玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*「父・夏目漱石」

2016年05月19日 | 捨て猫の独り言

 朝日新聞は「吾輩は猫である」を連載中である。漱石はこの小説で英語教師から一躍国民的作家となった。漱石はよく読まれていると言われているが本当だろうか。私は今に至るまで漱石作品をまともに読んだことがないのでこの機会に新聞の連載に目を通している。半藤利一さんは「日露戦争後の悪くなっていく日本、国家がリアリズムを失っていく様子がよく書けている」と解説している。

 漱石への私の関心は高まり、夏目伸六著「父・夏目漱石」を読んだ。夏目伸六(1908~1975)は兄・純一と同様に潤沢な父の印税で若い頃にドイツをはじめとするヨーロッパ各地を遊学している。編集者であり随筆家であった。8歳で死別した父を私はずっと恐れてきたと書く。死後私はだんだんと父の病気のことを聞くようになったとし、小さい頃に父と兄と出かけた散歩の途中に自分だけが父から凄まじい打擲を受けた出来事について書いている。(写真は4・6武蔵美にて)

 

 二十数年後に「私の小さい子供などは兄が何かくれと言えば弟も何かくれと言う。すべて兄の言う通りをする。恐るべく驚くべき彼は模倣者である」と書いた父の言葉に出会って、あの時の父の激昂の原因に思い至る。「おそらく父は生来のオリジナルな性癖から、絶えず世間一般のあまりにも多い模倣者たちをー平然と自己を偽り他人を偽る偽善者達をー心の底から軽蔑もし憎悪もしていたに違いない」と書く。

 晩年の漱石は良寛の書に憧憬するようになったという。「父がこれほどの執心を示した相手は良寛の他にはいない。書体が次第に良寛に似てきたのもあながち無理とはいえない。常々あれほど模倣を嫌った父としても見る者の胸を浄化するような純一無雑な良寛の美しさにただただ頭の下がる思いを感じて知らず識らずに傾倒せずにいられなかったためかもしれない」と書く。その他「夫婦は親しみを以て原則とし、親しからざるを以て常態とする」という漱石の言葉に思わず笑いがこぼれた。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする