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ケネディ暗殺事件の犯人とされた、オズワルド。逮捕され、移送中に別の男に射殺された。そして、真相は藪の中―
「逃げろ。おまえ、オズワルドにされるぞ」
首相暗殺事件の犯人という濡れ衣を着せられ、国家的な陰謀を相手に絶望的な逃避行をする羽目になった、元宅配ドライバーの青柳雅春。
どうして、どうしてこんな事に―
「事件のはじまり」、「事件の視聴者」、「事件から二十年後」、「事件」、「事件から三ヶ月後」の五部に章立てされています。
「はじまり」では、登場人物の一人の目線で、事件の発端が描かれます。
「視聴者」では、一般人と思われる登場人物が、テレビの前で事件の生中継~容疑者の特定や逃亡中の容疑者の情報などを追います。大事件にマスコミが狂乱する様子、普通の視聴者から見た容疑者像が描かれます。
現実の重大事件でも、マスコミが大騒ぎして、犯人像を取材し、テレビの中でも前でも、勝手な憶測を語ったりしています。
つい先日の、坂出での殺人事件の、父親を犯人と決め付けるような報道や、佐世保での猟銃乱射事件の容疑者の周辺で、「奇行が目立っていた」「ストーカーをしていた」などの“いかにも”な情報が次々語られる様子を思い出しました。
「まさかあの人が」と思っている人でも、犯人と断定されると、「そういえば…」と事件の前兆だったかのようなエピソードを語ったり。
そうして“好人物”だったはずのイメージを貶められていく、容疑者としての青柳雅春。
「二十年後」では、あるノンフィクションライターが、事件のレポートを記録した章になっています。
事件後様々な陰謀説が飛び交い、結局真相は藪の中。でも、今では青柳雅春は濡れ衣だった、というのが一般的だという。
ここまでが、序章といった感じで、ページにしてほんの70ページほどです。
そして、青柳雅春本人や、周辺の人間の視点で描かれる、「事件」。
逃亡中の真実の青柳の姿。
警察も信用できない。射殺もやむなしどころか、「犯人死亡」で決着を付けたいらしい。誰かに頼れば、その人が巻き添えを食うかもしれない。
そんな状況でも、仲間が、見ず知らずの人が、時折逃亡の手助けをしてくれます。
「頑張って、逃げろ。」
逃げて、逃げて、逃げまくる。
そして、所々に挟まれる、平凡だった懐かしい学生時代の日常の思い出…。
現在の、怖ろしい非日常との対比が切ないです。
なぜ、彼がこんな理不尽な目に遭わなきゃいけないんだー
ページを繰るのも、もどかしく、助かったのかどうか結末が気になって、1回目は飛ばし読みしちゃったよ
濡れ衣を着せられて、真実を明かすために必死に逃亡する…というストーリーは、映画などに良く出てくる設定ですが、そんなありきたりじゃないです。
カバー見返しに、「本書は、『伊坂幸太郎的に娯楽小説に徹したらどうなるか』という発想から生まれた、直球勝負のエンターテイメント大作。冴えわたる複線、忘れがたい会話、時間を操る構成力…、全てのエッセンスを詰め込んだ、伊坂小説の集大成である」とあります。
まさにその通り
ラストまで一気に読み終えて(結構ページがあるので、実際は数日に分けて読みましたけども、読んでる時の気分としては、一気読み)、さらに確認のため、もう一度読み直したくなります。
「事件から三ヶ月後」での、エピソードの数々。
「事件から二十年後」での、ある言葉を見つけた時の、納得。
冴えわたる複線、忘れがたい会話、時間を操る構成力。
そう、そうなんだよ。これが伊坂幸太郎の面白さ。
ネタバレになるので書けませんが、あれも、これも、あのセリフも…どれも素敵で、サプライズで、「ここが好き」って全部書きたいっ
タイトルの「ゴールデンスランバー」は、ビートルズのアルバム「アビーロード」に収録されている曲だそうです。
解散が避けられそうもない状況で、ポール・マッカートニーがなんとか4人を取りまとめて収録したという、事実上最後のアルバムの中の一曲。
ストーリーの中で、重要な役割を持つ、言わばテーマ曲となっています。
今はバラバラに暮らす、青柳の学生時代の仲間達。当時の思い出を喚起する曲。
ビートルズの曲は、さすがにいくつかは知ってますが、これは知りませんでした。
試聴できるサイトを調べて見つけました。
Golden Slumbers
こんな感じの曲だったのか…
ビートルズの4人の写真と、青柳の学生時代の仲間4人の姿が重なります。
「昔は故郷へ続く道があった」
「おやすみ。泣かないで」
ストーリーと重ね合わせると、切なくなりました。