ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第43回 行政組織法その1 行政組織法の一般理論

2021年03月02日 10時30分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.行政組織法定主義

 日本国憲法第41条が「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」と定めていることから、行政組織の編成に関する決定権は最終的に国会にあると考えられる。このことから、行政組織についても基本的に法律主義が妥当すると理解される(民主的統治機構説)。勿論、細部についてまで法律で定めなければならないという訳ではないが、基本部分については法律で定めなければならないのである。国家行政組織法第3条第1項が「国の行政機関の組織は、この法律でこれを定めるものとする」と定めるのも、法律主義の現われである。また、憲法第73条第4号が、内閣の職務の一つとして「法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること」を掲げることにも、注意を向けていただきたい。

 行政組織法とされる法には、内閣法、国家行政組織法、会計検査院法、内閣府設置法、各省設置法(法務省、財務省などの各省ごとに設置法がある)、地方自治法などがある。これらの法律が、国や地方公共団体の組織や権限を定めている。

 

 2.行政主体(行政体)

 行政活動の担い手である法人を行政主体(行政体)という行政主体は行政上の権利義務の主体である。具体的には、次のようなものである。

 〔1〕国(国家)

 国家は行政主体の代表的存在であり、法律学の観点からすれば法人として位置づけられる。

 少なくとも日本における最近の憲法学の教科書では、国家論あるいは国家学説に言及していないものも多く、国家法人説、国家有機体説などの議論もあまりなされていないようであるが、法律学の観点からすれば、国家法人説を前提と考えるべきであろう。少なくとも、国(国家)と個人との関係を考える際に、そこに権利義務関係が存在することは否定できないのであるから、国(国家)が法人であることを認めなければ、国有財産、行政契約などの概念も成立しえないこととなるであろう。

 国(国家)を法人として捉えるならば、社団法人の一種または変種であると理解できる。そして、内閣総理大臣、国務大臣、各省庁などは国家機関であることとなる。

 イメージが湧かなければ、国や地方公共団体を生身の人間(法律学でいう自然人)と想定すればよい。たとえば、内閣は国の頭部(あるいは脳)、国の職員は国の手、足などと考えてみればよい。

 〔2〕地方公共団体

 国家と並ぶ行政主体の代表的存在が地方公共団体である。地方自治法第2条第1項は「地方公共団体は、法人とする」と定めており、地方公共団体が国家の機関ではなく、国家とは別の人格を持つものであることを示している〈この規定との対比を通じても、国(国家)が法人であることを否定することはできないであろう〉。地方公共団体は、やはり、社団法人の一種または変種であると理解できる。

 日本国憲法第8章にいう地方公共団体、換言すれば、憲法において必ず設置されなければならないものと想定されている地方公共団体が何かということについては、都道府県および市町村とする説と、市町村のみとする説とがある〈これが道州制の議論につながる〉

 地方自治法は、地方公共団体を普通地方公共団体と特別地方公共団体とに区別する。普通地方公共団体は都道府県および市町村であり(同第1条の3第1項・第2項)、特別地方公共団体は都の特別区、地方公共団体の組合および財産区(同第1項・第3項)である。

 現在、特別区は東京都の区(千代田区、中央区、港区など)のみである。政令指定都市の区(例、横浜市中区)は行政区といい、法人ではない。

 〔3〕公共組合

 公共組合は、利害関係人(一定の組合員)により、特別の法律によって設立される社団法人で、公の行政に属する特定の事業を行なうためのものである。

 通常、行政上の特別の権能(公権力性、強制徴収など)を有するとともに、強制加入、国の監督権などを伴う。例として、土地改良区(土地改良法)、健康保険組合(健康保険法)がある。弁護士会、司法書士会、行政書士会なども公共組合の一種である。

 〔4〕特殊法人

 特殊法人については様々な定義があるが、ここでは、法律によって直接設立されるもの(公社)、および、特別の法律によって特別の設立行為をもって設立される法人(公団、事業団、公庫、営団、特殊会社、地方公社、港湾局など)としておく。独立採算制による企業的な経営方式を採る、とされた。

 〔5〕独立行政法人

 独立行政法人通則法および個別の独立行政法人設立法により設置される法人で、政策の実施機関(試験研究機関など、国家行政組織法第8条の2に定められた機関)や国公立大学などを国や地方公共団体から切り離し、独立の法人格を与えたものである(独立行政法人通則法第2条第1項、地方独立行政法人法の定義を参照すること)。これにより、国の省庁などの事務は、基本的に政策の企画立案や監督行政に限定される、とされる。

