まずいことが起きると、次にはそういうことが起きないように、人間は智慧を働かす。
初めて口にする旨い煎餅をごちそうになった。
坂角(ばんかく)という、名古屋港の東側、尾張横須賀に明治22年からある煎餅屋のもの、8種類のえび煎餅が一つの袋に入っている。
食べ終わって、袋の表裏を一緒に見たくなり、平らに開こうとすると、まだ何か入っている。乾燥剤だった。
乾燥剤の小袋をつまみ出そうとしても出てこない。強固な接着剤で袋の内側に貼り付けてある。ぐいぐい引っ張っても出てこない。しっかりくっついている。
なぜこれほどまでにと考えてみる。
目の悪い人やよそ見をしながら食べる人が、うっかり乾燥剤を口に入れてしまわないよう、煎餅を袋からつまみ出しても、袋を逆さにしても、乾燥剤だけは出てこないようにしてあるのだろう。これは名案である。
しかし、食べ終わったあと、この袋がどうなるか。
ゴミ分別で、容器プラスチックの仲間に入る。だが、乾燥剤は埋め立てゴミに入れなさいとされている。
乾燥剤が貼り付いていることに気付かない人が半分、気づいても引っ張って取れなければ「まあいいや」とそのままにする人がまたその半分、はさみを持ち出して乾燥剤を切り取る人は残りの半分以下だろう。
名案は、その成立に都合の良い条件が整えば、ずっと永く続くものと見立てて採用される。
使用済み核燃料を、原子炉建屋につくったプールにとりあえず置いておこうという物騒なことも、きっとはじめは名案だったのだろう。