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その昔、迷い込んできた羊を自分の羊と共に育てていた親父がいた。息子はそれを権力者に明かしたことで正直者として報奨を得たが、親父は罪に問われた。
そのことをどう思うかと問われた賢者はこういった。「子は親の、親は子の、不利になることは出来るだけ口を噤みたくなるのが、人の本当の処の正直というものではないかと思います」
大岡さんか板倉さんかの裁きにこんなのがあった。子どもの親を主張する母親がどっちも譲らないときに、そのおさなごの両腕を互いに引っ張らせた。勝った方が本当の親で負けた方は嘘をついたかどで厳罰に処すといって。そのうち痛がる子が泣き叫びはじめると片方が涙ながらにその手を放す。裁きはこうであった、「痛がる子に耐えきれず放したその方こそ本の親御であろう」と。
人を悲しませる本当もあれば、人を喜ばせる嘘もある。
正直と嘘と粋か野暮かの関係は深い。
武満徹 《微風》 / Toru Takemitsu 《Breeze》