ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

水利地益税の課税団体(1)

2019年01月06日 08時00分00秒 | 法律学

 1月7日に行う講義の準備をしていたところ、水利地益税のことが気になりました。都市計画税との関係があったからです。

 私がまだ大分大学教育福祉科学部の講師であった時に書いた「地方目的税の法的課題」(2001年3月20日発行の日税研論集46号の279頁以下に掲載されています)でも少しばかりの検討をしました。その論文にも記しましたが、1995年度において25の市町村が水利地益税の課税を行っていました。これは自治省税務局編『地方税制の現状とその運営の実態(平成9年9月)』(1997年、地方財務協会)に示されていた数字です。

 この時点においては市町村の数が3000を超えていましたから、25とはいかにも少ない数字です。

 それでは、最近はどうなのだろうと思って、検索をかけてみました。ヒットしたのが総務省のサイトで「参考資料 資料1−2」としか書かれていないもの(http://www.soumu.go.jp/main_content/000162255.pdf)で、それによると、平成22年度、つまり2010年度の課税団体は5市町村のみでした。都道府県も水利地益税を課することができますが(地方税法第4条第5項)、「地方目的税の法的課題」の執筆段階においても課税している都道府県はなかったのです。また、2010年度とは少し古い話でして、その後については、手持ちの資料ではわからずじまいです。

 仕方がないので2010年度における水利地益税の課税団体を記しておきます。登米市(宮城県)、朝日町(富山県)、羽島市(岐阜県)、いの町(高知県)および湯前町(熊本県)です。どうでもよいことですが、この5市町村のいずれも、程度の差はともあれ、鉄道ファンにとっては馴染みの深い名前でしょう。さらにどうでもよいことですが、羽島市には東海道新幹線の駅があり(岐阜羽島駅)、大手私鉄の駅もあります(名鉄竹鼻線・羽島線の南宿駅から新羽島駅までの各駅)。

 元に戻って、再び検索をかけてみます。市町村税条例を見てみればよいであろう、という考えの下です。

 

 まず登米市ですが、登米市税条例第3章第2節、第152条から第156条までが、水利地益税に関する規定です。条文を引用させていただきます(http://www.city.tome.miyagi.jp/reiki_int/reiki_honbun/r234RG00000180.html#e000004172)。

 第152条(見出しは「水利地益税」):「水利地益税は、次の区域内における賦課期日現在の土地に対し、当該事業により特に利益を受ける限度内において土地所有者に対し、土地の面積を課税標準として課する。

 水利に関する事業

  ア 黄牛、比良、岩前、宇名、田高畑囲の水田

  イ 形沼、平形囲水田」

 第153条(見出しは「水利地益税の税率」):「水利地益税は年税とし、税率は次のとおりとする。

 面積割

  ア 黄牛地区(比良開田地区を含む。)水田10アールにつき 1,800円

  イ 形沼地区 水田10アールにつき 2,000円

 第154条(見出しは「賦課期日」):「水利地益税の賦課期日は、4月1日とする。」

 第155条(見出しは「納期」):「水利地益税の納期は、次のとおりとする。」

 第1期 5月17日から同月31日まで

 第2期 7月1日から同月31日まで」

 第156条(見出しはない):「このほか水利地益税の賦課徴収については、この条例の定めるところによる。」

 

 続いて朝日町です。朝日町税条例第3章第2節、第152条から第160条までが、水利地益税に関する規定であるはずです。しかし、2019年1月1日から改正条例(平成30年条例第22号)が施行されており、それによるものと見られるウェブ掲載の同条例http://www1.g-reiki.net/asahi.toyama/reiki_honbun/i018RG00000129.html)を見ると第152条から第160条までが削除されています。つまり、朝日町では2018年まで水利地益税が課されていたのですが、2019年からは課されないということになりそうです。

 しかし、とここで逆接の言葉が続いてしまいますが、同条例の第3条第2項は「町税として課する目的税は、次に掲げるものとする」として、第1号に入湯税、第2号に水利地益税をあげているのです。これがウェブ掲載版におけるミスであるのか、それとも議会の立法ミスであるのかは判然としません。ともあれ、ウェブ掲載版ではもう水利地益税に関する規定を読むことはできません。

 そこで先の総務省の参考資料を再び読むと、朝日町の水利地益税の概要は次の通りです。

 課税客体:土地・家屋

 納税義務者:土地・家屋の所有者

 課税標準および税率:土地の場合は10アールあたり101円から1199円まで、家屋の場合は1棟あたり200円

 

 次に羽島市です。羽島市税条例第3章第2節、第125条から第136条までが、水利地益税に関する規定です。羽島市は都市計画税も徴収しています(同条例第3章第1節、第119条から第124条まで)。地方税法第703条第3項は「市町村は、第702条第1項の規定によつて都市計画税を課する場合においては、第1項の都市計画法に基いて行う事業の実施に要する費用に充てるための水利地益税を課することができない」と定めていますので、羽島市は水利地益税を課税する地域を限定しています。ここでも条文を引用させていただきましょう(http://www1.g-reiki.net/hashima/reiki_honbun/i310RG00000161.html)。

 第125条(見出しは「水利地益税の納税義務者」):「水利地益税は、羽島市竹鼻町の一部、福寿町(間島の一部を除く。)、江吉良町(一部を除く。)、舟橋町、堀津町、上中町(長間、一色の一部を除く。)、下中町、桑原町(西小薮を除く。)の区域内の土地(田以外の土地を除く。)に対し、その所有者(法第343条の規定による所有者又は所有者とみなす者をいう。)に課する。ただし、耕作の業務の目的に供される農地については、その耕作者に課する。」

