おもしろい本に出会いました。著者の鮫島純子さんは存じ上げませんが、1922(大正11)生まれとありますから、たしかに日本のあのころを思い出し、いまを見つめ、これからを憂うにはぴったりの人生の大先輩です。
この本を棚に並べるときおそらく「どのコーナーにしようか」と書店の係員さんは迷ったとおもいます。「絵本かな?」、「児童書かな?」、「育児書かな?」 私にはそこも魅力でした。押し付けがましさなんか微塵もなくて、おもしろくて、達者な絵で知らず知らずに昔の暮らしから今の生活を考えさせてくれるのです。
たとえば、昔の主婦が背中に子供をくくりつけて、寒くて暗い土間でかまどに火吹き竹で火をおこしている絵、隣りには彼女が井戸から汲み上げて運んだ水の入った水がめが書き込まれていますし、鰹節削りのショットもあります。おそらく明治・大正・昭和のある時期までの日本の家庭の朝の風景、匂いも、音も、温度さえ伝わって来ます。その横に今のオートマチックだらけのキッチンが書き添えられています。
この本を囲んで親子3代、あるいは2代が話に花を咲かせている光景、あるいは、「そうだった、そうだった」と昔を懐かしみながら絵に見入っている年配者が目に浮かぶような気がする本です。