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冬のブルージュ散歩




ブルージュでは人に会い、おいしいものを食べに行き...くらいしかすることがないので
街をあてもなくぶらぶら歩くことになる。ありがたいことにみごとな冬晴れ。時々コーヒー。


今回は時間を持て余して久しぶりにGroeningemuseumグルーニング美術館にも寄ってみた。
改装中につき、半分だけしか作品の公開がなく(初期フランドル派は見られます!)、
ものの1時間ほどで見終わった。

ちなみに今日から1月いっぱいは閉館され、2月1日から開館、
ただし3月12日までは再び一部公開のみ。

3月12日からは
Jan van Eyck in Brugesブルージュのヤン・ヴァン・エイク展が開催される。
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onegin 「目覚めよ、眠れる美女よ」



昨夜のロイヤル・バレエの『オネーギン』のオープニングを鑑賞するために、ブルージュには2泊だけしてロンドンへ舞い戻ってきた。


バレエ『オネーギン』はジョン・クランコ振り付け(最近では彼の『白鳥の湖』をプラハのチェコ・ナショナル・バレエ公演で見た)、原作はもちろんプーシキンの名作『エフゲニー・オネーギン』だ。

プーシキンの『エフゲニー・オネーギン』は非常に人物描写が優れた作品で、そちらは原作をご覧いただくことにして、バレエ版の内容を少々...

田舎貴族のラーリン夫人には2人の年頃の娘がいる。
長女タチアナはフランス恋愛小説の虫、次女はオルガ、美しく明るい娘だ。
ある日、オルガの婚約者で詩人のレンスキーが、オネーギンを連れてラーリン家を訪れる。

タチアナはオネーギンを見た瞬間恋に落ちる。今まで小説で育んできた恋心がそこに結晶したような(したように見えた)青年だったから。彼はサンクトペテルブルグの社交界で手練した若者で、都会の虚飾に退屈し、近代的自我に悩みつつ、田舎に住み始めたのだった。

タチアナはオネーギンに対する恋心を抑えることができない。
夢の中でオネーギンと情熱的に踊る夢を見、熱烈なラブレター(もちろん小説からの引用多々)をしたためる。当時のロシアでは若い娘が男性に手紙を書くなどもってのほかと考えられていた。

しかし後日、タチアナの名の祝いの日パーティーで、タチアナはオネーギンから子供っぽい行動は慎むようたしなめられ、これ見よがしにラブレターを引き裂かれてしまう。彼は自分に好意を寄せる女になぞ興味がないのである。タチアナの傷心といったら...

オネーギンは確たる理由もなく深く憂いており、洗練されないタチアナに感情を乱され、苛立つ。
彼は腹いせに無邪気で幸せなオルガを誘惑し、レンスキーを怒らせることで憂さ晴らしをしようとする。が、オルガもレンスキーも本気にしてしまい、侮辱を受けたと感じたレンスキーはオネーギンに決闘を申し込む。
オネーギンは友人との決闘を避けようとするものの、時すでに遅し。体面を重んじる若い男2人は、姉妹が止めるのもかまわず決闘に挑み、レンスキーは死亡する。

オネーギンはすべてに絶望し旅に出る。

数年後、モスクワの社交界に戻ってきたオネーギンは、美貌と知性が評判の貴婦人に出会う。
それは公爵夫人となったタチアナであった。

彼はタチアナに求愛するが(もちろん彼は自分のものにならない女が好きなのである)、タチアナは彼から受け取った手紙を数年前彼がしたと同じように破り捨てる。タチアナは彼に本心を伝えつつも、目の前から永遠に立ち去るよう命ずるのだった。

......


ロシア文学の人物の描き分け方には驚愕し、喜びさえ感じる。
この作品もまたそういう作品のひとつである。

内面がたやすく想像できる人物や、ステレオタイプや普遍的な人物像、意外な行動をとる人物もいれば、単純すぎたり、複雑だったり、理解を超える人物も登場する。
しかも同時に「ここには異なる空間と時間に生きる読者である私自身のことが書いてある」と思える。「全世界と共感し共鳴する能力」がこの作品には備わっている。それはヒロイン、タチアナの持つ能力であり、しかも、ダンサーNatalia Osipovaの持つ能力なのである。

