永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(315)

2009年03月03日 | Weblog
09.3/3   315回

【行幸(みゆき)の巻】  その(13)

 十六日は彼岸の初めで、吉日にあたっております。大宮のお具合も良いので、源氏は裳著の用意を急がされます。例の通り、玉鬘の許に行かれて、内大臣に打ち明けられたことや、式の作法などを細かに教えられますと、玉鬘は、

「あはれなる御心は、親ときこえながらもあり難からむを、と思すものから、いとなむうれしかりける」
――親切な源氏のお心は、親でも中々出来ないことと思いますものの、やはり実の親にお逢いするのはうれしいことでした――

 源氏は夕霧にも、この事を話されました。夕霧は、

「あやしの事どもや、むべなりけりと、思ひ合わすることどもあるに、かのつれなき人の御有様よりもなほもあらず思ひ出でられて、思ひよらざりける事よ、と、しれじれしき心地す」
――なんと不思議な事か、なるほど、玉鬘への父源氏のご態度は当然だったのだ、かの冷淡な雲井の雁のことよりも、たまらなく玉鬘のことが思い出され、それならばなぜ自分の思いを打ち明けなかったのだろうと、愚かしさを後悔なさる――

しかし、

「あるまじう、ねじけたるべき程なりけりと思ひ返すことこそは、あり難きまめまめしさなめれ」
――今さら雲井の雁をおいて、ほかに心を動かすのは道にはずれることと、反省なさるのは、世にも珍しい真面目さというものよ――

 いよいよ裳著の日になりました。三条の大宮からは「わたしの血筋と伺って、あはれになつかしく」というお文と、御櫛の箱をお祝いにお届けになります。
 秋好中宮からは、白い御裳、唐衣、御装束、御髪上げの具など、またとないほど見事にして、いつものように香の壺には唐の薫物を芳しく調合なさって届けられます。
 六条院の婦人方もみなそれぞれに、すぐれたものを競争なさってのお品々ですので、いずれも結構なものでございます。

 二条院の東の院におられる人々は、

「かかる御いそぎは聞き給うけれども、とぶらひ聞こえ給ふべき数ならねば、ただ聞き過ぐしたるに、常陸の宮の御方、(……)」
――こうしたご準備のことはお聞きになっていましたが、お祝いを申し上げる程の身分でもありませんので差し控え、そのまま聞き過ごされますが、常陸の宮(末摘花)だけは、(妙に堅苦しく昔風なご気性ですので、どうして知らぬ顔をしていられましょうかと、型どおりにお祝い物を整えられます)

 まことに殊勝なお心がけではありますが……。

◆むべなり=(うべなりに同じ=宣なり)いかにももっともなこと

◆しれじれしき心地=痴れ痴れしき心地=愚かである気がする。

◆まめまめしさ=忠実忠実し=実直、真面目、

◆写真:玉鬘の裳著の式  風俗博物館