住職のひとりごと

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令和二年元旦護摩後の法話

2020年01月01日 06時25分19秒 | 仏教に関する様々なお話
令和二年元旦護摩後の法話

明けましておめでとう御座います。今年もこうして皆様の読経を聞きながら、元旦の護摩を焚き新年を迎えることができました。誠に有り難いことと存じます。令和となって最初のお正月、今年の干支は子年であり干支の始まりの年でもあります。子年はネズミが沢山子を産むことから繁盛の年繁栄の年とも言われます。また夏にはオリンピックも東京で開催されることになっており、様々なことの新たな幕開けの年と位置づけられても居ます。

そうした一年のスタートに当たり、この神辺にあって、私たちはいかにあるべきか、生きるべきかと考える訳ですが、そう特別なこともなくただ地道に生きるしかないのだとは思いますが、できれば徳を積み、何かあるときその功徳によって少しでも良い方向に因果が転んでくれる様に願うことが一番であろうと思うのです。

ところで、奈良に天武天皇開基の藥師寺という大きなお寺があります。近年高田好胤さんというテレビマスコミでも活躍された有名な管長さんが居られ、全国からくる修学旅行者にマイクもなしで毎日法話され、百万巻の写経により金堂や塔を再建されましたが、そのお師匠さんに橋本凝胤老師という、この方もいろいろな文化人と討論したりして、また当時の奈良仏教界の金看板の様な高僧といわれるほどに傑出した学僧が居られました。昭和十四年に藥師寺の住職となり、四二年に好胤師に後を頼み、五三年に八二歳で遷化されています。

この凝胤老師が晩年に開山されたお寺があります。丁度五十年前のことになりますが、長野県蓼科に聖光寺というお寺が開創されています。この寺は交通安全と交通事故による死者への供養と負傷者の回復を願う特別な寺で、創られたのはトヨタ自動車販売の初代社長の神谷正太郎さんという方です。この人は、トヨタ自動車系ディーラーの礎を一代で築き上げ、その豪腕から「販売の神様」と称された方ですが、昭和四十年代、戦後の高度経済成長を牽引する自動車産業の中にあって、性能の良い車を作れば作るほど沢山の交通事故が起こる、どうすべきかと考え、藥師寺の橋本凝胤老師を訪ね相談した所、公表せずに寺院を建立し供養しなさいと言われ、全国のトヨタの関係会社から寄付を募り、蓼科に寺院を建立されたのです。そして今日迄、年に二日幹部役員が集合して交通事故死者の供養をし、交通安全を祈願して藥師寺管長の法話を聞くということを毎年続けているのだそうです。

だからこそ今日のトヨタの繁栄もあるのかとは思いますが、そのことに共鳴したのが、ギル・プラットという方です。現在世界の自動車業界はAI等を駆使した自動制御システムの先端技術の粋をこらした技術開発競争のまっただ中にありますが、この方は平成13年5月アメリカのマサチューセッツ工科大学の電気工学・コンピューターサイエンス准教授、平成13年9月オーリン工科大学電気工学・コンピューターサイエンス准教授、平成18年1月同校電気工学・コンピューターサイエンス教授、さらに平成20年9月同校副学長Faculty Affairs and Research担当を経て、平成22年1月には米国国防総省国防高等研究計画局国防科学戦術技術室ロボット工学および神経形態学的システムプログラム・マネージャーなどを歴任した、ロボット工学、またAI研究の第一人者であるとのことです。

当然のことながら世界中の自動車製造各社から自動運転の技術構築のために引く手あまただったそうですが、この聖光寺の話を聞かれ、トヨタに協力することを申し出られたのだとか。今では、人工知能技術に関する先端研究、商品企画を目的として平成28年1月にトヨタ自動車により設立された研究所であるトヨタ・リサーチ・インスティチューションのCEOとなってトヨタの事故を起こさないクルマ作りのために、運転者を補助する自動運転技術の開発、さらにはクルマと次世代の都市空間の創造のために新たな試みが進められているのだとか。

これによって今後もトヨタは世界の企業の中で重要な位置を確保していくことと思われますが、私たちも、人知れず陰徳を積んで、いざというときに新たな飛躍を遂げられるべく日々地道に努力することを大事にして今年も精進してまいりましょう。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

(参考文献・令和元年十二月号大法輪リレー講演・中央大学保坂俊司教授「罪としての労働と慈悲行としてのはたらく」)

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