AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

兪募穴治療の適用および腹痛に対する鍼灸の適否

2006-03-27 | 総論
1.内臓の自律神経支配
 内臓は自律神経により支配されているが、交感神経優位なものと副交感神経優位なものに大別される。そして交感神経優位な内臓反応は、内臓→交感神経節興奮→交通枝→脊髄神経興奮となり、体壁神経痛を生ずることがある。しかし副交感神経優位の内臓は、このような体壁痛は生じることはない。
 表現を変えるならば、交感神経優位の内臓に限定すれば、古典的な兪募穴治療が、(大雑把には)通用するのに対し、副交感神経優位の内臓に兪募穴治療は通用しないのである。
 
 たとえば交感神経優位な胃(Th5~Th9デルマトーム)を例にとれば、その背部反応はTh5~Th9棘突起の高さの起立筋上に出現(膈兪付近)し、腹部反応は、第5~第9肋間神経が腹直筋を支配する部(中かん付近)に出現する。
 副交感神経優位な肺は起立筋上や胸骨上の圧痛硬結反応は出現しない。たとえば気管支喘息や気管支炎時の圧痛硬結といった体壁反応は、肺兪や中府に出現することはないのである。

2.交感神経優位な臓器と副交感神経優位な臓器
1)交感神経優位→兪募穴治療可
 心臓プラス上中腹部消化器内臓(食道、胃、十二指腸、肝臓、胆嚢、膵臓、小 腸、上行結腸など)
2)副交感神経優位→兪募穴治療不可
 迷走神経支配:肺、気管(支)
 骨盤神経支配:婦人科・泌尿器科臓器のとくに肛門に近い側、下行結腸


3.腹痛3分類と針灸の適否
 周知のように、腹痛の古典的3分類は、内臓痛・関連痛・体性痛である。うち内臓痛とは交感神経興奮による漠然とした痛みで腹部前正中線上に出現する。関連痛とは内臓痛より重症度が1つ上がった状態で二次的に興奮した体性神経痛(=腹壁神経痛)が所属内臓のデルマトームに一致した領域に出現する。体性痛とは腹膜の炎症によるもので、病巣直上の体性神経の激しい痛みになる。
 上記腹痛3分類で針灸をしてもよい状況なのは、内臓痛だけだろう。内臓痛であれば、局所治療ということで腹部任脈上の反応点に針灸することだろうが、基本的に交感神経興奮に対する鍼灸治療には明確な手段がないので、治療効果は不安的なものになる。
 2番目に重い関連痛は、強い明瞭な自発痛である。私の説明した腹壁痛とは運動時痛のことなので、この点をしっかりと把握しておく必要がある。3番目は緊急外科手術の適応にもなるほどで針灸の絶対禁忌である。
 





肋間神経と腹壁神経痛

2006-03-27 | 腹部症状
1.肋間神経痛の走行
 肋間神経12対のうち、胸郭を走行するのは第1~第5肋間神経であり、第6~第12肋間神経は腹壁を走行している。いずれも支配領域の筋と皮膚の運動と知覚を支配している。第12肋間神経の支配領域は鼡径部なので、胸部のみならず腹部全体の皮膚と筋は肋間神経の支配下におかれている。

2.腹部反応点と背部治療点の関係
 治療は、肋間神経の基本反応点である起立筋上、腹直筋上、体幹外側点を選択する。うち外側点は臨床的に反応が出にくいことから、実際には起立筋上と腹直筋上で選ぶ。たとえばつぎのような対応になる。
 臍レベルの圧痛硬結→Th10棘突起の背部兪穴つまり胆兪
 心窩部の圧痛硬結→Th7棘突起の背部兪穴つまり膈兪
 関元穴あたりの圧痛硬結→Th12棘突起の背部兪穴つまり胃兪

3.腹壁神経痛と針灸治療
 腹痛の原因の一つに腹壁神経痛(肋間神経の興奮によるもの)がある。これは本来非常に多いものであるが、医師はどうしても内臓指向なので見過ごされやすい。陳久性の腹痛で内臓病変が否定されれば、腹壁神経痛を疑う。
 針灸来院患者で多いのは左または右の慢性の下腹部痛であろう。右下腹部痛で最も考えるべき疾患は慢性虫垂炎だろうが、白血球数の増加やCRPなどの炎症反応が乏しい場合、腹壁神経痛を考える。検査データがない場合でも、動作時に生ずる痛みであれば内臓障害よりも体壁障害を考え得る。このような場合には、Th11~Th12レベルの肋間神経痛を疑うので、同レベルの脾兪から胃兪への刺針で解決する。また同じ高さの夾脊穴刺針でも非常に効果があり、速効することが多い。