永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(319)

2009年03月07日 | Weblog
09.3/7   319回

【行幸(みゆき)の巻】  その(17)

 このお祝いに、蛍兵部卿の宮や、玉鬘に思いを掛けておられる人々など、次々と集まっていらっしゃるその間、内大臣だけが御簾の中に長くお入りになっておられるのを、みな不審に思っております。内大臣のご子息たちは、うすうす事情をご存知なので、「(姉弟だったとは)よくまあ、自分たちは、思いをうち明けなくて良かったことよ」とか、「風変りな源氏の物好きというものだ、中宮と同じように御仕立になるおつもりか」とそれぞれ小声でお話しになっています。

このようなご様子を察してか、源氏が内大臣に、

「なほしばし御心づかひし給うて、世に謗りなきさまにもてなさせ給へ。(……)こなたをもそなたをも、さまざまの人の聞こえなやまさむ、ただならむよりはあぢきなきを、なだらかに、やうやう人目をも、ならすなむ、よき事には侍るべき」
――もうしばらくは、ご注意なされて、世の非難を受けないようにしてください。(何事でも身分の目立たない人は、世も好い加減に済ませるでしょうが)私でも貴方でも、好色を人にいろいろと噂を立てられるのは、身分柄面白くありませんので、そっとしておいて、自然と皆に分からせるのが良いことではないでしょうか――

と、話されます。内大臣も、

「ただ御もてなしになむ従ひ侍るべき。かうまで御覧ぜられ、あり難き御育みにかくろへ侍りけるも、前の世の契おろかならじ」
――すべて、ご方針どおりにいたしましょう。こうまでお世話いただき、結構なご教育に預かりましたのも、前世からの御縁が並々でなかったからでございましょう――

 と申し上げます。

 この夜の、源氏から内大臣への贈物はもちろんのこと、客人への引き出物や、禄(ろく)など、身分に応じての作法には定めがありますが、通例以上に立派になさいました。

ただ、

「大宮の御なやみにことづけて給ひし名残もあれば、ことごとしき御遊びなどはなし」
――大宮のご病気のためにお急ぎになりました今宵の儀式でしたので、ことごとしい管弦のお遊びなどはありませんでした――

◆御遊び=管弦の宴

ではまた。