曇り空のもと東京開催最終日の日展を見るために六本木に出かけた。日展見学は恒例行事になっていて中断を惜しんでのことだった。私の場合は五科のうち洋画会場での滞在時間が多くなる。一つのテーマを毎年繰り返し描いている会員の入選作品にマンネリを感じることも少なくない。洋画の特選になった松本貴子の名は覚えてしまった。彼女はつい最近の回も特選だった。(古典的技法の松本貴子そして春日裕次)
私の郷里の桜島や、この10月に訪れた羽黒山五重塔がないかと探したが見当たらなかった。その代わり11月の奄美旅行で記憶に残った粟国島と硫黄島があった。粟国島は沖縄本島の西にあり、粟国島産の黒糖を奄美の酒蔵で見た。また俊寛は平家打倒の陰謀に加わって鬼界ヶ島に流される。その鬼界ヶ島の場所とされるのが種子島の西にある硫黄島である。その一方で奄美の喜界島にも俊寛の座像があった。
私の絵をみる仕方は作品それ自体の出来栄えよりも、その背景にある物語性に強くひかれている。それと同郷の作家に関心が向くのは自然なことだろう。鹿児島県姶良市の塩屋信敏は今年も「南風」と題する緑の中の少女を描いていた。今年の少女の顔は凛々しい顔つきだ。もう一人出会いを楽しみにしているのが若き女性彫刻家・いちき串木野市の丸田多賀美だ。型破りでユーモアに満ちた作風で、今年は「買い物帰りに」と題する、子犬を連れた量感あふれるおばさんの彫像が人目をひいていた。
彫刻では鹿児島市の脇園奈津江「道しるべ~春をさがしに~」が特選だった。1967年生まれで2017年にも特選になっている。これから注目していきたい。偉人像で知られる1926年生まれの中村晋也の今年の出展はなかった。もとの職場で親しくしてもらっていた同僚の中に書家が二人いる。退職後よく日展に出品している。書の会場入り口で二人の名をさがす。あれば一目散にその書の存在を確認に行くのが習わしだ。