活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

田中一光さんの「光朝」書体

2012-01-15 16:20:57 | 活版印刷のふるさと紀行
 田中一光ポスター展にはGGGとモリサワのポスターがたくさん出展されて
おりました。GGGは場所柄わかりますが、田中さんはモリサワでも長い間
いい仕事をたくさん残されていたからにほかなりません。

 その中でひときは目立ったのが、『光朝』のポスターでした。
 光朝(こうちょう)は田中さんがモリサワのためにつくったフォント(活字書体)
です。デザイナーがフォントを設計するというのは大変なことです。一朝一夕にで
きることではありませんからかなりの歳月がかかっているはずです。

 いわゆる明朝体ですが、字体の鋭さ、力強さ、繊細さから、田中さんが長年ポスター
制作の上で日本文字の書体選択で苦労され、自分で書体設計に挑戦され、その蓄積が
『光朝』を生んだと容易に想像がつきます。


 海外の印刷物、とくにポスターを日本のポスターと見比べると、どうしても日本の
方がスッキリしないように感じます。その理由が絵柄や写真ではなしに、タイポグラ
フィ、書体にあることははっきりしています。
 漢字とかな、それもカタカナとひらがな、さらに数字や英文字までを処理しなくては
なりませんから頭が痛いこと請け合いです。

 と、ここまで書いて私にも頭の痛いことが発生しました。パソコンの操作ミスで
毎回、1枚ずつ入れているブログの写真が全部消えてしまったのです。画像フォルダ
からもピクチュアからも。
 gooにはデータが保存されているはずですが、アタマが真っ白です。




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田中一光ポスター展とシェリー酒

2012-01-15 11:33:46 | 活版印刷のふるさと紀行
先週末、ギンザ・グラフィック・ギャラリーの「田中一光 ボスター1980-2002」を観て
来ました。没後10周年記念企画とありましたが、あの訃報を聞いたときの驚きを今でも、
まざまざと思い出します。

亡くなられたのが2002年の1月10日,私がそれを知ったのは翌朝いちばんで同じビルに仕事
場を持っていたイラストレーターの杉浦範茂さんからの電話でした。受話器を持ったまま暫く
茫然自失でした。
「お倒れになったところが悪かった、人目のあるところで病院へすぐ搬送出来たらよかった
のに」、彼も口惜しそうでした。

私が田中一光さんと仕事の上で最初にお世話になったのは大阪万博のときで、実際に親しく
毎月、ご指導をいただくようになったのは1986年からでした。こんどの展覧会は、円熟期の
作品150点が展示されていますが、時期的に重なっていますのでどの作品にも懐かしさや親し
さを感じ、あれこれ、在りし日の田中さんとのやりとりを思いだしながらゆっくり見ることが
出来ました。

なかでも1990年スペイン、マドリッドで行われたコンプリント(印刷・出版・放送などの国際
会議)に 協賛して開催されたジャパンプリント日本ポスター展のポスターの前では釘付けにな
ってしまいました。

あの夜を思い出したからです。湾岸戦争が終わったばかりのときでしたがなんとか事前交渉も
うまく行ってオープン前々日に会場設営に乗り込んだところ、田中さんと伊東順二さんが荷解き
をしてポスターパネルを床に並べ始めていてくださるではありませんか。

遅れをとって恐縮していると、「いやいや気にしない、1日早く着いたものだから。手伝うから
飛びきりのシェリーをご馳走してよ」
そのポスター展は田中さんの口添えもあって日本の第一線デザイナーの作品を網羅して、最新の
印刷技術を使った作品ばかりでしたから恐らく心配だったのではないでしょうか。

シェリーといえばマドリッド到着その夜に田中さんはお気に入りを見つけられたようでした。
銘柄を忘れてしまいましたが熟成の利いた濃い赤でちょっと辛め、すきっとした斬れ味でした。
イベリコ豚を肴に田中さんを囲んで盛り上がったあの夜は昼間の設営風景とともにわすれられ
ません。

作品制作だけではなく、周辺のあらゆることに神経を行き届かせておられたのが田中一光さん
だったと思います。


田中さんはシェリー酒がお好きでした。銘柄を思い出せませんが、マドリッド滞在中にとくに
愛飲されたのがありました。熟成が利いた濃い赤のジェリーをイベリコ豚を肴におおいに夜遅く
まで楽しんだあのだのことは忘れられません。
お勘定は田中さん持ちでした。ことごとさように、田中さんは作品制作だけではなく、あらゆる
ことに神経を行き届かせる人でした。





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