永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(329)

2009年03月18日 | Weblog
09.3/18   329回

三十帖【藤袴(ふじばかま)の巻】 その(7)

 髭黒の大将は好色めいた点はない方ですが、このたびの玉鬘に対しては、ひどく熱心に恋い焦がれておいでになります。内大臣も自分を無視なさっておらず、玉鬘は宮仕えに気が進まぬご様子であることも漏れ聞いていて、源氏のお気持ちだけが問題のようだと考えて、

「まことの親の御心にだに違はずば」
――実の親でいらっしゃる内大臣のお心に反しないならば、大事ない――

と、玉鬘の侍女の「おもと」に、しきりに二人の仲を取り持つように催促なさる。

 九月に入って、初霜が降りて何となく心がそそられる朝、いつものようにそれぞれのお取り持ちをする女房たちが、そっと目立たぬように持ってくるお文のそまざまなのを、
女房が読んで差し上げるのをお聞きになっていらっしゃる。髭黒の大将からも、兵部卿の宮からも、そのほかからもお文を頂いた中の、兵部卿の宮へのお返事だけを、何とお思いになったのでしょうか、ほんの一筆お書きになりました。その(歌)

「心もて光にむかふあふひだに朝おく霜をおのれやは消つ」
――自分から望んで宮仕えに出るのでもない私が、あなたのことを忘れたりするでしょうか――

 兵部卿の宮は、ほのかな薄墨で書き流してあるお文をご覧になって、私の心を知らないではなかったらしいと、そのほんの一言をうれしく思うのでした。

「女の心ばへは、この君をなむ本にすべき、と、大臣たち定め聞こえ給ひけりとや」
――女の心構えは、玉鬘をお手本にすべきであると、源氏や内大臣などが、同じようにお定めになったとか――

◆絵:たくさんの懸想文をご覧になる玉鬘 Wakogenjiより

 三十帖【藤袴(ふじばかま)の巻】 終わり

ではまた。