AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

ド・ケルバン病には偏歴運動針プラス局所皮内針

2006-03-21 | 上肢症状
1.ド・ケルバン病の病態と症状
 手関節の橈骨茎状突起部に生ずる狭窄性腱鞘炎。長母指外転筋腱と短母指伸筋腱は、橈骨茎状突起部あたりで共通の腱鞘を通過する。母指の動きは他の4指と比べても非常に大きいので、この部の狭窄性腱鞘炎を好発しやすい。
 母指IP関節の屈曲時や、手関節を尺屈する動作で局所に痛みを発する。フィンケルシュタインテスト陽性となる。

※フィンケルシュタインテスト:母指を他の4指に包むようにして拳骨をつくり、小指側に手関節を屈曲させると、手関節橈側に強い痛みが出現。

2.ド・ケルバン病の好発する理由
 人間の母指はサルと異なり、非常に自由で、かつよく制御された運動性をもっている。これが文字を書くことや、道具をつくることなど、文明を築き上げた基本的素養といえるのである。ではなぜ母指はこれほど意のままに動かせるのだろうか?

 母指を除く手の4指の伸展に作用する筋の共通した起始は上腕骨外側上顆にあるのに対し、母指を動かす筋はこれと独立して存在するからであろう。母指の伸筋や外転筋は、前腕骨間膜を起始としている。母指橈側には長母指外転筋腱と短母指伸筋腱が入り、母指尺側には長母指伸筋が入っている。
 
 長母指外転筋腱と短母指伸筋腱は一つの腱鞘に入っているので、もともと運動量が大きい母指としては、共通腱鞘が腱鞘炎になりやすいといえる。

3.ド・ケルバン病の鍼灸治療
 本疾患の機序は、次のようになるだろう。
母指の運動過剰→長母指外転筋や母指伸筋の緊張・短縮→両腱の炎症・肥厚→共通腱鞘の摩擦大
 筋腹部である偏歴運動針と疼痛局所の皮内針というパターンが私の治療である。

1)筋腹への運動針
 鍼灸治療はテニス肘やゴルフ肘の治療と同じく、緊張・短縮した筋の筋腹部への運動針を行うことで、腱への負担を減らす必要があるだろう。この筋腹とは通称、蛇頭とよばれる部で、ツボでいうと偏歴穴になる。

 偏歴穴の教科書上に位置は、手関節側背から上3寸、長母指外転筋と短母指伸筋の筋溝にとるので、実際には圧痛あるいずれかの筋上にとるようにする。

2)腱鞘圧痛部への皮内針
 腱は、要するにヒモであり、筋に比べて機能は単純であり血流量も少ない。腱そして腱鞘の痛みとは、本来ならば筋に比べて乏しくてもいい筈なのだが、実際には鋭い痛みを生むのである。私の見解だが、「腱や腱鞘が痛む」というのは元来わずかな痛みに過ぎず、皮膚に投影された痛み(橈骨神経皮枝の興奮)が強く意識されるのだろうと思っている。なぜならば腱炎や腱鞘炎には皮内針で十分効果あるためである。
 皮内針により皮膚関連痛を消すことで、痛みは大幅に減少するらしい。