写真:キーボード上のALT。記事と関係ありません。(出典:ITmedia)
前の記事で紹介した『「派遣は安上がり」という神話』という論説(2016年、ゼネラルユニオン、リンク)に次のようなくだりがあります。
派遣会社はこう言う。
「JETプログラムの費用も支え直接雇用の教師にかかる大きな支出の負担にも直面している、財政が切迫している教育委員会にとっては、派遣会社がより安い費用で教師の派遣を行なうのは幸運なことで、それがないとやっていけなかったかも知れない。そして同様にALTも、こうしたことが外国人労働力(つまり彼等自身)のために仕事を作ってくれることになるのだから幸運だ」と。
(中略)
派遣会社は、更にあなたにこう言う。
前の記事で紹介した『「派遣は安上がり」という神話』という論説(2016年、ゼネラルユニオン、リンク)に次のようなくだりがあります。
派遣会社はこう言う。
「JETプログラムの費用も支え直接雇用の教師にかかる大きな支出の負担にも直面している、財政が切迫している教育委員会にとっては、派遣会社がより安い費用で教師の派遣を行なうのは幸運なことで、それがないとやっていけなかったかも知れない。そして同様にALTも、こうしたことが外国人労働力(つまり彼等自身)のために仕事を作ってくれることになるのだから幸運だ」と。
(中略)
派遣会社は、更にあなたにこう言う。
「すでにJETプログラムに参加していないのであれば、これは選択肢にはならない。現在日本に在住しているのでJETプログラムには申し込めない。
残るは教育委員会の『直接雇用』だが、これはめったにないし費用がかかる。もし見つけたとしても、この仕事を得るには日本語・英語ともに流暢に話せることが必要だし、教員免許を(時には二つ!)持っていなければならない。
それに、直接雇用は高過ぎるのでそもそもない。だから、今はどの教育委員会も派遣会社を使っている。文句を言うな! 現状で満足しろ。日本で暮らし始めているだろう? 生きるのは簡単じゃないんだ!」
と、このように……。
わが家のD(三女の夫、フィリピン人)は、9月から埼玉のある市の直接雇用ALTとして働き始めています。
直接雇用のALTに採用された経験をもとに、上の内容を検証してみたいと思います。
ALTも、こうしたことが外国人労働力(つまり彼等自身)のために仕事を作ってくれることになるのだから幸運だ。
昨年末に「結婚ビザ」で来日したDは、日本語がほとんどできなかったため、職探しは難航しました。天ぷら屋の厨房は「日本語力不足」で不合格。直接雇用の定期採用(1月)も不合格。実は、派遣会社のALTにも片っ端から応募しましたが、「通える範囲に空きがない」などの理由で不合格。
ハローワークに行って、日本語ができなくても働けるお菓子工場で採用され、最低賃金の時給で働いていました。
実際、「日本語ができない外国人」にとって、日本での就職は難しい、ということを身をもって経験しました。
すでにJETプログラムに参加していないのであれば、これは選択肢にはならない。現在日本に在住しているのでJETプログラムには申し込めない。
これは事実です。日本在住者は、JETプログラムの募集対象ではありません。
残るは教育委員会の『直接雇用』だが、これはめったにないし費用がかかる。
1月時点で「直接雇用」の募集を探してみましたが、数が少ないのは事実。通える範囲で直接雇用をしている自治体は3つほどしかありませんでした。
うち2つは、すでに応募が終了していました。現在働いている自治体は1月でも募集していましたがこれは例外的で、ほかは11月ごろに募集をしていたようです。
もし見つけたとしても、この仕事を得るには日本語・英語ともに流暢に話せることが必要だし、教員免許を(時には二つ!)持っていなければならない。
1月に書類提出に同行したとき(リンク)、「日本語を流暢に話せること」は応募条件ではありませんでした。ただ、「小学校の場合は、英語のできない先生が多いので、日本語ができるほうがよい」とは言われました。
実際の「面接」でも、日本語は最初の「自己紹介」だけで、そのあとは「日本語でも英語でもよい」と言われ、Dは英語で面接を受けたそうです。
教員免許も応募条件にありませんでした。大学の卒業証明書も、「提出する人もいますね」程度の扱いでした。
Dの場合、フィリピンの大学で「教育学(社会科)」を専攻し、教員免許を持っていただけでなく、高校の社会科の先生として1年ほど働いたことがありました。
