「今日、母が死にました。」
この文章を読んだ時、この作品は私の中で確かな居場所を得ました。
きっと、忘れられない本の一冊になるでしょう。
今回は、トーベ・ヤンソンさんの短編集の中から、『往復書簡』という作品をご紹介したいと思います☆
「ムーミン」の作者として知られるトーベ・ヤンソンさん。
画家でもあり作家でもある彼女には、「ムーミン」の他にもたくさんの作品があるんですよ。
この作品もその中の一つ。
日本人の十三歳の女の子、タミコが書き送った、作者ヤンソンさんにあてた8通のファンレター。
最初は子供らしい、「ヤンソンさんが好き☆」という真っ直ぐな気持が、慣れない英語で書いたと思われるたどたどしい文章で綴られます。
あなたの作品が好きです。
あなたの生き方に憧れます。
会いに行くために今英語の勉強をしています。
ちょっとひとりよがりなところもあるタミコの思いは、ファン心理とでもいうのか、恋した時に訪れる一種の熱病みたい☆
ヤンソンさんからの返事をもらったらしい文書の中では(ヤンソンさんからの手紙は登場しません)、まさに有頂天♪
この登場しないヤンソンさんからの手紙もすごく気になりますが、もっとすごいのは、登場しないのにヤンソンさんからの返事を自分もなぜか読んだ気になってしまうところです!
何が書かれていたのか、タミコの文章から想像できてしまう♪
これは「ムーミン」シリーズを読んで私自身がヤンソンさんのファンだからなのか、この作品にそれだけの力があるのか、正直わからないのですが(自分のことはよく見えないものですから)、他の人が読んだらどんな感想を持つのか知りたいところです。
やがて、手紙の中では年月がたち、成長し、環境も変わってきて、しだいに心の中に成熟した感情を持ち始めるタミコ。
文章自体はとっても短く、たった10ページたらずの作品なのに、そんなことまで表現してしまうトーベ・ヤンソンさんの文章力には驚かされます。
眩しく、キラキラと輝くような、将来を夢見る少女の思い。
夢に向って努力するひたむきな若い力。
悩んだり、迷いながら生きているタミコの心に、読んでいて「うわぁ」と叫びたくなりました。
うわぁ、うわぁって。
この叫びは、年老いてしまった私の心の叫びです(苦笑)
まぶしい~
そしてタミコからの最後の手紙。
その文章を読んで、「生きる」ことの共感があふれてきました。
すごくわかる!
心が苦しくなるけれど、そうしなくちゃいけない時があるんだ。
そういう思いを抱えて生きていくんだ!
一つ一つの言葉がすごく研ぎ澄まされていて、すごくストレートに心に届いてきます。
せつなさ、やさしさ、…愛するということ。
小さくて、とても心に残る作品です。
この作品は筑摩書房から出ている「トーベ・ヤンソン・コレクション」(全8巻)の中の『軽い手荷物の旅』という短編集の中に収録されていますが、今回は「コレクション」の中から傑作選として新たに編集された『トーベ・ヤンソン短編集』という文庫本に再録されたものを読みました。
その中に納められた物では他に『カリン、わが友』と『愛の物語』が好きです。
言葉ではどこがいいのかうまく言い表わせないところが好きです。
自分の心みたいに。
「ムーミン」以外のトーベ・ヤンソンさんの魅力。
あなたにも機会があったらぜひ触れて見て下さい。
形のないものを形にする。
そんな魔法をぜひ体験して欲しいから♪
そして、「ムーミン」ファンの方にもぜひ☆
トーベ・ヤンソン 著
冨原 眞弓 編・訳
ちくま文庫
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