犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

文在寅 vs 検察

2020-11-27 23:24:51 | 韓国雑学
 韓国の政界が大変なことになっています。

 秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官(法相)が尹錫悦(ユン・ソギョル)検察総長(検事総長)の職務を停止、懲戒を請求し、検事総長もそれに対抗し、処分撤回を求めて法廷闘争に入る構えを見せているというのです。

 この前代未聞の事態に、保守系新聞は一斉に反発。法相を批判する社説を掲げています。

中央日報11月25日社説(日本語版
【社説】韓国検察総長の職務排除、極めて非常識で不当だ

朝鮮日報11月25日社説(
日本語版
【社説】文大統領はこれ以上秋法相の後ろに隠れていないで直接検察総長を更迭して責任を取れ

 東亜日報11月25日社説(
韓国語版
【社説】支離滅裂な嫌疑で検事総長の職務を停止―いまだかつてない政権

 法相には検事総長を解任する権限はないため、職務停止命令と懲戒請求を求めているわけですが、もともと尹錫悦検事を検事総長に抜擢したのは、文在寅大統領。

 目的は、ろうそく集会の末に罷免された朴槿恵大統領を監獄に送ることでした。任命時に大統領は尹総長に対し、「現在の権力に対してっも顔色をうかがわずに捜査せよ」と言ったということです。

 尹総長が朴槿恵氏を実際に監獄送りにすると、文大統領は「よくやった、ご苦労様」と、引導を渡すつもりで腹心の曹国(チョ・グク)氏を法相に起用します。すると尹総長は、任命時の文大統領の言葉を忠実に実行し、あろうことか、曹国法相の不正摘発に乗り出します。

 文大統領は、「おい、おい、やりすぎだぞ」と言いたかったところでしょう。曹国が辞任に追い込まれると、今度は秋美愛女史を法相にし、秋法相は、尹総長の手足をもぎとるように、曹国の捜査に関わった検事をいっせいに左遷。尹総長はそれにもめげず、矛先を秋法相に向け、息子の兵役時の休暇延長問題などを追及。秋法相は逆に、検察総長に対する捜査指揮権を行使して、政権に対する不正追及を封じようとしました。

 そして、その延長線上にあるのが、今回の検事総長の職務停止というわけです。

 文大統領は、政権就任後、「検察改革」の名のもと、検察の権力を削ぐことに力を入れました。一つは、大統領は国会議員に対する捜査権を、新設する高位公職者犯罪捜査処に移し、検察が捜査できないようにしたことです。もう一つは、検察の人事を自分の息のかかった人物でかためること。

 これにより、自分の退任後、朴大統領のように監獄に送られることを避けようというのですね。

 でも、大統領は検事総長の任命権をもっているのですから、秋法相を使嗾して、職務停止や懲戒請求などさせずに、尹総長を解任すればよいのですが、つい1年半前に自分が任命した尹総長を解任することになれば、検事総長任命責任が問われ、文大統領が命の次に大事にしている「支持率」に悪影響がでると思ったのでしょう。

 文大統領は、秋 vs 尹戦争になんのコメントも出さずに傍観しています。自分が指示した代理戦争であるにもかかわらずです。

 政権寄りのハンギョレ、京郷新聞といった進歩系新聞は、秋法相を直接攻撃はしませんが、ともに大統領が自ら出てきて立場を明らかにすることを要望しています。

 尹総長は、もともと政界進出の意思はないことを公表していましたが、世論調査では「次期大統領候補」としての支持率が与党候補を上回っているそうです。

 もしこの泥沼の闘争が長期化し、国民の支持が尹総長あつまれば、退任後の不正追及から逃れることはできないでしょう。

 参考に、日本語の翻訳のない京郷新聞の社説と、なぜか日本語版はあるが訳されていなかったハンギョレの社説を拙訳で紹介します。

ハンギョレ 11月24日社説(韓国語版

【社説】史上初めての検事総長職務停止、徹底的な真相究明を

 秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官が、24日、尹錫悦(ユン・ソギョル)検事総長に懲戒を請求し、職務停止命令を出した。憲政史上初めての事態だ。これまで尹総長と検察の活動が政治的中立から逸脱しているのではないかという論議が続き、これに対し牽制の名のもとに秋長官の捜査指揮権、監督権を行使したことについて、葛藤が生じていた。それが検事総長の職務停止という局面にまでいたったことは、理由の如何にかかわらず、不幸なことと言わなければならない。秋長官が尹総長に対して提起したもろもろの疑惑の総まとめともいうべき懲戒請求を行った以上、何よりもまず事実関係をはっきりさせることが重要だ。

