2022/01/05
朝日新聞に載った反田恭平さんのインタビューが
とても興味深かったので、感想を書いてみようかと思います。
反田さんのようにすでに地位を確立したピアニストが
コンクールに出場するのはリスクがある、と言われてきました。
それをなぜ出場するのかといえば
自分というピアニストをもっと広く世界に知らしめたい。
そして音楽学校を作りたいという夢があるから。
日本には、外国から留学してきてくれるような音楽学校がないので
日本に音楽留学してきてくれるような学校を作りたいと
夢を語っていらっしゃいました。
ここまでのことは私も知っていましたが
さらに、学校を作りたい理由を語っているのが興味深く思われました。
「このコンクールは、僕が12歳の小学生だった頃からの憧れでした。
ただし僕は、コンクールというものと距離を置いてきた人間です。
音楽は、陸上競技のタイムやサッカーの得点と違い、
客観的に1位と分かるものではなく、
新記録のようなものが出る世界でもない。」
「おのれの芸術の価値はおのれで決めたい、という思いがありましたから。」
・・・(私の感想)確かに芸術は点数で決まる競技ではありません。
審査員の解釈、主観の違い、運など
本来、順位や優劣をつけるべきでない分野かもしれません・・・
「仲間たちとオーケストラを立ち上げたのは、
音楽学校をつくるには自前のオーケストラがなにより必要だと考えるからです。
オーケストラで音楽の先輩たちと共に演奏することは、
子どもたちへ演奏の楽しさ、音の豊かさを伝えてくれます」
「少子化も言われる中で、
子どもたちがこれ以上音楽を学ばなくなってしまったらどうするの、
と強く思ってしまうんです。」
「クラシック音楽界に対する焦燥感、
そんな状況をこれまでつくってきた大人への不満が自分にはある。」
「ロシアやポーランドに留学し、日本よりもずっと楽しそうに
音楽教育をしている海外の状況を見てきたことも
影響しているかもしれません。」
「何より僕は、
『あなたが小さいときに音楽を始めた、あのときの楽しい感覚を忘れてしまったの?』と言いたい。
誰しもが子どもの頃、音を鳴らして喜んでいた、あの感覚を絶対に忘れてはいけない。
それを次世代に伝えていくのが、音楽を継承するということだと思うんです」
この後、反田さんは日本の教育
タテ社会のように、自由にモノが言えない状況
権威ある先生に対する忖度のようなものを語っています。
「20代初め、まだデビューしたての頃に見た夢があります。
僕はピアノの前に座っていて、子どもたちが周りにいる。
『先生はなぜそうやって弾くの?』『私はこういう弾き方だと思うんだけど』
と子どもたちと僕が一緒に自由に議論している。
目覚めた後、これが僕のしたいことなのでは、と思いました。
でも、日本の音楽界は腰が重い。現状を少し変えるだけでもけっこう難しいんです」
そして、ピアノを習い始めた小さい頃、
音楽が楽しかった思い出を語っています。
「先生は、いま思えば僕と同じくらいの年齢の男性でした。
でも当時はすごく大人に見えて。
いつも見ていたNHK教育テレビ(現在のEテレ)の番組の司会者に似ていて、
毎週その人が僕にピアノを教えに来てくれるとてっきり思い込んでいたんです(笑)。
習うなら、僕は彼じゃないといやだった。
先生は、まずは好きなように弾いてごらんと言ってくれて、
本当に楽しく教えてもらいました。
これが幼少期の記憶です」
最初の先生の楽しい記憶が音楽好きの原点ですね。
最初の出会いは大切ですね。
「モーツァルトのピアノ曲を弾くときが一番分かりやすいのですが、
僕はあのコロコロとした可愛い音色を出すのに、
楽しい気分だったり、頭の中で野原で駆けっこをしていたりするイメージを
思い浮かべることがあります。
過去の自分自身の楽しい思い出、ちょっとした喜び、悲しさの経験も音楽につながり、
決して押し殺してはいけない。
なので僕は幼いときから、一つ一つの感情、日常の出来事を大事にしてきました」
反田さんがピアノを演奏するときにイメージをしている
ということを、NHKFMラジオで語っていて
そのはっきりしたイメージにビックリしました。
ショパンコンクールの3次予選でも弾いた『英雄ポロネーズ』について。
ラジオを聴いた私のだいたいの要約です。
冒頭の出だしでは
「英雄がいきなり立ち上がって、足踏みする。今立ち上がろうぞ、と言う」
「2回目の同じメロディでは、グラスなどたたきつけたりするかもしれない」
「馬に乗った英雄がスローガンを発言したりする。それに応える群衆がいる」
と、まあ、こんな具合に曲を具体的に言葉で表現しています。
ここまで明瞭な、映像的なイメージがなければ
人に強い印象を与える演奏はできないのだろうなあと思ったのでした。
「僕はほかの誰かのために弾く。
できれば、仲間と一緒にその音楽を伝えたい。
昔からサッカーをやっていたからか、
みんなと一緒に何らかのゴールに向かっていくというのがとっても好きなんです。」
「みんなできゃっきゃと言い合いながら演奏したり、共に時間を過ごしたりしていると、
必然的に音楽のほうが僕らへ近づいてくる。
誰かと触れ合っていると音楽は温かくなります。
それが、僕にとっての理想の音楽です」
(聞き手・稲垣直人)
反田さんがここまで語っているのを聴いたことがなかったから
このインタビューはとてもよかったと思いました。
たくさん引用させていただきましたが
全文はリンク先でお読みください。
英雄ポロネーズについてのイメージについて語っている放送は
NHKの聴き逃しラジオで1月9日まで聴けます。
小林愛実さんもゲストで出演されて、小さい頃のお話も楽しいです。