南無煩悩大菩薩

今日是好日也

酒を呑んで夢を喰う

2019-07-28 | 酔唄抄。
(illustration/Isao Kojima)

私の父親は、近村近郷きっての呑兵衛であった。四五杯傾けてほんのりすると、父はいつも昔の面白い物語、いや自分の見聞談を私に聞かせるのを例とした。

ある夜、私は父に人間以外に酒を呑む動物があるのかどうか問うてみた。すると父は、即座に、あると答えた。

お前は、海亀を知っているだろう。あれはひどく酒が好きなんだ。海の漁師が亀をとらえるとこれを浜へ連れて酒を与える。海亀は喜んで、五升も一斗も呑んでしまう。頃合いを見て漁師は海亀を海へ放ってやるが、こうしておくと海が荒れたとき海亀は自分ら漁師を狂瀾から護ってくれるという話は、お前も知っているはずだ。

ところで、泥亀(すっぽん)は海亀とは近い親戚だ。親戚の間柄であるから、泥亀も大の呑ん平である。この泥亀が酒を呑んで十石を尽くすというと、河童(かっぱ)に出世する。つまり河童とは泥亀の年功を経たものであるだろう。

幕末のころ、水戸の大浜海岸で河童が漁師の網にかかってきた。よく見るとこれは、頭だけ河童になっていて、甲羅や四肢はまだ泥亀のままの姿であった。多分これは、まだ酒を五石くらいしか呑まぬ奴であったろう。

明治になってから越後国の小千谷(おぢや)町の地先のかわらへ河童が昼寝に上がってきて、里の子供らに捕まったことがある。奇妙にもこの河童は体は河童の姿になっていたが、頭は泥亀の形のままであった。これも、まだ飲酒十石に達せぬ奴であろうが、頭が泥亀で体が河童であるという姿を想像してみた。ずいぶん妖魅にとんだ代物だ。

-抜粋/佐藤垢石「河童酒宴」より

酒呑みは他愛のない話こそものの上手けれ

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