 秋長官が挙げた尹総長の5つの不正疑惑のうち、検察が重点を置いて捜査した事件の裁判を担当する裁判官を「不法査察」した件は、今回初めて公表されただけでなく、事案の重大性が大きい。秋長官は、大検察庁捜査情報政策官室が、「ウルサン市長選挙介入疑惑」や「曹国前長官事件」などの裁判を担当する裁判官について、「ウリ法研究会に加入しているか、家族関係、世評、個人の趣味、物議を醸した判決への関与」などを調査し、報告書を作成し、この報告を受けた尹総長が腐敗防止部に伝えるよう指示したことを明らかにした。特に「物議を醸した裁判官」は、ヤン・スンテ大法院長(最高裁長官)時代の裁判所行政部が「ヤン・スンテ大法院」に批判的な裁判官たちの活動を分析し、人事に不利益を与える根拠に活用した内部文書である。裁判部の査察が事実なら、見過ごすことはできない。こうした情報を収集した理由、詳細内容、用途などを明確にする必要がある。

 秋氏はまた、「尹総長がソウル中央地方検察長官在任中、事件関係者であるJTBCの実質的社主ホン・ソギョン氏に会い、不適切な交流を行った」と述べた。ホン会長が事件に関係していたとすれば、検事倫理綱領違反に当たるが、正確な評価のためには、それがどのような事件で、会合がどんな性格のものであったかも明らかにされなければならない。国政監査には、退任後の政界進出の可能性について発言するなど、政治的中立に対する信頼が損なったという点も含まれている。

 尹総長は、秋長官の発表直後、声明を出し「違法・不当な処分に対し最後まで法的に対応する」と述べた。職務停止と懲戒が適切かどうかは、今後の懲戒審議手続や訴訟などを通じて明らかにされるが、事案の重大性に照らし、国民の判断を受ける必要もあるとみる。そのためにも、秋長官は不法の疑いに対する事実関係をより具体的に示す必要がある。尹総長も、法的対応を強調するだけでなく、詳細な反論を行うのが望ましい。

 秋長官の措置を巡って、与野党は激しい攻防を繰り広げている。しかし、まずは政治的評価よりも事実関係に基づく判断を行うべきだ。検察総長の職務の重みを考えると、提起された疑惑の真相確認が不可避であり、それによって秋長官の措置の妥当性も判断することができるからだ。


京郷新聞11月25日社説(韓国語版

[社説] 史上初の検事総長職務停止、大統領が国民に答えるときだ

 秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官が、尹錫悦(ユン・ソギョル)検事総長の職務を停止するという前代未聞の事態が大きな波紋を呼んでいる。共に民主党のイ・ナギョン代表は25日、尹総長の辞任と法務部の真相調査・懲戒手続きの迅速な進行を促し、国会の国政調査も検討するよう、党に指示した。国民の力は「法治と民主主義の蹂躙」とし、大検察庁を訪れて抗議するとともに、秋長官への職権乱用処罰法適用を発議した。史上初めての法務部長官と検事総長の間の訴訟が秒読み段階に入り、検察では、一部の大検研究官の反発と平検事会の招集の動きも見られる。ソーシャルメディアも「秋・尹対置」でもちきりの一日だった。

 秋長官が24日夜発表した尹総長に対する監察結果と処分は、事前に文大統領に報告されたが、青瓦台は、大統領は何も言わなかったと述べた。大統領は、尹総長の懲戒・職務停止措置をとるという秋長官の報告を、大筋で認めたものだ。法務部と大検監察部が調査し、判断した尹総長の8つの懲戒事由について、秋長官は、項目と概要のほかに具体的な内容は発表していない。裁判官査察疑惑は真相究明が必要だ。尹総長が政界進出の意を明かしたという疑惑も、政治的中立の面で重大だ。逆に、事実関係を確認し、それが職務停止に値するものかも吟味すべきだ。これらの糾明と判断は、まもなく開かれる法務部監査懲戒委員会で行われ、尹総長が予告した行政仮処分訴訟で、裁判所においても取り扱われることになる。

 現時点で国民が注目しているのは、文大統領の判断だ。法務・検察のトップがぶつかるという、この破局的状況をどのように見、検察・警察の捜査権の調整と公捜処(高位公職者犯罪捜査処)の出帆が迫った検察改革をどのように診断するか、また尹総長の懲戒手続きと職務停止を裁可したとき、どのような事由を重視したのかを尋ねたい。1年4か月前、検事総長に尹総長を任命した文大統領が、当時と異なる判断を下した背景を、この混乱の中で国民は直接聞く権利がある。この問いに答えることが責任政治であり、結者解之(ひもを結んだものがそれをほどく、原因を作ったものが解決する)になりうる。

 世の中は、秋・尹対峙のブラックホールに陥っている。国会では、予算、国政、民生の案件がすべてこの波紋に埋もれ、国論分裂と検察の内紛・動揺も強まっている。民主的統制、制度化、政治的という、検察改革の三本柱が揺らいでいる。この葛藤と混乱をいつまで見ていなければならないのか。文大統領としては、自らの立場表明が尹総長事態に影響を与えることが心配なのだろう。それでも、秋氏、尹氏双方の人事権者であり、国政の最高責任者である文大統領は、政界や検事たちを越えて、今や国民に答える時である。それは早いほどよい。
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