本当は「103万円の壁」がどのように変わるのかを書こうとしたのですが、私が担当している講義「税法B」のレポート課題になっているため、ここでは記さないこととします。ちなみに、以前記した結婚・子育て資金に関する贈与税の特例も、別の講義のレポート課題になっていますが、これは出題の仕方が異なるので、このブログに書いています。
その代わりと言えるかどうかはわかりませんが、タイトルに示したことを、12月27日の閣議決定「令和7年度税制改正の大綱」(以下、政府税制大綱)から紹介しておきます。
まず、政府税制大綱22頁です。固定資産税の特例措置で、新設となっています。
「鉄軌道事業者が豪雨対策のために取得した一定の償却資産(次の線区に存するものに限る。)に係る固定資産税について、課税標準を最初の5年間価格の3分の2(一定の鉄軌道事業者については4分の3)とする特例措置を令和9年3月31日まで講ずる。
①1日当たりの片道断面輸送量が1万人未満の線区
②1日当たりの片道断面輸送量が1万人以上15万人未満の線区(一定の鉄軌道事業者の線区を除く。)
③1日当たりの片道断面輸送量が15万人以上の線区であって、貨物運送を行う列車又は運賃のほかに特別の料金の定めがある旅客運送を行う列車が運行する線区(一定の鉄軌道事業者の線区を除く。)」
ここ数年の間に多発し、鉄道・軌道の存廃問題にすら至ってしまう激甚災害ヘの対処ということでしょう。そのことは、「1日当たりの片道断面輸送量が1万人未満の線区」などと書かれているところからわかります。実際に必要とされるのは①であることが多いと考えられますが、1万人未満であるということは、現在存廃議論の対象となる輸送密度1000人/日未満の路線・区間も対象になるということでしょう。なお、気になるのは「一定の鉄軌道事業者の線区を除く」で、12月20日の与党税制改正大綱40頁でもあげられているものの、具体的なことは書かれていません。
政府税制大綱25頁以下では、固定資産税の特例措置のうち、適用期限の延長を行う予定であるものについて次のように掲げられています。
「(18)鉄軌道事業者が政府の補助を受けて取得した車両の運行の安全性の向上に資する一定の償却資産に係る固定資産税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。
(19)鉄軌道事業者が取得した新造車両で高齢者、障害者等の移動等の円滑化に資する一定の構造を有する車両に係る固定資産税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。
(20)都市鉄道等利便増進法に規定する都市鉄道利便増進事業により取得した鉄道施設に対して、次の措置を講ずる。
①鉄軌道事業者又は一定の第三セクター若しくは独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が取得した駅施設の用に供する一定の家屋及び償却資産に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。
② 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が整備した線路設備等のうち市街化区域のトンネルに係る固定資産税の非課税措置の適用期限を2年延長する。
(21)地域公共交通の活性化及び再生に関する法律に規定する鉄道事業再構築事業を実施する路線において政府の補助を受けて取得した一定の家屋及び償却資産に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。
(22)鉄道事業者等がその事業の用に供する鉄道施設等を高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律に規定する公共交通移動等円滑化基準に適合させるために実施する一定の鉄道駅等の改良工事により取得した一定の家屋及び償却資産に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。」
「(27)鉄軌道事業者が首都直下地震・南海トラフ地震に備えた鉄道施設等の耐震補強工事によって新たに取得した一定の償却資産に係る固定資産税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。」
固定資産税は、その性格上、鉄道・軌道に関係の深い地方税となっています。おそらく、上記の特例措置の多くは地方税法の本則ではなく、附則に規定されることでしょう。よく講義の場で言うのですが、租税法や財政法の場合は他の法分野と異なって当該法律の附則を見なければ正確なことがわかりません(国税の場合は租税特別措置法です)。このことは地方税法について特に妥当しますし、地方財政法や地方交付税法についても同様です。注意しなければなりません.