 独立行政法人通則法第2条は、独立行政法人を三種に分類する。

 まず、中間目標管理法人は「公共上の事務等のうち、その特性に照らし、一定の自主性及び自律性を発揮しつつ、中期的な視点に立って執行することが求められるもの(国立研究開発法人が行うものを除く。)を国が中期的な期間について定める業務運営に関する目標を達成するための計画に基づき行うことにより、国民の需要に的確に対応した多様で良質なサービスの提供を通じた公共の利益の増進を推進することを目的とする独立行政法人として、個別法で定めるものをいう」(同第2項。同第29条以下、同第50条の2以下も参照)。

 次に、国立研究開発法人は「公共上の事務等のうち、その特性に照らし、一定の自主性及び自律性を発揮しつつ、中長期的な視点に立って執行することが求められる科学技術に関する試験、研究又は開発(以下「研究開発」という。)に係るものを主要な業務として国が中長期的な期間について定める業務運営に関する目標を達成するための計画に基づき行うことにより、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため研究開発の最大限の成果を確保することを目的とする独立行政法人として、個別法で定めるものをいう」(同第2条第3項。同第35条の4以下、同第50条の2以下も参照)。

 そして、行政執行法人は「公共上の事務等のうち、その特性に照らし、国の行政事務と密接に関連して行われる国の指示その他の国の相当な関与の下に確実に執行することが求められるものを国が事業年度ごとに定める業務運営に関する目標を達成するための計画に基づき行うことにより、その公共上の事務等を正確かつ確実に執行することを目的とする独立行政法人として、個別法で定めるものをいう」(同第2条第4項。同第35条の9以下、同第51条以下も参照)。行政執行法人の職員は国家公務員としての身分を有する(同第51条)。

 独立行政法人は、行政の効率的な運営を目的とするものとされ、事務事業の透明性、柔軟な組織運営を目指すものと位置づけられている。

 独立行政法人の組織、人事、財務および業務について国が関与権を有する。業務については、国の関与が違法行為の是正要求(行政指導と考えられる)に限定されている。また、主務大臣が中期目標を策定し、この中期目標を達成するための中期計画を独立行政法人が作成する。独立行政法人の業務は、この計画に基づいて行われ、独立行政法人評価委員会という第三者機関によって実績が評価される。

 〔6〕認可法人

 民間などの関係者が発起人となって自主的に設立する法人のうち、業務の公共性などの理由により、設立について特別の法律に基づいて主務大臣の認可が要件となっているものをいう。行政実務用語である。日本下水道事業団や日本商工会議所などがある。

 〔7〕指定法人

 これも行政実務用語で、特別の法律に基づいて特定の業務を行うものとして、行政庁によって指定された民法上の法人である。試験や検査を行う機関、啓発活動などを行う機関などがある。

 〔8〕登録法人

 法律に基づいて行政庁の登録を受けた法人であって、公共性が認められる一定の事務や事業を委ねられるものである。

 

 3.行政機関の概念

 行政主体(とくに国、地方公共団体)の機関を行政機関という。

 行政機関の概念は、立脚点によって二種類に大別されている。但し、日本の法令においては二種類とも使われているので、注意する必要がある。

 〔1〕作用法的機関概念

 行政機関と私人との関係(外部関係)を基準とするものである。行政行為論などにおける行政庁理論が代表的である(国の機関である場合には行政官庁となる)。

 「第7回 行政立法その2:行政規則」において外部的効果と内部的効果について説明した。外部的効果は外部関係に関わるものであり、内部的効果は内部関係(行政主体内の行政機関同士の関係など)に関わるものである。この区別は行政作用法の理解のためにも重要である。

 〔2〕事務配分的機関概念

 行政機関が担当する事務を単位として扱うものである。従って、外部関係・内部関係の区別とは無関係である。従来からの典型例が国家行政組織法であり、近年では情報公開法など少なからぬ法律がこの概念を採用する。但し、作用法的機関概念が忘れ去られた訳ではない。

 なお、行政機関に権限はあるが、権利はない(通説)。権利は人格のあるもの(自然人および法人)が有するものである。行政機関は法人でなく、自然人になぞらえるならば頭部、手、足のようなものでしかないからである。

 権限とは、行政主体の権利や義務の実現のため、行政機関に認められ、または義務付けられた行為を指していう。

 

 4.行政庁

 作用法的機関概念の代表が行政庁理論である。日本においては伝統的な理論であるが、現在も日本の法律の多くは行政庁理論を採用しているので、よく理解しておいていただきたい。

