活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

ルリユールは製本工芸の粋

2012-05-16 15:42:49 | 活版印刷のふるさと紀行

 桜が終わったあとの雨に煙る千鳥ヶ淵の青葉は美しい。九段下から会場のギャラリー「冊」へゆっくり歩いたのでした。本日の神田川大曲塾印刷文化研究会は製本工芸の粋ともいうべき「ルリユール」がテーマ。
 たまたま、「冊」で開催されている『ルリユール、書物への偏愛』Les fragments de Mの会場でこのレ・フラグマン・ドゥ・エムの羽田野麻吏・市田文子・平まどか・中村美奈子の作家から講義を受け、制作実演を見せていただこうという企画でした。

 ルリユールというと、すぐに栃折久美子さんを思い浮かべますが、もともとはヨーロッパ生まれの伝統的な製本工芸で、栃折さんの活躍もあって日本でもルリユール製本を学ぶ人や愛好家の数がかなり多いようです。といっても愛書家が自分だけの本を自分の好みで作家の先生に依頼して贅沢な素材を加工して特製本につくりあげるのが普通ですからだれでもオイソレとはいきません。

 この企画展は6月9日までですから仔牛皮や羊皮紙、鮫皮、竹や木材、貝、布などあらゆる素材を使って本の内容にマッチした美しく、繊細で、精緻な製本の出来あがりを見ていただくことにして、研究会で私の印象に強く残ったことを記すことにします。

 まず、第一は活版印刷の退潮が日本のルリユールに大きな影をおとしているという話。たとえば革の本の背に書名の文字を金箔押しするとします。大量に製本する場合ならば真鍮などで特注することも出来ましょうが、1冊だけの場合は活字を使うのが便利です。ところが、いまは、書体や大きさを指定して希望の活字を手に入れるのが難しいのです。「鈴木宗夫さんの経営しておられる名古屋活版地金精錬所なら活字のストックも多いし、ベントン式彫刻機を使って母型製作から活字の製造までしてもらえるのでお願いしていますが、活版不況で廃業されてはと心配です」と羽田野さん。

 また、中村美奈子さんに見せていただいた箔押しの手作業には目を奪われれました。バーナーで熱した真鍮製の道具をふりかざして、足を踏ん張り、息をつめてまっすぐに、均一な力で飾り罫の箔を皮革につけて行くのは大変でした。それに息がふりかかるだけで薄い金箔が飛んでしまうので、神経を張りつめねばなりません。「もうちょっと体力がほしいと思われたでしょう」といったら中村さん「たしかにヨーロッパでは男性の仕事になっています」と。


 

 





 

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