鉄道・軌道は、固定資産税だけに関係するものではありません。続いて、政府税制改正大綱の64頁です。軽油引取税(都道府県税)の特例措置について、次のように記されています。
「(3)免税軽油を使用する鉄道事業又は軌道事業を営む者(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律に基づき国土交通大臣が指定する特定旅客輸送事業者等に限る。)が、非化石エネルギーへの転換のための措置として、鉄道用車両又は軌道用車両の燃料タンクにバイオディーゼル燃料等を給油し、当該鉄道用車両又は当該軌道用車両の動力源の燃料として消費する場合について、次の措置を講ずる。
①製造の承認を受ける義務を免除する。
②軽油引取税のみなす課税を適用しないこととする。
③その他所要の措置を講ずる。」
バイオディーゼルは、以前、何処かの鉄道会社で盛んに宣伝されていたような記憶があります。自動車の世界であればフォルクスヴァーゲンのゴルフが何かの本で紹介されていました。ただ、JRグループで採用されていたことがあったのかはわかりませんし、JR東日本やJR九州では蓄電池電車やハイブリッドディーゼル車が投入されていますので、実際のところ「バイオディーゼル燃料等を給油し、当該鉄道用車両又は当該機同様車両の動力源の燃料として消費する場合」がどの程度広がるのかはわかりません。
また、ここの「等」は具体的に何を意味するのかが明らかにされていません。「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」を参照すると、第2条(多くの法律と同様に定義規定です)において次のように規定されています。
第1項:「この法律において『エネルギー』とは、化石燃料及び非化石燃料並びに熱(政令で定めるものを除く。以下同じ。)及び電気をいう。」
第2項:「この法律において『化石燃料』とは、原油及び揮発油、重油その他経済産業省令で定める石油製品、可燃性天然ガス並びに石炭及びコークスその他経済産業省令で定める石炭製品であつて、燃焼その他の経済産業省令で定める用途に供するものをいう。」
第3項:「この法律において『非化石燃料』とは、前項の経済産業省令で定める用途に供する物であつて水素その他の化石燃料以外のものをいう。」
第4項:「この法律において『非化石エネルギー』とは、非化石燃料並びに化石燃料を熱源とする熱に代えて使用される熱(第五条第二項第二号ロ及びハにおいて「非化石熱」という。)及び化石燃料を熱源とする熱を変換して得られる動力を変換して得られる電気に代えて使用される電気(同号ニにおいて「非化石電気」という。)をいう。」
第5項:「この法律において『非化石エネルギーへの転換』とは、使用されるエネルギーのうちに占める非化石エネルギーの割合を向上させることをいう。」
第6項:「この法律において「電気の需要の最適化」とは、季節又は時間帯による電気の需給の状況の変動に応じて電気の需要量の増加又は減少をさせることをいう。」
こうしてみると、政府税制改正大綱の64頁における「等」は、水素燃料、燃料電池、ハイブリッドディーゼルを含むものではないかと考えられます。そうすると、鉄軌道用車両のための現実的な選択肢としてハイブリッドディーゼル車ということになるのではないでしょうか。
また、「非化石エネルギー」ということでは蓄電池電車も選択肢となりえます(厳密に考えれば、蓄電池に充電する電気が化石エネルギーの産物ではないかと思われますが、そこまで考える必要はないということでしょう)。ただ、蓄電池電車はディーゼルカーではないので、軽油引取税の対象にはなりません。だからこそ、路線の条件次第では蓄電池電車ということになります。
問題は、JRグループ以外の鉄道会社でしょう。関東地方を例に挙げるならば、関東鉄道、小湊鉄道、いすみ鉄道、鹿島臨海鉄道、真岡鐵道、わたらせ渓谷鉄道、ひたちなか海浜鉄道といったところです。会社の規模、営業成績にもよりますが、ハイブリッドディーゼル車などの導入が難しいところがあるはずです(これらの鉄道会社の路線の場合、蓄電池車両は現実的な選択肢とは言えないと思われます)。
鉄道や軌道の維持・発展に、税制改正がどの程度寄与するのかは、少なくとも私にとっては不明であり、検証の必要はあります。とは言え、全く何らの手をも打たないよりはよいということでしょう。