主役のタチアナ、全身全霊のNatalia Osipova、コミュニケーションの不完全、もどかしさ、夢見る気持ち、疎外感、みじめな気持ち、...すべてすばらしかった。
カーテンコールで彼女が大泣きに泣いていたのも印象的だった。
大人の女として毅然とした態度を貫いた姿に彼女自身の姿が重なる。


オネーギンはReece Clarke。
もともとNatalia Osipovaの相手役としてのオネーギンはVadim Muntagirovが予定されており、このペアを楽しみにしていたファンは多かったと思うのだが、数週間前にVadim Muntagirovが役を降り、急遽Reece ClarkeがNatalia Osipovaの相手役に。
Reece Clarkeは当初、タチアナの夫になる公爵役としてキャストされていたので大抜擢と言っていいと思う。これを機会に(?)彼はファーストソリストに昇進した。

この、とても人の良さそうな、大変舞台映えのする美貌で長身の若いダンサーが、黒い悪魔的な服装でその善良さを抑え付けるようにし、すねたオネーギンをどう演じるのだろうか。

心配は無用だと思ったのは開演してすぐだった。
というのは、オネーギンは、そもそもその人自身が空虚だからである。
オネーギンには自分が実際は空虚であると分かるくらいの知性はもちろんある。その空虚さゆえに自分自身にとことん退屈した男であるからこそ、タチアナはフランス恋愛小説で培った自分の理想をそこに好きなだけ流し込んで実現化してしまう。

オネーギンという人物は、一見すると屈折した複雑な内面と洞察の必要な難しい役、と思われがちだが、実は全く正反対なのかもしれない。
逆に複雑で演じ難いのはタチアナや、オルガの婚約者で詩人のレンスキーの方かもしれない。

Reece Clarkeという姿の美しいダンサー(実際わたしの後ろに座っていた若い女性3人は彼に夢中になっていた)が、実際、複雑な人物であるのか、天真爛漫な人物であるのか、気立てがいいのか、悪魔的に理知的であるのか、わたしたちには分からない。
しかし、彼が舞台の上では、中身のなさや空虚さを抱える、外見は洗練された超美しい若い男に見えるのは本当である。
このことをわかってキャスティングがされたなら素晴らしいキャスティングだったと思う。

難しいことは何も考えられない魅力的なオルガ役のFrancesca Hayward(最近のCats人気はどうだ)も、純粋で実直なレンスキー役のMathew Ballもそれぞれはまっていてよかったです。
ブラヴォー!

(写真はROHから拝借)
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ブルージュの1月、暮れるまでの時間




15時すぎにブルージュに到着。

1月中旬のブルージュの中心部は、セール中ではあるものの、休暇中の店もちらほらあり、観光シーズンもいったん収まって、週末以外はとても静かだ。

またシーズンが始まる3月まではこんな様子で、ゆっくりしたい人にはおすすめの時期かもしれない。
全然寒くないし(今日は10度、明日も)。


義理の母と30分だけお茶をし(よく行く店は3軒とも休暇中だった)、向かいのセール中の店で娘にセーターを買ったら、お店のお姉さんに「あなた方のお嬢さん、先月買い物にこられたわよね。あなたとそっくりだから、そうかなと思ったのよ」と言われ、馴染の書店で夫が取り寄せた本を受け取って立ち話をして...あっという間に商店が一斉に閉まる18時に。

ホテルに戻り、サロンの火の入った暖炉横でコーヒーを飲んでいたら、もうディナーの予約時間の20時前。

まだまだ日が短いだけでなく、英国との間に1時間の時差があるので1日がとても短く感じる。
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夕暮れの花屋



閉店前のころの花屋や本屋、美術館っていいですね。

並べられているものが「やれやれ」と言っているような感じがする。
扉が閉まったあとは、昼間とは違う何かがそこで起こっていそうな...

先日も、ナショナルギャラリーを17時50分に追い出されるとき、奥から次から次へと閉まって行く大扉を眺めていると、並行世界はすぐそば、あるいは重なってすぐそこにあるのかもとうっとりしてしまった。


ちなみに異界というのは「『異界』に行く、行きたい」と言って行けるような仕方で存在しているものではない。
われわれが生きているこの界で、「別世界へ旅してきた」とか「異界へ足を踏み入れてしまった」とか「並行世界へ行った」とか気軽に言うが、そもそもそんな話ではない。わたしはそれが「ない」と言っているのではない。

