永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(338)

2009年03月27日 | Weblog
09.3/27   338回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(9)

 髭黒大将の言い訳をお聞きになって、北の方は、

「人の御つらさは、ともかくも知り得ず。世の人にも似ぬ身の憂きをなむ、宮にもお思し歎きて、今さらに人笑へなること、と御心を乱り給ふなれば、いとほしう、いかでか見え奉らむとなむ」
――貴方の薄情さは、何とも思っておりません。普通でない身の病を父宮も心配されて、
今更外聞の悪い事とお心を砕いておられるとのこと、それがお気の毒で、実家に帰りましてもどうしてお目にかかれるでしょう、と思っているのです――

 さらに、つづけて、

「大殿の北の方と聞こゆるも、他人にやはものし給ふ。かれは、知らぬ様にて生い出で給へる人の、末の世にかく人の親だちもてない給ふ辛さをなむ、お思ほし宣ふなれど、ここにはともかくも思はずや。もてない給はむ様を見るばかり」
――源氏の君の北の方(紫の上)にしましても、まったくの他人ではありません。あの方は、父宮に知られずに成長なさった方で、後になって玉鬘の親のように振舞われるのを、父宮は辛くおっしゃるようですが、私はそんなことなど思っておりません。ただ貴方のなさり方を辛いと見るばかりです――

 北の方の、このような申し上げ方に、大将は、

「いとよう宣ふを、例の御心違いにや、苦しき事も出でこむ。大殿の北の方の知り給ふ事にも侍らず。(……)」
――なかなか、筋の通ったことをおっしゃいますが、例によってお気が変わると困る事も出てきましょう。太政大臣の北の方は全くご存知のないことなのですよ。(あの方はおっとりと、大切にされていらっしゃる方で、玉鬘のことなどご存知なものですか。大体あなたの父宮は親らしくない方でした。こんなことが評判になりましたらさぞお困りでしょう)――

 などと、一日中、なにやかにやと、お話しになったのでした。

 この日も暮れ近くになりますと、大将は心も空に浮き立って、玉鬘の許にお出かけになりたいと思いますが、雪が降ったり止んだりの生憎の空模様です。

ではまた。