本人は教育にやりがいを感じ、できれば続けたいと思っていたそうですが、あまりにも低賃金、ハードワークだったので、1年で辞めてしまったそうです。
面接では教職経験をアピールし、「教えていたのは社会科だが、授業はすべて英語で行っていた」ということも話したそうです。
フィリピンの国語はタガログ語。英語は小学校1年から習い始め、中学(フィリピンでは中学校と高校が一体で、合わせてハイスクールと呼ばれます)からは、国語以外の科目の教授言語(授業で使う言語)がタガログ語から英語に切り替わります。
学問に必要な専門的な語彙がタガログ語にないので、教科書も授業も英語で行われるんですね。こういう国はアジアやアフリカに多く、マレーシアやミャンマーもそうです。
最初に受けた説明では、その自治体には「ALTが12人いるが、新規の応募者も含め、ゼロベースで選考します」ということでした。
結果的に、定期採用で不合格、4月に欠員ができ補充の募集がありましたがそれも不合格、8月に再度、補充の募集があって、三度目の正直で合格しました(リンク)。
合格後、ALTのミーティングで顔を合わせたALTはベテランぞろい。長期間働いている人が多く、10年以上の人も複数人いたそうです。
前の記事でも紹介した園田論文(リンク)には次の記述がありました。
「直接任用 ALT は 30 歳以下の割合が 36%と 3 群の中で最も少なく、30 代の年齢層が 37%、40 代以上の ALT が 27%を占めている」
「自治体等で直接雇用された ALT の特徴を端的に表すと、長期的という言葉に集約される。
わが家のD(三女の夫、フィリピン人)は、9月から埼玉のある市の直接雇用ALTとして働き始めています。
直接雇用のALTに採用された経験をもとに、上の内容を検証してみたいと思います。
ALTも、こうしたことが外国人労働力(つまり彼等自身)のために仕事を作ってくれることになるのだから幸運だ。
昨年末に「結婚ビザ」で来日したDは、日本語がほとんどできなかったため、職探しは難航しました。天ぷら屋の厨房は「日本語力不足」で不合格。直接雇用の定期採用(1月)も不合格。実は、派遣会社のALTにも片っ端から応募しましたが、「通える範囲に空きがない」などの理由で不合格。
ハローワークに行って、日本語ができなくても働けるお菓子工場で採用され、最低賃金の時給で働いていました。
実際、「日本語ができない外国人」にとって、日本での就職は難しい、ということを身をもって経験しました。
すでにJETプログラムに参加していないのであれば、これは選択肢にはならない。現在日本に在住しているのでJETプログラムには申し込めない。
これは事実です。日本在住者は、JETプログラムの募集対象ではありません。
残るは教育委員会の『直接雇用』だが、これはめったにないし費用がかかる。
1月時点で「直接雇用」の募集を探してみましたが、数が少ないのは事実。通える範囲で直接雇用をしている自治体は3つほどしかありませんでした。
うち2つは、すでに応募が終了していました。現在働いている自治体は1月でも募集していましたがこれは例外的で、ほかは11月ごろに募集をしていたようです。
もし見つけたとしても、この仕事を得るには日本語・英語ともに流暢に話せることが必要だし、教員免許を(時には二つ!)持っていなければならない。
1月に書類提出に同行したとき(リンク)、「日本語を流暢に話せること」は応募条件ではありませんでした。ただ、「小学校の場合は、英語のできない先生が多いので、日本語ができるほうがよい」とは言われました。
実際の「面接」でも、日本語は最初の「自己紹介」だけで、そのあとは「日本語でも英語でもよい」と言われ、Dは英語で面接を受けたそうです。
教員免許も応募条件にありませんでした。大学の卒業証明書も、「提出する人もいますね」程度の扱いでした。
Dの場合、フィリピンの大学で「教育学(社会科)」を専攻し、教員免許を持っていただけでなく、高校の社会科の先生として1年ほど働いたことがありました。
本人は教育にやりがいを感じ、できれば続けたいと思っていたそうですが、あまりにも低賃金、ハードワークだったので、1年で辞めてしまったそうです。
面接では教職経験をアピールし、「教えていたのは社会科だが、授業はすべて英語で行っていた」ということも話したそうです。
フィリピンの国語はタガログ語。英語は小学校1年から習い始め、中学(フィリピンでは中学校と高校が一体で、合わせてハイスクールと呼ばれます)からは、国語以外の科目の教授言語(授業で使う言語)がタガログ語から英語に切り替わります。
