今回は、パトリシア・A・マキリップの『オドの魔法学校』をご紹介します☆
十代のころに、すでに人生に見切りをつけ、将来は世捨て人になろうと決心していたという作者。
彼女の作品との出会いは、1975年に第一回世界幻想文学大賞長編部門賞に選ばれた『妖女サイベルの呼び声』が初めてでした♪
人里はなれた館で、古の書籍に囲まれ、巨大な黒猫のモライアや、みごとな毛並みのライオン、ギュールスといった幻獣たちと暮す少女サイベル。
あらゆる謎(リドル)の答えを《ただ一つを除いて》ことごとく知っているという、赤い目をした猪、サイリンなど、魅力的なキャラクターと共に、その美しい文章、幻のようなストーリーに夢中になりました☆
彼女の描く「魔法」は、他の作家さんの魔法とは少し違います。
吟遊詩人の語る物語。
針と糸の魔法。
踊り子たちのスカートがクルクルと回り、魔術師の杖からはめくらましと夢幻の奇跡が次々と飛び出す。
剣と剣の戦いはありません。
あるのは、人の心の生み出す夢と疑い、喜びと恐怖、人を愛する気持と哀しみ…
北の大地で暮すブレンダンは、山を歩き、植物と語る青年です。
ある冬に村を襲った病のため、村人が次々と倒れる中、病に効く薬草を集め、必死で看病し、そのおかげで村人の多くは助かるのですが、彼の両親は亡くなってしまいます。
それ以来、心を閉ざし、身なりにも注意を払わず、哀しみという幽霊と共に暮す彼は、人を避け、一人植物の中に身を置くようになります。
弟も、恋人も彼のもとを去り、孤独に暮すブレンダン。
そんな時に、オドと名乗る女が彼を訪ねて来ます。
「靴屋の靴の下にある扉を捜すといい」
庭師として彼を雇いたいというオドの申し出を受けたブレンダンは、大きな都の靴屋の靴の下に看板を見つけます。
「オド魔法学校」
禁じられた魔法。
王のための魔術師たち。
歓楽街に現われ、人々を熱狂させる興行師の一座。
そして、父親の決めた婚約者に腹を立ててお城を飛び出す元気なお姫様。
よく小さな子どもを前にして、その子の齢を本人に訊かずに周りの大人に訊く人がいますね。
「あら、大きくなったわね、いくつ?」
このお姫様の婚約者も、お姫様を前にして、本人のことを本人以外の人に訊ねたりするのです。
「わたくしは目に見えない存在なのね。まったく無視して話をするんだから。あなたは同じ屋根の下にいてもわたくしをちゃんと見ようともしないし、それどころか同じ部屋にいても―」
こういう元気な女性好きです♪
若い頃に世捨て人になろうと決心していた作者も、いまやファンも多いベテラン作家となり、人付き合いもしなくちゃいけなくて、ずいぶん頭にくることもあったのではないかと、勝手に想像してしまいました☆
書物に囲まれてひっそりと暮すことにも憧れますが、やっぱり一人じゃ自分の考えたこと以上のものは生み出せないですからね。
しかし、異質な物を恐れ、迫害しようとするのもまた人の弱さ。
人は安心していたいもの。
でも、そんなことはもともと無理。
不安でいることに安心しないと、心が固まってしまう…
”先のわからない未来を迎え入れる”
なんといっても魔法学校の創設者、オドのキャラクターがいい♪
壁に囲まれた魔法学校に疑問を持つ魔術師や、歴史を知るため図書館に入り浸る素敵な歴史学者の女性。
破れた踊り子の靴を繕う、街で興行を行う魔術師の娘など、他にも魅力的なキャラクターがいっぱい☆
ストーリーの派手さはありませんが、落ち着いて読むのにはぴったりの魔法の本だと思います。
雨の多いこの季節。
植物の薫りを感じながら、じっくり魔法の世界にひたってみるのはいかがですか?
パトリシア・A・マキリップ 著
原島 文世 訳
創元推理文庫