少し前の話ですが、北海道知事が札幌市への冬季オリンピックの招致活動について休止を要求したそうです。2023年10月27日21時00分付で、朝日新聞社が「『立ち止まって見直しを』 鈴木直道知事、札幌五輪招致の休止を要求」(https://www.asahi.com/articles/ASRBW6QWYRBWIIPE007.html)として報じています。
10月27日、北海道知事と札幌市長が北海道庁で会談を行いました。その場で北海道知事が冬季オリンピックおよびパラリンピックの招致活動を休止し、再考するように求めたとのことです。
既に、今月の上旬に、札幌市は2030年の開催を断念しています。10月11日にはJOC(日本オリンピック委員会)と札幌市が連名で「今後の北海道・札幌冬季オリンピック・パラリンピック競技大会招致について」(https://www.city.sapporo.jp/sports/olympic/documents/kaikennkaizyouriri-su.pdf)という文書を公表しており、その中で、次のように述べています。
「本オリンピック委員会(JOC)と札幌市は、これまで 2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会の招致を目指してまいりましたが、慎重な協議の結果、 将来の冬季大会開催の可能性を探ることに変更し、国際オリンピック委員会(IOC) との開催年次を特定しない『継続的な対話』に留まることにいたしました。」
「2022年に東京2020大会を巡る一連の事案が発覚し、その対応として、JOCでは『大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方に関する指針』の策定にスポーツ庁と取り組むとともに、『国際競技大会運営支援プログラム』を立ち上げ、札幌市では競技運営体制の見直しやガバナンス体制の検討を行い、招致への理解促進と住民対話を進めてきました。」
「しかし、現段階において住民の理解を十分に得ているとは言い難く、拙速に招致活動を進めることは、スポーツ及びオリンピック・パラリンピックが持つ価値そのものを損なう可能性があると、JOC が判断し、札幌市に将来の冬季大会招致への変更を提案いたしました。」
JOC自身が2021年の東京オリンピックについて問題を認めた形になっており、実質的に失敗を認めたとも読める表現になっています。また、札幌市でオリンピック招致に反対する意見が強いことは何度となく報じられていますから、JOCが地元の様々な意見を多少とも聴こうという姿勢を示し始めたとも考えられます。ともあれ、具体的な年号を示さなくなったことにより、2030年はもとより2034年の札幌開催も無理であろうとJOCも考えているということが文書から読み取れます。
会談で、札幌市長は2023年11月末の国際オリンピック委員会で2030年および2034年の開催地が絞り込まれる可能性があるとした上で札幌市がその対象になる可能性が低い旨を北海道知事に説明したそうです。こうなると2038年以降ということになりますが、市長は「改めて関係自治体と協議したい」という意向を示しています。これを受けてということなのか、北海道知事は招致活動の休止を求めたということなのです。
札幌オリンピックといえば1972年に行われたものを想起される方も多いでしょう。それで、2021年の東京オリンピック、2025年の大阪万博と同じように「夢よもう一度」の具体的な取り組みなのです。札幌市と北海道が夢の再現に取り組み始めたのは2014年のことだそうで、既に9年が経過しており、さらに7年先の実現に向けて活動が行われていたことになりますが、北海道知事は2022年秋から「招致活動とは距離を置き始めた。副会長に名を連ねる招致に向けたプロモーション委員会は公務を理由に欠席。定例会見でも慎重な物言いが目立つようになっていた」とは上記朝日新聞社記事です。その記事には「道幹部も『秋元市長でなく鈴木知事が表に出て招致すればいいのにとよく言われるが、IOCと開催都市契約を結ぶのは札幌市。北海道は傍観者だ』と突き放していた」とも書かれています。オリンピックの主体は札幌市ですが、北海道が無関係であるとは言えないでしょう。実際に、2030年大会への招致断念の影響が北海道内に現れつつあります。その代表例が、意外に思われるかもしれませんが、JR北海道の函館本線の長万部駅から小樽駅までの区間の存廃問題です。北海道新幹線の延伸開業と引き換えの廃止が決定されていましたが、バス転換するにしても道内全域で運転士不足の問題が深刻で、当然、札幌市にも関係してきます。
それにしても、世界中でオリンピックが金食い虫などとして疑問視されるようになってきています。日本でも1964年の東京と1998年の長野の後で体験したように、オリンピック閉会後に国または地域で深刻な不況に見舞われることが知られていますし、この40年ほど、とかくオリンピックには金ばかりかかるようになり、肝心の地域住民の社会生活が疎かにされがちです。2021年に東京オリンピックが開催されてから、東京はよくなったでしょうか。
余程のことがなければ覆らないということのようなので、2030年はもとより、2034年についても札幌での開催は無理であるとのことです。
それでも招致活動を続けるのでしょうか。ここでもうやめたらいかがでしょうか。