永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(325)

2009年03月14日 | Weblog
09.3/14   325回

三十帖【藤袴(ふじばかま)の巻】 その(3)

 夕霧は、あの野分(のわき)の朝そっと拝見した玉鬘のご器量が忘れ難く恋しいのを、これまでは、姉との間ではとんでもない事とお思いになったのでしたが、姉弟ではないとはっきりしました今は、一層じっとしていられぬ思いにかられております。

「人に聞かすまじと侍りつることを聞こえさせむに、いかが侍るべき」
――誰にもお聞かせせぬようにとの、お言葉を申し上げるのですが、いかがいたしましょう――

 と、意味ありげにおっしゃって、お側の女房たちを退けます。その上、源氏からのご消息とは違うことをおっしゃる。それは、

「上の御気色のただならぬ筋を、さる御心し給へ」
――帝の思し召しが普通ではありませんから、ご用心なさい――

とのことでした。玉鬘がそっと溜息をおつきになるご様子は、またいっそう可愛らしく、又やさしくも見えて、夕霧は胸がいっぱいになるのでした。

 除服(喪服を脱ぐ儀式)には、賀茂の河原へお伴いたします。と夕霧がお誘いしますが、玉鬘は、

「たぐひ給はむもことごとしきやうにや侍らむ。忍びやかにてこそよく侍らめ」
――貴方がご一緒に行かれるのは大げさです。目立たない方が良いでしょう――

 喪服の理由を人に知られない様にとの、さすがに賢いお考えです。

 夕霧は、この機会にと蘭(らに・藤袴)の見事なものを持っていらしていて、御簾の端から差し入れて、「これも二人にはゆかりの花です、ご覧ください」と、おっしゃりながら、ついでに、玉鬘のお袖を引っ張って、夕霧の(歌)、

「おなじ野に露にやつるる藤袴あはれはかけよかごとばかりも」
――あなたも私も同じ大宮の喪に服しているのですから、私の恋を少しでもあわれと思ってください――

 ほんのわずかな情けでもかけてください、とのお歌に、玉鬘はまことに疎ましく、素知らぬふりで、そっと奥へ引き入りながら、玉鬘の(歌)

「たづぬるにはるけき野辺の露ならばうす紫やかごとなまし」
――もとを訪ねれば遠い御縁(いとこ同志)ということで、ゆかりという程ではありませんでしょう。(こうしてお話をします以上に深い訳があるまいと存じます)――

 とおっしゃる。

追いかけるように、夕霧は言葉をつくして、くどくどと申し上げているようでしたが、

「かたはらいたければ書かぬなり」
――あまりに聞き苦しいようですので、書き留めないことにします――

◆かたはらいたし=はたで見てい居てもにがにがしい。いたたまれない。みっともない。

絵:喪服の玉蔓と夕霧  Wakogennjiより


源氏物語を読んできて(除服)

2009年03月14日 | Weblog
除服

 服喪に用いた一切を脱ぎ棄てます。『平安時代の儀礼と歳時』 によりますと、この除服の潔斎の際には、これまで使っていた鈍色の喪服の他に、扇など一式を祓わせたと
いうことです。

◆写真:御帳台が黒で覆われています。そろそろ女房が、除服後のお衣装を準備しているところ。風俗博物館