出てきます。13分ありますので暇なときにご覧ください。
(引用続き)
〈ベジャールの『春の祭典』は、1959年にブリュッセルで初演されている。彼はストラヴィンスキーの台本を離れ、野性的で官能的な若者たちの肉体と躍動美の"祭典"を創り上げた。この創作にあたっては、発情期の鹿、交尾する鹿を描いた映画からインスピレーションを得たという。その鹿の動きがストラヴィンスキーのリズムにピッタリだったのだ。
ベジャールは人間の欲望、獣性、生きるための闘いを描くことによって、ストラヴィンスキーの音楽を鮮烈に視覚化することに成功した。この作品は年配の観客の眉をひそめさせ、人々はスキャンダルを話題にしようとしたが、男性舞踊手の活躍、シンプルこのうえないボディタイツのみの衣裳、ホリゾントだけの舞台等、さまざまな革新的な試みは、若い観客を中心に圧倒的な支持を得た。これを契機に20世紀バレエ団が生まれ、バレエは古い殻を破って新しい時代へと突入したのだ。〉
〈春とは一体何であろうか? それは冬のマントの下で長い間眠っていた巨大で原始的な力にほかならないそう春は突如として湧き起こり、植物、動物、人間それぞれの世界を、燃え立たせるのである。
人間の愛というものは、その肉体面において、宇宙を創造した神の愛の行為、そして神がそこから得る悦びを象徴している。人間の精神に関する逸話の国境が少しずつ消えてゆき、世界の分化について語り始めることができるときには、普遍性のない民族的情趣はことごとく捨て去り、人間の本質的な力を取り戻すことにしよう。いかなる大陸にあっても、どんな風土であろうと、あらゆる時代に共通の力を。
どうかこのバレエが、あらゆる絵画的な技巧から解き放たれ、肉体の深淵における男と女の結合、天と地の融合、春のように永遠に続く生と死の讃歌とならんことを!(モーリス・ベジャール)〉
東京バレエ団のブログには、今回『春の祭典』の演技指導をした那須野圭右さん(モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督補)のロングインタビューが載っています。このインタビューも興味深いです。部分的に引用させていただきます。
〈ベジャールさんは、本当に音に厳しい方でしたから! 「つま先を伸ばしなさい」「脚を伸ばしなさい」なんてことはいちいち注意されませんでしたが、いつも「音!」「音!」「音!」と。
とくに大事なのは細かい音符です。ダンサーにとって音楽は、聴くだけのものではなくて、聴いて、しっかり理解して、身体で表現するものでしょう。そこには四分音符だけの単純なリズムだけでなく、より複雑なリズムもあるわけだから、耳で聴いて合わせるだけでは表現しきれない。そうならないよう、ベジャールさんの音の取り方がしっかり身体に染み込むよう、厳密に、稽古を重ねています。
──つい群舞の迫力に目がいってしまう作品ですが、実はかなり緻密に組み立てられていますね。
たとえば冒頭、ダッダッダッダッダッダッという音で男性群舞が四つん這いになって跳ぶ場面はすごく印象的ですよね。四つん這いなんて誰でもできる形だけれど、どこをどう気にしながらどんなポジションにもっていくか──。そこをしっかり押さえることで、ぐんと野性味が出て、動物的になり、だからこそ迫力が出てくる。
『春の祭典』では、その動物的な雰囲気がとても重要。ベジャールさんはよく「鼻で探せ!」とおっしゃっていました。まさに、獲物かメスを探す動物の姿です。〉
バレエ団ブログ インタビュー部分 https://thetokyoballet.com/blog/blog/2019/10/post-84.html
ベジャール版の『春の祭典』、東京バレエ団の動画は見つかりませんでしたが、海外の動画はありましたので、リンクを貼っておきます。33分ほどありますから長いですよ。
https://www.youtube.com/watch?v=XedawBHB-uc&t=3s