雨宮智彦のブログ 2 宇宙・人間・古代・日記 

浜松市の1市民として、宇宙・古代・哲学から人間までを調べ考えるブログです。2020年10月より第Ⅱ期を始めました。

新・本と映像の森 225 有栖川有栖『朱色の研究』角川文庫、2000年

2019年01月11日 10時56分29秒 | 本と映像の森


 新・本と映像の森 225 有栖川有栖『朱色の研究』角川文庫、2000年

 421ページ、定価本体600円、1997年角川書店原著

 語り手は大阪に住む推理作家有栖川有栖(ありすがわ ありす)。その友人で京都の英都大学の火村英生(ひむらひでお)は事件に巻き込まれる。

 火村が、教え子の女子大生貴島朱美(きじまあけみ)から依頼を受け以前の未解決殺人事件を探り始めた時、有栖川の自宅近くのマンション「オランジェ夕陽丘」で事件は起きる。

 事件は夕方の朱色や火事の朱色など「朱色」に染められている。

 事件は未解決のまま、かって殺人が起きた和歌山県周参見(すさみ)に移動する。

 偶然だが今年は亥年、イノシシの年。「イノブータン王国」なるパロディ国家をすさみ町は作っている。「ふだらく」伝説も書かれている。

 そして犯人が作り上げた二重の罠。秀作だと思う。

 残念なのは夕方の朱色の光景が、たんなる背景に終わっていること。せっかく太陽信仰や大阪の歴史的背景に触れているのに、事件はそれと無関係に起きること。

 火村が論じる刑罰論・地獄論は、まさに正論だと思う。別項で触れる。

 最後に火村は言う。

 「夕陽は没落の象徴でもあるし、確かに闇の前触れでもあるけれども、それだけではない。……生まれ変わるために沈むんだから」(p403)