学問に必要な専門的な語彙がタガログ語にないので、教科書も授業も英語で行われるんですね。こういう国はアジアやアフリカに多く、マレーシアやミャンマーもそうです。
最初に受けた説明では、その自治体には「ALTが12人いるが、新規の応募者も含め、ゼロベースで選考します」ということでした。
結果的に、定期採用で不合格、4月に欠員ができ補充の募集がありましたがそれも不合格、8月に再度、補充の募集があって、三度目の正直で合格しました(リンク)。
合格後、ALTのミーティングで顔を合わせたALTはベテランぞろい。長期間働いている人が多く、10年以上の人も複数人いたそうです。
前の記事でも紹介した園田論文(リンク)には次の記述がありました。
「直接任用 ALT は 30 歳以下の割合が 36%と 3 群の中で最も少なく、30 代の年齢層が 37%、40 代以上の ALT が 27%を占めている」
「自治体等で直接雇用された ALT の特徴を端的に表すと、長期的という言葉に集約される。
約 6 割の直接雇用 ALT は日本に滞在して 6 年以上経過しており、ALT としての教歴も他の2 群よりも長い。また 20%の ALT は 10 年以上の教歴を持ち、6 年以上 10 年未満(15%)の ALT と合わせると、約 3 人に 1 人は 6 年以上の ALT としての実績を積んでいる」
それを考え合わせると、「新規の応募者も含め、ゼロベースで選考」というものの、実際には特段の問題がない限り継続雇用されるようです。したがって、定期採用時も合格するのはけっこう難しいのかも。
もしかしたら、Dの「教職経験」が評価されたのかもしれません。
派遣会社の発言にある、「教員免許を(時には二つ!)持っていなければならない」というのは、自治体によっては、募集時の条件ではなくとも面接時の「評価項目」になっている可能性はあると思います。
また、Dは8月時点では来日後8か月が経過し、その間、家庭でも職場でも努めて日本語を使うように心がけ、JLPT(日本語能力試験)のための勉強もしていたので、日本語能力はかなり向上していました。この点も、面接で評価された可能性があります。
ただ、「直接雇用は高過ぎる(自治体にとって)」という部分が虚偽らしいというのは、前の記事に書いた通りです。
直接雇用のALTは、全ALTの20%弱。民間雇用(31.6%)、JETプログラム(25.6%)と比べ少数ですが、「めったにない」というほど少ないわけじゃない。入れ替わりが少ないので、募集はこの数字以上に少ないかもしれませんが。
ただ、JETプログラムのALTは半数が2年以内に帰国します。民間雇用のALTは、それよりは長いですが、それでも6 割以上が教歴3年未満(園田論文)だそうです。
直接雇用のALTは、勤続期間が長い分、経験豊富で教育のスキルも高いとは言えるかもしれません。
それを考え合わせると、「新規の応募者も含め、ゼロベースで選考」というものの、実際には特段の問題がない限り継続雇用されるようです。したがって、定期採用時も合格するのはけっこう難しいのかも。
もしかしたら、Dの「教職経験」が評価されたのかもしれません。
派遣会社の発言にある、「教員免許を(時には二つ!)持っていなければならない」というのは、自治体によっては、募集時の条件ではなくとも面接時の「評価項目」になっている可能性はあると思います。
また、Dは8月時点では来日後8か月が経過し、その間、家庭でも職場でも努めて日本語を使うように心がけ、JLPT(日本語能力試験)のための勉強もしていたので、日本語能力はかなり向上していました。この点も、面接で評価された可能性があります。
ただ、「直接雇用は高過ぎる(自治体にとって)」という部分が虚偽らしいというのは、前の記事に書いた通りです。
直接雇用のALTは、全ALTの20%弱。民間雇用(31.6%)、JETプログラム(25.6%)と比べ少数ですが、「めったにない」というほど少ないわけじゃない。入れ替わりが少ないので、募集はこの数字以上に少ないかもしれませんが。
ただ、JETプログラムのALTは半数が2年以内に帰国します。民間雇用のALTは、それよりは長いですが、それでも6 割以上が教歴3年未満(園田論文)だそうです。
直接雇用のALTは、勤続期間が長い分、経験豊富で教育のスキルも高いとは言えるかもしれません。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます