ヒロインは主人公の添え物?
悪者に連れ去られ、勇者が助けに来てくれるのをひたすら待つ、か弱くも美しい存在?
しずしずと廊下を歩き、やさしく微笑むだけですべてが解決してしまう。
むかしから、どうもそういう物語は苦手でした。
同じような理由で、主人公がやたら強くて、勇敢で、いつも正義を行う勧善懲悪も、ちょっと苦手。
まぁ、「水戸黄門」みたいに、あそこまでパターン化されると、それが楽しいということもありますが☆
「白雪姫」や、「眠れる森の美女」も、だからいま一つ気乗りしない。
「寝てる場合じゃないわ!」と飛び起き、魔女に一言いいに行くぐらいじゃないと(笑)
まぁ、夢があってあこがれる気持ちはわかりますがね。
それに比べ、日本の古典には可笑しな物語がたくさんあります。
「源氏物語」に代表される恋愛物語。
継母にいじめられている落窪の君(女性)が、ついには左近少将の正妻になって、継母に復習をするという「落窪物語」。
男女それぞれが姿をかえて育てられた姉弟が、紆余曲折の後、もとの性に戻って幸せになるという「とりかえばや物語」、などなど☆
菅原孝標女が書いた「更級日記」には、みずから進んで衛士(皇居を守る兵士)に盗み出され、当時ド田舎の武蔵の国(現在の埼玉、東京のあたり)で、幸せに暮らしたお姫様の話が出てくるそうです。
なんてかわいいんだろう♪
さて、今回ご紹介するのは荻原規子の勾玉シリーズの三作目。
この「更級日記」のお姫さまから着想を得たという『薄紅天女』をご紹介します☆
時は奈良の平城京から、長岡に遷都したばかりの頃。
平安時代にさしかかるほんの少し前。
舞台は坂東(関東地方)。
馬たちに囲まれ、牧場を駆け回る、少年と呼ばれる年頃からは少し抜け出しつつある二人の若者が今回の主人公☆
”すべての”女の子に優しく接するため、村の娘たちから人気がある反面、浮気も絶えない女泣かせの若衆、藤太(とうた)と、女の子はすべからく無視して歩き、そのストイックさからこれまた人気の高い猫っ毛の阿高(あたか)。
優しい笑顔と、涼やかな横顔
幼い頃から兄弟のように共に育ってきたこの二人は、”二連”と呼ばれて、いつでもどこでもほとんど一緒。
二人の絆の深さには、見つめる女の子たちがおもわず嫉妬するほど!
その姿かたちに加え、二人は土地の有力者の血縁のため、村の若い娘たちの注目は、いやおうなく、この双子のような同い年の叔父と甥に集まってしまうのです。
まさに二つでひとつの魂を分け合っているみたいなこの二人がとってもいい♪
なにもかもが未開拓で、人間が他の生き物たちと共存している世界。
馬が走り、野山が広がり、若者達が恋人を求めて祭りに興じる。
古代の生活って、質素で原始的だけど、人間も野性的で純粋で、ほんとに生き物って気がします☆
そんなある日、仲の悪い隣の日下部一族の娘で、箱入り娘の千種(ちぐさ)に目を付けた藤太は、春祭りの相手に選んでもらおうと、もめごとになるのもかまわず、阿高と二人で、こっそりと日下部の土地に忍び込みます。
大胆でケンカをおそれないのも二人の特徴☆
でも、実は藤太には、阿高に言えない阿高自身の持つ秘密があったりします。
やがてその小さなヒビは、二人の間に入ってきた千種の存在で、より大きなすれ違いへと…
阿高の父であり、藤太の兄でもある勝総(かつふさ)が、蝦夷の地(現在の東北地方)で死んだということ。
そして阿高の母が誰なのか、家の者がクチにしないこと。
そして、一族に代々伝わる勾玉の存在。
自分はいったい誰なのか?
そんな疑問が心の中に生まれた時、阿高の前に、自分を女神の生まれ変わりだと告げる、見知らぬ男達が現れるのでした。
舞台は坂東、蝦夷、そして大津、伊勢、最後には長岡の都へと移っていきます。
途中、まだ大将軍になる前の、坂上田村麻呂と出会ったり、蝦夷の頭領アテルイと馬を並べたり、オオカミになったり(!)、馬になったり(!!)と大忙し☆
「ここへ帰ってきて、わたしたちの武蔵に帰ってきて」
千種に見送られ、いなくなってしまった阿高を見つける旅に出る藤太。
はたして、藤太は阿高を取り戻すことができるのか?
そして、やがてこの二人が出会うことになる、男の子の衣装に身を包んだ女の子、苑上(そのえ)…
怨霊のばっこするようになってしまった都で、物の怪のために祖母と母を失った彼女は、皇(すめらぎ)の血を引く高貴な生まれ。
しかし、姫皇子として、奥の殿でみんなに守られ、ひっそりと暮らすことに息苦しさを感じていた彼女は、いままた危険にさらされている兄弟たちを救おうと、おしとやかな女性の着物を脱ぎ捨て、勇敢に立ち上がります。生きている証を手に入れるために。
この苑上も魅力的なキャラクターです♪
勢い込んで飛び出したとはいえ、やっぱりそこはお姫様育ち。
口をひらいて出る言葉は「おなかが空いた。足が痛い」「疲れた。のどが渇いた」
と、こればっかり(笑)
慣れない山歩きに、野外での生活。
悲鳴をあげる体をひきずり、時にひとに利用され、傷つきながらも、彼女がたどり着いた驚愕の真実。
輝の血を受け継ぐ皇(すめらぎ)の一族がもたらした物の怪の闇の正体とは?
そして、阿高との出会いがもたらすものとは?
阿高がいい!
藤太がいい!
苑上もいい!
でも、お気に入りは千種なのさ♪
どうして荻原さんの描く登場人物はこんなにも魅力的なんでしょう?
勾玉シリーズとなっていますが、作者も書いているように、これだけでひとつの物語になっています。
過去でもなく、未来でもなく、たった一度きりの人生を精一杯生きている主人公たちが魅力的なんです☆
物語を読んで、興味を持たれた方には、謀反の疑いをかけられ、飲食を断って36歳で死去した早良親王(さわらのしんのう)のタタリの話や、藤原仲成らによって服毒自殺に追い込まれた伊予親王(いよしんのう)の悲劇。
神野親王(かみのしんのう)から即位して名前を改めた嵯峨天皇の話など、物語に登場する実際の人物たちの物語を、調べてみるのも面白いですよ♪
もっとも、こんなこと全然知らなくても、充分に楽しめることはもちろん請け合い!
どうぞ、楽しい時間をお過ごし下さい☆
やっぱり人生は、自分の力で切り開かなきゃね♪
荻原 規子 著
徳間書店
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