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Brugge Style
「くるみ割り人形」の季節が今年も
昨夜、ロイヤル・バレエThe Nutcracker「くるみ割り人形」のオープニング・ナイトだった。
女王シュガー・プラムの精がマリアネラ・ヌネツ(Marianela Nunez)、彼女のプリンスがヴァディム・モンタギロフ(Vadim Montagirov)。
彼らの、究極の、完璧な、とてつもなくすばらしいグラン・パ・ド・ドゥで夢の世界はさらなる極みへ。
もう惚れ惚れ。神業か。
劇場自体が鳴るほど盛り上がった。
主人公クララは、まだ子供時代の甘い夢にまどろみつつ、乙女らしい恋愛と世界への憧れを胸に抱いている。
最近、知り合いのお嬢さんにボーイフレンドができたそうだ。
大変なジェントルマンらしい彼を見つめる彼女のキラキラした瞳はクララのであるように違いない。
そうでなくとも、ロイヤル・バレエで12月の魔法の粉なぞかけてもらわなくても、彼らにはすべてが輝いて見えているだろう。
しかし、わたしのような古狸には「くるみ割り人形」のようなファンタジーのキラキラした魔法の粉が必要なのである。
クララの夢の世界へと一緒に流され、まだこの世に帰って来ていない気分だ。今日は何が起ころうとお菓子の国の女王のような微笑みで対処できそう(笑)。
昨夜はわたしはFrederic Malleの名香のひとつ、Une Rose(薔薇に黒トリュフの香り)をつけていて、増上効果で劇場内の誰よりも舞い上がっていたと思う。
何年か前の「インサイト」(公開の勉強会のようなもの)で、ダイレクターのKevin O'Hareが、グラン・パ・ド・ドゥをリハーサルするダンサーに、"Expensive Perfume!"「高価な香水のように!』と注文をつけていたのを思い出す。
どのダンサーもどなたもとてもすばらしかったが、特に薔薇の精を踊った金子扶生(ふみ)さんが役にぴったりで華やかでうっとりさせられた。なんと美しいダンサーだろうか。
ロイヤル・バレエの舞台の華麗さとリッチさはどこにも負けない。ただ装置や衣装が中途半端に古びて来(ちょっと80年代風がすぎる)たのは否めないので来年くらいには刷新したらいいのになと個人的には思っている。
......
「くるみ割り人形」にもたくさんのバージョンがある。
わたしはロイヤル・バレエが、少女の夢のお話の細部まで辻褄を合わせようと説明に必死になり、細かいところまで伏線を張り、破綻がないように物語ろうとする筋の運び方はどうかとは思っている。
そうは言っても祝祭的な気分満載なのでそんなことはどうでもよくなってくるのだが。
なぜなら「くるみ割り人形」の話の重要な核は、少女がクリスマス・イヴに見た極限に華やかでかつ奇妙な夢だからだ。
夢の世界はこの世と隣り合って存在しているのだろうが、夢には夢の条理があり、覚醒しているときに夢を思い出すと整合性がない方が普通であり、またその点こそが夢を現実とは違ってファンタスティックにしている最大の理由なのだから、それはそれでそっとしておくべきで、現実世界で通用する説明のあれこれは不要、無粋、野暮だと思うのだ。
だから今年公開の映画のように、クララを選ばれた救世主に仕立て上げるなどもってのほかである。と、わたしは思っている。
https://twitter.com/TheRoyalBallet に、すてきなGIFがたくさん上がっているのでぜひぜひ。
(写真はROHから)
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