永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(324)

2009年03月13日 | Weblog
09.3/13   324回

三十帖【藤袴(ふじばかま)の巻】 その(2)

 さらに、玉鬘は思い悩まれます。

「真の父大臣も、この殿の思さむ所を憚り給ひて、うけばりてとり離ち、けざやぎ給ふべき事にもあらねば、なほとてもかくても見苦しう、かけかけしき有様にて、心をなやまし、人にもて騒がるべき身なめり」
――――まことの親である内大臣も、源氏のご意向に遠慮なさって、堂々と玉鬘を引き取って世間晴れてご自分が立派に養なおうとされる訳でもなさそうです。自分という女は、どっちつかずの有様で、源氏は好色めいたお気持ちですし、宮仕えすれば、秋好中宮や弘徽殿女御に気兼ねし、六条院では紫の上に気兼ねし、どうして人からとにかく騒ぎ立てられる身の上なのでしょう――

と、

「なかなか、この親尋ね聞こえ給ひて後は、殊に憚り給ふ気色もなき、大臣の君の御もてなしと取り加へつつ、人知れずなむ歎かしかりける」
――かえって実の親にお逢わせになってからの源氏は、殊に遠慮気のないご態度も増して来られてますので、玉鬘は、誰に打ち明けようもなく悩んでいらっしゃる――

 このような時、母君がおいでになったなら、あれこれとご相談もできようものを、世間にはめったにないようなわが身の上を嘆きつつ、夕暮れの空を端近で眺めていらっしゃる。

 「薄き鈍色の御衣、なつかしき程にやつれて、例にかはりたる色あひにしも、容貌はいとはなやかにもてはやされておはするを、御前なる人々は、うち笑みて見奉るに、宰相の中将、同じ色の今すこしこまやかなる直衣姿にて、纓巻き給へる姿しも、またいとなまめかしう清らにておはしたり」
――(玉鬘は)喪中の薄い鈍色(にびいろ)のお召物が、少しおやつれのご容姿に、いつもと違うご衣装も、かえってご器量がはなやかに引き立って見えますのを、お前の女房たちは、ほほえましくお見上げしております。そこへ夕霧も御祖母大宮の喪中ですので、鈍色も、いくらか濃い直衣姿で、纓(えい)も巻いてたいそう奥ゆかしくなまめいたご様子でお出でになりました――

 はじめは、玉鬘とは姉弟としてのご好意で接しておられました習慣で、この日もやはり御簾に几帳を添えただけのご対面で、取り次ぎ無しでお話しになります。
夕霧は、源氏のお使いとして、帝の仰せ事をお伝えに来られたのでした。

◆うけばりて(とり離ち)=受け張りて=わがもの顔に振舞う、出しゃばって取り上げる

◆けざやぎ(給ふべき事)=はっきりと、きっぱりと引き取って、…とでもなさそうで。

◆かけかけしき有様=懸け懸けしきありさま=主に男女のことで、いつも好色めいた気持ちを抱く

◆薄き鈍色の御衣:唐突なこの記述で、大宮が亡くなり玉鬘が喪服を着ていることが分かりますが、「藤裏葉の巻」で逝去の日は3月20日と出てきます。裳著から4日後だったことになります。

◆纓(えい)を巻く:服喪のときは、冠の纓(えい)を巻いて、竹などで挟む。

◆写真:玉鬘の喪。御簾、几帳、畳の縁までも薄墨色にします。
    風俗博物館