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『インドネシアの絣(イカット)』-イカットのプロセス<Ⅱ> 輪状の経糸- 富田和子

2017-08-13 11:11:21 | 富田和子
◆経緯絣 : バリ島

◆[経絣 : スンバ島]

◆[輪状整経:スンバ島]


◆[輪状整経:カリマンタン島]


◆[図1](作図:工藤いづみ)

◆[図2](作図:工藤いづみ)



◆[経糸の重ね合わせ:カリマンタン島]


2006年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 41号に掲載した記事を改めて下記します。

『インドネシアの絣(イカット)』-イカットのプロセス<Ⅱ> 輪状の経糸- 富田和子

 ◆輪状の織物 
 絣は糸を染める前の準備の段階で「絣括り」をして、糸を染め分け、模様を表す技法である。 島ごとに多種多様な模様が織られ、布いっぱいに広がる自由なデザインは、インドネシアの絣であるイカットの魅力の一つである。 人や動物や植物が自由に生き生きと表現されているもの、布全体が大小の幾何学模様で埋め尽くされたダイナミックなものや緻密なものなど色々があるが、細かい模様になると絣括りの一束が2~3mmというものもある。織り上がりの模様通りに糸束を括るので、絣括りは大変手間の掛かるものである。そのため、絣括りを効率を良くする様々な工夫が行われている。その工夫を生み出すポイントは輪状の経糸と織機の構造にあり、それが日本の絣とインドネシアの絣であるイカットの制作方法において、大きく違う点でもある。

 イカットの場合、経糸は輪の状態に準備される。輪状に整経された経糸は、輪のままの状態で絣括り、糸染め、機掛け、機織りといったプロセスを経る。少しずつずらして回しながら織り進み、織り上がって機からはずす迄糸を切ることはない。通常は織り残された経糸を切り離し、四角形の一枚の布として利用される。そのままの状態で使う場合もあれば、さらに裁断したり、縫製する場合もあるが、唯一、経緯絣を織っているバリ島のトゥガナン村では、この布を神に捧げる供物としての織物と、男性の儀礼用の肩掛けや腰帯として、織り上がった輪状のままで使用する場合もある。

◆ 輪状整経の方法
織物のサイズに合わせて、必要な長さと本数の経糸を揃えて準備する作業を整経という。輪状整経は、経糸を1本取りでグルグルと巻きながら、2本の棒に糸を螺旋状に掛け渡す方法である。

 ※水平型
…大きいサイズの布を織る地域では二人一組となって整経をする。2本の棒はしっかりと枠に組んで固定され、その木枠の中に二人並んで座る。経糸用の糸を玉に巻き、椰子の実を半分に割った器に入れ、 手渡しながら左右の棒の上側から下側へ、ぐるりと一周しながら糸を掛けていく。
木枠の端に2本の紐を結びつけ、この間に経糸を通し、1 本ずつの綾を取る。また、絣括りの一束ずつの単位がわかるように、手前の黄色い紐を入れながら整経する。整経後この紐を頼りに経糸を重ね合わせる。

※垂直型…比較的小さいサイズの布を織る地域では1人で整経を行う。台となる角材の両端の穴に棒を垂直に立てる。 経糸用の糸を玉に巻き、足元のポリ容器に入れ、両手を使って左右の棒に輪状に経糸を掛けていく。台には綾棒用の穴もあり、 同様に2本の棒を立てる。日本で使われている整経台に似ているが、経糸は2本の棒を往復する平整経法ではなく、常に一定方向で、ぐるりと一周するように糸を掛け渡し、両端の棒の手前を通過するときにのみ、綾を取るのが輪状整経の方法である。

 ◆ 輪状の経糸を重ね合わせる
 整経した経糸は絣括り用の木枠に移される。輪状の糸束に棒を2本入れて木枠に張ると、経糸は上下二層の糸束になる。 この二層を合わせて、一緒に括ることで絣括りの手間は1/2になる。 上下二層となった経糸は、さらに重ね合わせたり、部分的に移動させたり、折り畳んだりすることもできる。

インドネシア各地では次のような方法が行われている。

 ※経糸全体を重ね合わせる方法
①図1のように、必要枚数に応じて2枚分、3枚分、4枚分…の整経をし、輪状の経糸を一緒に重ね合わせて絣括りをする。 上下二層を一緒にまとめ、さらに重になった糸束を括 る。
 [2枚分=1/4、3枚分=1/6、4枚分=1/8の手間]
②上下二層となった経糸をさらに半分の幅に折り返して、絣括りをする。[1/4の手間]
③上下二層となった経糸をさらに半分の長さに折り返して、絣括りをする。[1/4の手間]

※経糸を部分的に重ね合わせる方法
①同じ絣模様ごとに整経をして、重ね合わせ、一つにまとめて絣括りをする。染色後、デザインに合わせて絣部分を配置し直し、無地や経縞の経糸を加える。
②図2のように、経糸を全体ではなく、部分的に移動したり、折り返して、同じ絣模様の糸束を適宜重ね合わせ絣括りをし、染色後もとの位置に戻す。

※仮織りをして重ね合わせる方法
 整経後、絣括りをする前に10cmほど仮織りをする。機からはずして、仮織りをした部分を基準として、経糸全体を折り畳む。 写真の場合は元の幅の1/6に折り畳んでいる。糸束を整理して、一緒に括る糸束同士を一つにまとめて絣括りをする。

 経糸が輪状であることは、重ね合わせたり、折り畳んだりする作業がしやすく、効率良く絣括りをする工夫のしどころである。その結果、布全体から見る絣模様の構成は、基本的に上下対称や左右対称の連続模様となる場合が多くみられる。効率的な絣括りを可能にしている重要な要素は輪状の経糸であり、そして、その輪状の経糸を切ることも崩すこともなく、機に掛けられるシンプルな織機の構造もまたイカット制作の上で、重要な要素となっているのである。
◆[輪状整経:カリマンタン島]

◆[図1](作図:工藤いづみ)

◆[図2](作図:工藤いづみ)



◆[経糸の重ね合わせ:カリマンタン島]