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そう言えば、昔聞いたことを、今ふと思い出した。
人から聞いた話では――こんな数学があるんだそうだが、俺が中学で習った数学とはまるでちがう。なんでもこれは今ではちっとも珍しくない数学だそうだから、珍しそうに言ってはおかしいが、中学は出た俺だからその説明ぐらいは俺にだってできる。
たとえばここにABとA'B'の二つの直線がある。ABは短く、A'B'は長い。ABは小さく、A'B'は大きい。ABはA'B'の一部とも見られる。ABはA'B'の部分とも言える。だが、はたしてそのABはA'B'よりも小さいかということなのだ。見た眼には、たしかに小さいが。
AA'とBB'との交点をOとする。このOからOM'という直線をひくとABとはMでまじわる。ここでM'をもしA'B'上の左右に動かすと、かならずそれに対応してMも動く。M'がA'よりB'のほうへ動くと、Mも同様にAよりBへ動く。
AB上のすべての点とA'B'上のすべての点をここで考えてみる。A'B'のすべての点をOと結びつけると、かならずその点に対応する点がAB上にも存在する。そうなると、A'B'上の点と、AB上の点とは同等であり、ABとA'B'とは同等なのだ。ABはA'B'より小さいとは言えないのだ。
実はこれは無限という概念と結びついたもので、これでもって今まで漠然としていた無限という概念がはっきりしたと言う。
―切抜/高見順「いやな感じ」より
LEONARD COHEN - Waiting For The Miracle