永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(316)

2009年03月04日 | Weblog
09.3/4   316回

【行幸(みゆき)の巻】  その(14)

 末摘花のお祝いの品々は、

「青鈍の細長一襲、落栗とかや、何とかや、昔の人のめでたうしけるあはせの袴一具、紫のしらきり見ゆる、霰地の御小袿と、よき衣箱に入れて、つつみいとうるはしうて奉れ給へり」
――青鈍色の細長を一重ね(お祝い事には似合わぬ色)、落栗色(落ち栗色の紅黒色)とか何とか、昔の人が珍重した袷(あわせ)の袴を一式、紫が古びて白っぽく見える霰地(あられぢ)の小袿とを、立派な衣箱に入れて、ものものしく包んでお贈りになりました――

 添えられたお文には、

「知らせ給ふべき数にも侍らねば、つつましけれど、かかる折は思ひ給へ忍び難くなむ。これ、いとあやしけれど、人にも賜はせよ」
――お見知りいただく程の身でもありませんので、ご遠慮いたすべきでございますが、このような折には素知らぬふりを、いたしにくうございます。これはお目にかけます程の品でもございませんが、お付きの者にでもお下げくださいまし――

 と、たいそう大様に書いてあります。源氏はご覧になって、ひどく呆れて例のとおり馬鹿馬鹿しいほど律儀なことと、お思いになり、お顔を赤らめなさって、

「あやしき古人にこそあれ。かくものづつみしたる人は、引き入り沈み入りたるこそよけれ。さすがにはぢがましや」
――困った昔者よ。こういう内気な人はいっそ引っ込んで出て来ないのが良いのですよ。まったく私までが恥ずかしい――

 とおっしゃって、「しかしお返事だけはさし上げなさい。亡き父君がたいそう大事に可愛がっていらしたことを思い出すと、低く扱ってはお気の毒な人なのです」と玉鬘にお言いつけになります。

また、小袿の袖の中に、例のお定まりの歌がありました。

「わが身こそうらみられけれから衣君がたもとになれずと思へば」
――あなたに親しむことができないと思いますと、自分の不運が恨めしゅうございます――

◆ものづつみしたる人=物慎み=物事をつつみ隠すこと、遠慮深い人

◆写真:青鈍色

ではまた。