永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(313)

2009年03月01日 | Weblog
09.3/1   313回

【行幸(みゆき)の巻】  その(11)

内大臣はお聞きになって、

「いとあはれに、珍らかなることにも侍るかな」
――まことにあはれに思いがけないことを伺う事もあるものですね――

と、涙にくれながら、

「(……)今かくすこし人数にもなり侍るにつけて、はかばかしからぬ者どもの、かたがたにつけてさまよひ侍るを、かたくなしく見苦しと見侍るにつけても、またさるさまにて、数々に連ねては、おはれに思う給へらるる折に添へても、先づなむ思ひ給へ出でらるる」
――(あの当時からどうなった事かと探しておりましたことは、何かのついでにか、心配のあまりちょっとお話申した気がいたします)私も今はこう人並みの地位についておりますと、取るに足りない子供たちがあちらこちらに、うらぶれておりますのを、浅ましくも恥ずかしい事と思いまして、またそのような者を拾い集めて育てたりいたしますにつけても、先ず思い出されるのは、あの娘のことでございました――

 お二人は、あの頃の打ち解けあった雨夜の品定めを思い出しては、泣いたり笑ったりなさって、別れがたく、めったに心弱いところをお見せにならない源氏も、酒酔いのせいでしょうか、涙をお流しになります。

「大宮はたまいて、姫君の御事を思し出づるに、ありしにまさる御有様いきほひを見奉り給ふに、飽かず悲しくてとどめがたく、しほしほと泣き給ふ。あまごろもは、げにこころことなりけり」
――大宮はまして、亡くなられた御娘の葵の上を思い出されて、婿であった源氏の、あの当時以上のご立派さをお見上げするにつけても、限りなく悲しく、こらえかねて、しおしおとお泣きになります。尼姿のお袖が涙でぬれて乾く間もないのでした――

◆はたまいて=はた、まいて=(大宮)は、ましてのこと

ではまた。