 第126条(見出しは「水利地益税の課税額」):「前条の者に対して課する水利地益税の課税額は、面積割額とする。」

 第127条(見出しは「面積割額」):「前条の面積割額は、地積を課税標準とし、これに第128条の税率を乗じて算定する。」

 第128条(見出しは「水利地益税の税率」):「水利地益税の税率は、1,000平方メートルにつき2,800円とする。」

 第129条(見出しは「水利地益税の賦課期日及び納期」)第1項:「水利地益税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とする。

 同条第2項:「水利地益税の納期は、次のとおりとする。

  第1期 6月1日から同月30日まで

  第2期 11月1日から同月30日まで」

 同条第3項:「市長は、特別の事情がある場合において前項の納期により難いと認められるときは、同項の規定にかかわらず別に納期を定めることができる。」

 第130条(見出しは「水利地益税の徴収の方法」:「水利地益税の徴収については、普通徴収の方法による。」

 第131条(見出しは「水利地益税の徴収の手続」):「水利地益税の納税通知書に記載すべき各納期の納付額は、法第20条の4の2第6項の規定による場合を除き当該年度分の水利地益税をその納期の数で除して得た額とする。」

 第132条(見出しは「水利地益税の納税管理人」)第1項:「水利地益税の納税義務者は、市内に住所、居所、事務所又は事業所(以下本項において「住所等」という。)を有しない場合においては、市内に住所等を有する者(個人にあっては、独立の生計を営むものに限る。)のうちから納税管理人を定め、これを定める必要が生じた日から10日以内に納税管理人申告書を市長に提出し、又は市外に住所等を有する者(個人にあっては、独立の生計を営むものに限る。)のうち納税に関する一切の事項の処理につき便宜を有するものを納税管理人として定めることについて納税管理人承認申請書を市長に同日から10日以内に提出してその承認を受けなければならない。納税管理人を変更し、又は変更しようとする場合その他納税管理人申告書又は納税管理人承認申請書に記載した事項に異動を生じた場合においても、また、同様とし、その提出の期限は、その異動を生じた日から10日を経過した日とする。」

 同条第2項:「前項の規定にかかわらず、当該納税義務者は、当該納税義務者に係る水利地益税の徴収の確保に支障がないことについて市長に申請書を提出してその認定を受けたときは、納税管理人を定めることを要しない。この場合において、当該申請書に記載した事項に異動を生じたときは、その異動を生じた日から10日以内にその旨を市長に届け出なければならない。」

 第133条(見出しは「水利地益税の納税管理人に係る不申告に関する過料」)第1項:「前条第2項の認定を受けていない水利地益税の納税義務者で同条第1項の承認を受けていないものが同項の規定によって申告すべき納税管理人について正当な理由がなくて申告をしなかった場合においては、その者に対し、10万円以下の過料を科する。」

 同条第2項:「前項の過料の額は、情状により、市長が定める。」

 同条第3項:「第1項の過料を徴収する場合において発する納入通知書に指定すべき納期限は、その発付の日から10日以内とする。」

 第134条(見出しは「耕作の業務の目的に供する農地の申告):「水利地益税の納税義務がある耕作者は、毎年1月1日現在における耕作の業務の目的に供する農地について、その所在、地番、地目(土地登記簿の地目が現況と異なるときは、土地登記簿の地目及び現況による地目)及び地積並びに所有者の住所及び氏名又は名称その他課税上必要な事項を1月31日までに、市長に申告しなければならない。」

 第135条(見出しは「耕作の業務の目的に供する農地に係る不申告に関する過料」)第1項:「耕作の業務の目的に供される農地の耕作者が前条の規定によって申告すべき事項について正当な理由がなくて申告をしなかった場合においては、その者に対し、10万円以下の過料を科する。」

 同条第2項:「前項の過料の額は、情状により、市長が定める。」

 同条第3項:「第1項の過料を徴収する場合において発する納入通知書に指定すべき納期限は、その発付の日から10日以内とする。」

 第136条(見出しは「水利地益税の減免」)第1項:「市長は、次の各号のいずれかに該当する土地のうち、市長において必要があると認めるものについては、その所有者又は耕作者に対して課する水利地益税を減免する。

 (1)貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者の所有又は耕作する土地

 (2)公益のため直接専用する土地(有料で使用するものを除く。)

 (3)市の全部又は一部にわたる災害又は天候の不順により、著しく価値の減じた土地

 (4)前各号に掲げるもののほか、特別の事由があるもの」

 同条第2項:「前項の規定は当該年度分の税額のうち、同条第1号から第3号までの1に該当するものにあっては、当該事実に該当する事由が発生した日から当該事実が消滅した日までの間に到来する納期限に係る納付額の全部を免除し、同項第4号に該当するものにあっては市長が定める額を軽減する。」

 同条第3項:「第1項の規定によって水利地益税の減免を受けようとする者は、その事由が発生した日から7日以内に次に掲げる事項を記載した申請書にその減免を受けようとする事由を証明する書類を添付して、これを市長に提出しなければならない。

 (1)納税義務者の住所及び氏名又は名称

 (2)土地の所在、地番、地目、地積及び価格

 (3)減免を受けようとする事由及び第1項第3号の土地にあってはその被害の状況」

 同条第4項:「第1項の規定によって水利地益税の減免を受けた者は、その事由が消滅した場合においては、直ちにその旨を市長に申告しなければならない。」

 水利地益税などに関しては地方税法の規定が粗いとも言えるので、登米市税条例と羽島市税条例とでは規定の精粗が激しいようにも感じられます。あと二つの市町村については、機会を改めて取り上げます。


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