 〔1〕行政(官)庁など

 (1)行政(官)庁

 行政(官)庁とは、国家意思を決定し、外部に表示する機関のことである。一般的には単独制(独任制)であり、各省大臣、都道府県知事、市町村長などが該当する。但し、法律によっては、公正取引委員会、公安委員会、教育委員会などの行政委員会のように合議制が採られることもある。

 行政(官)庁は対外的な意思決定表示機関であるから、私人・私法人、さらに他の行政主体との法的関係を検討する際に重要な意味を有する。行政行為論などにおいて行政(官)庁の概念が多用されたのも、法的関係を重視する側面があったからである。しかし、行政(官)庁だけで全ての行政活動がなされる訳ではない。行政(官)庁は、人間の身体になぞらえるならば脳あるいは頭部のようなものである。人間が、脳あるいは頭部だけで活動を行いえないように、行政主体も、行政(官)庁だけでは十分な意思決定をなしえないし、活動をなしえない。そこで、行政主体は、行政(官)庁を頭としてこれを助ける諸機関から構成される。

 (2)補助機関

 行政(官)庁を補助する機関として、補助機関がある。実定法では政務官、事務次官、局長、課長、副知事、助役などが該当する。職員一般も補助機関である。

 (3)諮問機関

 行政(官)庁の意思決定を補助するが、補助機関とは異なるものとして諮問機関がある。これは、行政(官)庁の意思決定に際して、専門的な立場から、あるいは行政(官)庁による決定の公正さを担保する意味で決定に関与する機関である。実際の名称は、政府の税制調査会、経済財政諮問会議、中央教育審議会などにみられるように様々であるが、国家行政組織法第8条にいう審議会が代表例であり、合議制であることが通常である。なお、諮問機関による意見には法的拘束力がない。

 (4)参与機関

 諮問機関とは別に、参与機関が存在する。これは、行政(官)庁の意思決定に関与するという点などにおいて諮問機関と同様であるが、法的拘束力があるという点で異なる。例として、電波監理審議会、検察官適格審議会がある。

 (5)執行機関

 また、執行機関という概念が存在する。これは、国民に対して実力を行使する権限を有する機関のことである〈地方自治法第7章にいう執行機関とは全く意味が異なるので、注意が必要である〉。警察官、消防署員、徴収職員など、行政上の強制執行や即時執行に携わる者が該当する。また、立入検査や臨検に携わる者も含められうる。

 〔3〕行政機関の相互関係

 通常、行政主体の行政機関は複数存在する。そこで行政機関同士の関係が問題となるが、大きく3つの場合に分けられる。

 (1)上下関係の場合

 基本的に指揮監督関係である。上級行政機関には次のような権限が認められる。

 監視権:調査権、報告徴収権をいう。法律の根拠がなくとも認められる。

 認可権(同意権、承認権):下級行政機関の権限行使に対して上級行政機関が内部的に同意や承認をなす権限をいう。法律の根拠がなくとも認められる。なお、国と公法人(公共組合、特殊法人など)との関係においても国の認可権が認められる場合がある。成田新幹線訴訟(最二小判昭和53年12月8日民集32巻9号1617頁。Ⅰ―2)を参照。

 指揮権:訓令・通達により、上級行政機関が下級行政機関の権限行使について命令を発する権限をいう。法律の根拠がなくとも認められる。

 取消停止権:下級行政機関の行為を取り消したり停止したりするもので、取消または停止の命令→取消・停止という形をとる(地方自治法第154条の2など)。法律の根拠が必要か否かについて議論がある。

 代執行権(代替執行権、代行権):下級行政機関がなすべき行為を上級行政機関が代わって行う権限をいう。法律の根拠を必要とする。

 権限争議裁定権:下級行政機関の権限に関する争いにつき、上級行政機関が裁定する権限をいう。

 (2)委任関係および代理関係

 元々上下関係にある場合には、委任関係や代理関係が成立した後も、上級行政機関と下級行政機関との間に指揮監督関係が残る。元々上下関係にない場合については、後述〔4〕および〔5〕を参照。

 (3)対等関係

 複数の行政機関が上下関係にない場合(例、財務大臣と総務大臣との関係)は、対等な関係である。これについては、次の判決がある。

 ●最三小判平成6年2月8日民集48巻2号123頁

 事案:恩給担保金融を行う国民金融公庫(被告)に対し、国(原告)が恩給受給者の普通恩給などを払い渡したが、当時の総理府恩給局長がこの恩給受給者についての恩給裁定を取り消したため、国が国民金融公庫に対して支払った普通恩給などについて不当利得返還請求を求めた。国民金融公庫は信義誠実の原則違反および権利濫用を主張した。東京地方裁判所および東京高等裁判所は国の請求を認めたが、最高裁判所は破棄自判判決を下した。

