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民具のかご・作品としてのかご(26) 『アシナカ』  高宮紀子

2017-08-08 15:56:53 | 高宮紀子
◆写真1

◆写真 7

◆写真 2

◆写真 3

◆写真 4

◆写真 5

◆写真 6

2006年4月10日発行のART&CRAFT FORUM 40号に掲載した記事を改めて下記します。


民具のかご・作品としてのかご(26) 『アシナカ』  高宮紀子
 前号ではゾウリには種類がたくさんある、とお話しました。今回もアシナカと呼ばれるゾウリについてです。鼻緒が長すぎて失敗作ですが写真1は最近作ったもの。
足半と書いてアシナカと読みます。普通のワラジやゾウリに比べて長さが短い、というのが一番の特徴です。もう一つの特徴としては芯縄が上に出るというのがありますが、これは後で説明するとして、まず長さのことから。
 普通のゾウリですと足の長さより少し短いか同じぐらいですが、足半は短く、女性用で全体の長さが15cm程しかありません。そうするとかかとの部分は足半にはのらないことになります。そのため足半を履くと、かかとが上がり、自然につま先に力を入れて歩くようになります。農作業などの仕事をするとき、または地面が濡れていたり汚れている所で履くものだそうです。実際履いてみると、つま先に力がこもり、背すじが伸びる気がします。
 このため現代ではダイエットゾウリとして履く人がいます。同じように短めのスリッパがダイエットに効果的とされ売られていますが、元祖はこれ。つま先で歩くために背骨の矯正にもつながる、といわれ健康ゾウリとして愛好者がいるようです。砂利道や舟の上でも実力を発揮するらしく、写真2は多摩川の漁船で使用された足半。緒の部分が長いので足にぴったりしそうです。
 私は造形作品を作っていますが、藁細工の名人に出会ったことがきっかけで、その後も藁細工を続けてきました。藁が手に入りにくい、とか教えてくれる人が高齢で少ないとか、いろいろ問題があるのですが、何かに魅かれて続けてきました。藁細工は知れば知るほど、面白いです。何が面白いかというと、一つの藁という素材をいろいろに活かしてきた昔の人の知恵を感じることができるから。藁が柔らかいため編む技術はいろいろなものが応用できても、藁を束で編む作業は難しいので知恵が必要なんだと思います。いわゆる掌(タナゴコロ)でどうにでもなる、つまり下手上手が出やすい技術です。
 藁細工の技術は藁製品を見ればなんとかわかります。でも作る時の手の力や方向、動かし方や位置は編んでいる時に注意して見なければわかりません。名人ほど手の動きが流れるようにスムーズに連続していて、一つ一つの動きがわかりにくいということがあります。でもその動きの中にコツがあるのです。
 編む時の手の位置を例にあげてみます。写真3,4は足半を編んでいる時の写真です。写真3は左手の指を芯縄の下から出しています。芯縄の間から指を出して編みを押さえながら編みます。名人は芯縄の間から出した指を一本ずつ上げて藁を入れて編むので、左手は芯縄から外れることがありません。でもこれはなかなかむつかしい作業になります。これに比べ、写真4は芯縄の上に右手がきています。指を芯縄に入れるのは同じですが、芯縄をひっぱる力はこの方がよく入るようです。これは柳田利中さんの編む作業を写したものですが、この方が初心者向けだとおっしゃっていました。ただし藁を編む時は、手を外さなければならない、そういう不便さもあります。
 足半をはじめ、ゾウリやワラジは芯縄をぴんと張って編むばかりではありません。時には緩めて編むことも必要になってくる。例えば最初の編み始めの時、(これは後につま先になります。)、芯縄をぴんと張っていると、つま先がとんがってしまいます。そのため、芯縄を緩めて編む、そうすると丸いつま先になるわけです。
 ゾウリの場合は芯縄が裏から表へ出て鼻緒になるのですが、足半の場合、芯縄が上で、そのまま鼻緒になるので丈夫、と言われています。芯縄で鼻緒を作るのですが、緒を固定するため、いろいろな結び方をします。男結び、ハナ結びなどがそうです。写真1はハナ結びと言われるもの。写真5の足半は名人Sさん作ですが、これは違う結び方になっています。Sさんのお母さんがやっていた結びだそうで、この他、ツノ結び(男結びのこと)もあるとのこと。宮崎の方の結ぶ方だと聞きました。
 ゾウリなど、日常生活の中で実際に藁細工でできたものをそのまま使おうとなると、いろいろと不都合がおこる場合があります。絨毯の床では履けないし、藁のゴミも困る。そのためゾウリなどを作って売ってきた人はいろいろと工夫するわけです。例えばいろいろな素材を試したり、形を変えたりして売れるものを探っていく。写真6は秩父でみかけたゾウリです。今までに見たことが無いスリッパ型のものです。麻のロープに布を巻いて編んでいます。足をかける縄は前方の縄と緒が一緒になって、ちょうど一筆がきのようにつながっています。その交差を布で結んでいます。履くと案外足にフィットしてぴたっと固定します。面白いアイデアだなと思って聞くと、去年まで作って持ってきた人なんだけど今年はもう来ないようだ、とのこと。高齢化も藁細工が持つ問題の一面です。
 前号から藁細工が続きました。ここいらで作品を一つ。自分の作品を作るときの方向は藁細工への興味とは別のものだと思っています。用途の有無という違いも大きいのですが、それ以上に方向が違う。写真7は去年作った小作品です。Revolvingのシリーズについて幾度か書きましたが、その一端でできたもの。素材はトレーシングペーパーの厚いものです。この作品はRevolvingのように全体をくるむように組んでいく方法です。1本の材が一周したら、またスタートの所に戻るのではなくて、1本ずつずれて組んでいます。何故、こういう行為になったのかというと、厚いトレーシングペーパーの素材で一周するとその弾力のために跳ねて同じところにおさまらない、そこで1本隣りの材のコースに入るとうまく跳ねないでおさまってくれた。その必要のため、こういう行為になりました。
 Revolvingのシリーズではどちらかというと組み組織の原理を別の形で実現したいと思っているので、素材はそのアイデアを実現できるものを使っています。しかし、この小作品のように、自分の行為と素材が持つ性質が関係して形になる面白さも追求したいことです。このようにちょっとずつ、文字通り、ずれながら次の作品を作っていくわけです。