異界や並行世界などのそれに類する界(今われわれがいるこの界以外の界)は、相対的な位置関係としてのみ存在し、独立してあるのではない。
つまりそれらは座標軸のX軸、Y軸のようなものである。そこからX軸だけ取り出すことはできないように、『異界』というのは、この界の住人であるわたしたちの意識の座標軸の一軸にすぎないのである。
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『眠れる森の美女』 青い鳥とフロライン姫




読んでいただく以上、バレエの話ばかりはよくないと思っている。
どうにかしたいと思ってはいる。 

今日はその埋め合わせとして、最後にドーノワ夫人作の「青い鳥」の話の筋を書いた。メーテルリンクに上書きされてあまり知られていないと思うので。


娘が大学生になって家を出た今、バレエの感動を伝える相手が身近にいない(夫はバレエは好きだがもちろんキャーキャー喜ぶわけではない)。
感動は誰かとシェアしてこそ。だからわたしはこうしてボキャブラリーの少なさや修辞の技術のなさに悩まされながら、自分宛に感動を書き綴ることになる。

願わくばその向こうに、どなたかバレエや演劇ファンの方がおられて、同意ではなくとも「そういうのもあるかもね」くらいに思って下さっていたらありがたい。


土曜日のマチネでもロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』公演も見た。主役の2人はMalianera NunezとVadim Muntagirov。

木曜の夜の公演を、わたしの言語能力の限界で絶賛したため、もうMalianera NunezとVadim Muntagirovについては書くことがない(笑)。
この主役二人の出来のむらのなさというのはそういうことなのであるな。
ローズ・アダージョでは毎回泣かされそうになる。憎いなあマリアネラ(上写真。2幕目の幻視のシーン。ROHから拝借)。





今回は高田茜さん(上写真。Dancetabから拝借)以来、久しぶりに素敵なPrincess Florine(青い鳥のフロライン姫)を見た。Melissa Hamiltonの代役でMayara Magri。

Florestan and His Sisters 王子の兄妹の踊りの佐々木万璃子さんもとてもすばらしかったです! 


......


バレエ『眠れる森の美女』の3幕目、オーロラ姫とフロリモンド王子の結婚式には、同じくペローの童話集から他のお話の主人公たちがお祝いに現れる。
いろいろなお話の世界が交差し、とても楽しい。

『赤ずきんちゃんと狼』
『長靴をはいた猫と白猫』
『青い鳥とフロライン姫』

は独立した踊りを踊り、背後には『シンデレラと王子様』『青髭と新妻』『美女と野獣』も登場する。

『赤ずきんちゃん』も『長靴をはいた猫』も有名なお話だが、『青い鳥』はメーテルリンクの優れた話に上書きされて、ほとんど知られていないような気がする。
もとは17世紀に妖精物語を多く編んだドーノワ伯爵夫人の物語だ。


......


昔々あるところに裕福な王様がいました。
王様は最愛のお妃さまを亡くしたばかりでしたが、間もなく他の未亡人と結婚します。

王様にはフロライン姫という姿も心も美しい娘がいました。
新しくお妃になった女性にはトゥリットン姫というわがままで自分勝手で醜い娘がいました。
新しいお妃様もトゥリットン姫も、美しいフロライン姫に嫉妬するようになります。

ある日、王様は年頃になった姫たちを結婚させることにしました。
ちょうどその頃、シャルマン王子が王国を訪れます。

お妃様は自分の娘であるトゥリットン姫をシャルマン王子と結婚させようと躍起になり、フロライン姫の侍女をだましたり、賄賂を渡したりして、フロライン姫のドレスや宝石でトゥリットン姫を飾り立てます。
それにもかかわらず王子様はフロライン姫を一目見て恋に落ちてしまいます。

お妃様とトゥリットン姫は嫉妬心から、王様にはフロライン姫を塔に閉じ込めるよう、シャルマン王子にはフロライン姫の悪口を吹き込みます。
お妃様はシャルマン王子に多くの贈り物をしますが、王子はまるで受け取ろうとしません。
怒ったお妃様はシャルマン王子に、王子が王国を去るまでフロライン姫は塔から出られることはないだろうと告げます。

王子様はフロライン姫に一目会えるようお妃に願います。
お妃様はその気持ちを利用し、暗闇の中で王子様にトゥリットン姫を会わせ、その姫がフロライン姫だと勘違いした王子は結婚を誓ってしまいます。