 判旨:最高裁判所第三小法廷は、国民金融公庫が公法人であって当時の大蔵大臣の認可、監督、計画、指示の下に必要な事業資金を国民に融通するという行政目的の一端を担うことを認めた。しかし、一方で国民金融公庫が国から独立した法人であり、自律的な経済活動を営むものであり、恩給法の下で一定の要件の下に恩給担保貸付を義務付けられていることなどを述べている。そして、国民金融公庫が恩給裁定の有効性について自ら審査することができないから、国が不当利得返還請求をなすことは許されない、とした。

 〔4〕権限の代理

 権限の代理とは、行政機関Aの権限を、別の行政機関Bが代理機関となって行使することである。これは、民法学の代理と同様である。すなわち、代理機関であるBは、被代理機関であるAの名において処分権限を行使する。従って、Bが行った行為は、Aの行為として法的効力を生ずる。

 権限の代理は、授権代理と法定代理とに区別される。

 授権代理とは、授権によって代理関係が生じる場合をいう。法律の根拠が不要であるとするのが通説である。被代理官庁には指揮監督権が残され、責任は被代理官庁に帰属する。

 法定代理は、さらに二種類に分類される。

 まず、狭義の法定代理とは、法律で定められた要件が充足された場合、当然に代理関係が生じることをいう(地方自治法第152条第1項など)。法律の根拠が必要である。

 次に、指定代理(広義の法定代理)とは、法律で定められた要件が充足された場合、指定によって代理関係が生じることをいう(内閣法第9条など)。この場合も法律の根拠が必要である。

 〔5〕権限の委任

 権限の委任とは、行政機関Cの権限の一部を別の行政機関Dに委任して行使させることをいう。権限の代理とは異なるので注意が必要である。

 まず、権限の委任により、権限は委任官庁から受任官庁に移される。従って、例えば行政行為(許認可など)についてみれば、行政機関Cから行政機関Dに権限が委任された場合、処分庁は行政機関Cではなく行政機関Dになる。

 このように、権限の委任がなされる場合には、法律において定められた処分権限の変更が行われることとなる。そのため、法律の根拠が必要である。

 〔6〕専決・代決

 専決・代決のいずれも、行政実務において古くから行われてきた内部的な事務処理方式であり、法律の根拠は不要である。

 専決とは、法律によって権限を与えられた行政官庁が、補助機関に決裁の権限を委ねることである。実際には補助機関が最終的な決裁を行うが、外部に対してはあくまでも行政官庁の名と責任で活動がなされることとなる。

 地方自治法第179条に定められる、普通地方公共団体の長の専決処分とは意味が異なるので、注意を要する。

 代決とは、専決のうち、決定権限を有する者が不在の場合に、補助職員が臨時的に代行して決裁を行う場合を指す。

 

 5.国家行政組織法などによる事務配分的行政機関概念

 〔1〕行政機関

 事務配分的行政機関概念の場合は、最大単位が最も重要な意義を有する。最大単位から最小単位に向かって、府・省→庁、局、部、課、係、職ということになる。

 〔2〕行政機関相互の関係

 事務配分的行政機関概念の場合における行政機関相互の関係は、次のとおりである。

 まず、指揮監督関係がある(例、国家行政組織法第14条第2項)。

 代理関係および委任関係は、事務配分的行政機関概念においても認められる。

 行政庁理論などの作用法的機関概念には登場しない(想定されていない)関係としては、次のようなものがある。

 共助関係:対等な関係、または相互に独立という関係にある行政機関が協力し合うことをいう。実定法では共助、協力、相互応援などの語が用いられる。 

 調整関係:内閣官房および内閣府は、行政機関の調整を主要な事務とする(内閣法第12条第2項、内閣府設置法第4条第1項、同第9条などを参照。国家行政組織法第15条も参照)。

 評価・監察関係:監査、検査、監察などの関係をいう。代表的であるのは会計検査院による監査・検査であるが、総務省も政策評価や行政監察を行っている。

 管理関係:内閣法制局、総務省、人事院などと他の行政機関との関係が念頭に置かれている。

 

 ▲第7版における履歴:2021年03月02日に掲載。

 ▲第6版における履歴:2017年10月30日掲載(「第29回 行政組織法その1 行政組織法の一般理論」として)。

            2017年11月01日、第30回に繰り下げ。

                                    2017年12月20日修正。

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