永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(320)

2009年03月09日 | Weblog
09.3/8   320回

【行幸(みゆき)の巻】  その(18)

 蛍兵部卿の宮は、

「今はことつけやり給ふべき、とどこほりも無きを」
――裳著のお済みになった今は、結婚を延ばされる口実は無いと存じますが――

 と、繰り返し源氏に申し上げていらっしゃいますが、

「内裏より御気色ある事かへさひ奏し、またまた仰せ言に従ひてなむ、異ざまの事はともかくも思ひ定むべき」
――帝から尚侍(ないしのかみ)に奉るようにとのお言葉を頂いていますのを、帝にもう一度お伺い申し上げてその上で、他のことは決めていきましょう――

 と、源氏はご挨拶なさいます。

一方内大臣は、仄かな灯影でご覧になった玉鬘に、もう一度お逢いしたいとお思いになります。玉鬘が少しでも見苦しいところがあるなら、あれほど源氏が大切にはなさる筈はあるまい、今となってはあの夢占いが本当だったとお分かりになったのでした。このことを、実の御娘であります弘徽殿女御だけには、はっきりと申されたのでした。

ですが、

「世の人聞きにしばしこのこと出ださじ、と、切に籠め給へど、口さがなきものは世の人なりけり、自然に言ひ漏らしつつ、やうやう聞こえ出でくるを、かのさがな者の君聞きて、女御の御前に、中将、少将侍ひ給ふに出で来て」
――内大臣は、世間の噂にならないようにと、しばらくは玉鬘のことは黙っていようと、一切内密になさっておりましたが、口さがないのは世の常で、自然に口をすべらすこともあって、あちらこちらに噂が漏れて、だんだんその噂が評判になってきましたのを、あの困り者の近江の君が小耳にはさんで、女御のお前に、柏木中将や弁の少将が伺候されていらっしゃるところに来て――

 「殿は御女まうけ給ふべかなり。あなめでたや。いかなる人、二方にもてなさるらむ。聞けばかれも劣り腹なり」
――御父上(内大臣)には、御娘がおできになったそうでございますね。まあ、結構なことですこと。なんという幸せな方でしょう。源氏とおっしゃる太政大臣と内大臣のお二方に大事にされておいでになるとは。それもやはり身分の低い女の産んだ方だと言うではありませんか――

 と、考えも無しに言いだしますので、女御は聞き苦しいと思われて何もおっしゃらない。柏木中将が、

「しかかしづかるべきゆゑこそものし給ふらめ。さても誰が言いしことを、かくゆくりなく打ち出で給ふぞ。物言いただならぬ女房などもこそ、耳とどむれ」
――そのように大切にされる理由がおありなのでしょう。それにしても誰に聞いて、そんなことを出し抜けにおっしゃるのか。口さがない女房などが聞きつけると困りますよ――

◆かへさひ奏し=返さし奏す

◆さがな者の君=たちの悪い人、手に負えない人、近江の君

◆給ふべかなり=給ふべかるなり=給ふべかんなり。…はずだそうだ。

ではまた。