トゥリットン姫は自分のゴッドマザーであるマジラとたくらみ、王子と結婚式を挙げようとしますが、策略に気がついた王子は受け入れません。
マジラは王子が結婚の誓いを破ったと責め、それを理由に彼を青い鳥に変えてしまいます。

お妃様はトゥリットン姫に花嫁衣装を着せ、王子がトゥリットン姫と結婚することに決めたと嘘をつきます。
王様にはフロライン姫が王子様に恋狂いしているため、正気に戻るまでは塔に閉じ込めておくべきだと忠告します。

青い鳥は塔に閉じ込められたフロライン姫を訪れ、真実を告げます。
青い鳥はそれからひんぱんにフロライン姫を訪れ、たくさんの宝石を贈りました。


お妃様はトゥリットン姫のために婿探しをしますが、誰もトゥリットン姫と結婚しようとはしません。

一方、お妃様が塔の中のフロライン姫を訪れると、フロライン姫は青い鳥と楽しく歌っているではありませんか。お妃様はフロライン姫が反逆行為をしていると証言します。

この後、フロライン姫はしばらく青い鳥を呼べませんでした。近くでお妃様のスパイが見張っているからです。
しかしある夜から、スパイが寝ている間に、青い鳥を呼ぶようになります。
スパイはやがてそのことに気がつき、お妃様に告げ口します。

お妃様は青い鳥が止まる木に、とがったガラスや金属の仕掛けをし、青い鳥が怪我をするように細工してしまいます。
傷ついた青い鳥はもう飛ぶことができません。飛べなくなった青い鳥はフロライン姫を訪れられなくなり、フロライン姫は青い鳥に裏切られたと思います。

幸運にも魔法使いが傷ついた青い鳥を救います。
魔法使いはマジラに、青い鳥を人間の王子に数ヶ月間の間だけ戻し、もしもまだトゥリットン姫を拒絶するならば、また鳥の姿に戻せばいいのではないかと説得することに成功します。


ある日、王様が亡くなりました。
王国の国民はフロライン姫を塔から解放するよう要求し、お妃様を殺してしまいます。
トゥリットン姫はマジラに助けを求めます。

フロライン姫は女王になり、農婦に身をやつし青い鳥を探し始めます。その旅の途中で老女に化けた妖精に出会います。
妖精は、青い鳥はトゥリットン姫との結婚を承知して、そのひきかえに人間の王子の姿に戻ったのだと告げ、フロライン姫に4つの卵を与えます。

フロライン姫は一つ目の卵を象牙の塔を登るために使い、二つ目の卵から出てきた鳩の引くチャリオット(馬車...でなくてこの場合鳩車ですな)でシャルマン王子の王宮に行きますが、農婦に化けたままでは王子様に近づくことができません。

フロライン姫は青い鳥が贈ってくれた一番素晴らしい宝石をトゥリットン姫に売ると持ちかけます。トゥリットン姫がその宝石の価値を確認するために王子に見せると、王子はそれがフロライン姫に送ったものであることに気づき、深く悲しみます。

フロライン姫は、宝石に「こだまの部屋」で一夜過ごす権利を交換条件としてつけました。その部屋で話されたことは全て王子の部屋に筒抜けなのです。
その部屋で、フロライン姫は自分を置いて去ってしまった王子を夜通しとがめ嘆き悲しみますが、王子は眠り薬を飲んでおり、何も聞こえていませんでした。

フロライン姫が三つ目の卵を割ると、子ネズミに引かれた乗り物が現れました。フロライン姫はそれと交換に「こだまの部屋」でまた一夜過ごし、一晩中嘆き悲しみます。でも、それを聞いたのはお小姓だけでした。

次の日、最後の卵を割ると6羽の鳥のパイが現れました。小姓にそれを与え、引き換えに今夜は王子に眠り薬を与えるなと言います。フロライン姫はその夜も「こだまの部屋」で一晩中嘆きます。

王子様はついにフロライン姫の声を聞き、「こだまの部屋」に走っていきました。王子様はすぐにフロライン姫に気づき、2人は再開を喜びます。

魔法使いと妖精は、マジラが彼らに手出しできないよう保障します。
トゥリットン姫がシャルマン王子とフロライン姫の仲を邪魔しようとしたとき、彼女は雌豚に変えられてしまいました。

シャルマン王子とフロライン姫はいつまでも仲良く暮らしました。
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