ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第3部:地方税財政制度  第12回:地方公共団体の経費の負担(地方財政権その4)

2022年12月23日 00時00分00秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

 1 経費全額負担の原則

 行政事務の経費を、どの行政主体がどれだけ負担すべきであるかは、地方税財政制度における重要な課題である。行政事務は国、都道府県、市町村のそれぞれが法令または条規に従って行うのであるが、事務の配分と財政支出権限の配分とが一致しない場合も多く、共管事務、事務の委託などが往々にして行われているからである。

 経費の負担については、いくつかの考え方が存在しうる。1948(昭和23)年に制定された地方財政法は、当初、事務を実際に行う行政主体の如何ではなく、利害が帰属する行政主体が経費を負担するという原則を採用し、「主として地方公共団体の利害に関係のある事務を行うために要する経費」、「国と地方公共団体相互の利害に関係のある事務を行うために要する経費」、「主として国の利害に関係のある事務を行うために要する経費」および「地方公共団体が処理する権限を有しない事務を行うために要する経費」に区分していた〈碓井光明『要説自治体財政・財務法』〔改訂版〕(1999年)33頁による〉。しかし、1952(昭和27)年度改正により、利害の帰属ではなく、事務を行うべき行政主体が経費を負担するという原則に変更された。現在の地方財政法第9条は、都道府県が条例によって市町村が処理することとした事務(地方自治法第252条の17の2第1項)※、および、都道府県が条例により、都道府県が加入しない広域連合が処理することとした事務(同第291条の2第2項)を除き、当該地方公共団体が、事務を行うために要する経費を全額負担すると定める※※。これを経費全額負担の原則と表現することが可能である。

 ※これは「条例による事務処理の特例」と位置づけられ、事務の委託とは異なる、と説明される。都道府県から市町村への事務の再配分であり、事務の管理および執行の権限は市町村長にある。松本英昭『要説地方自治法』〔第六次改訂版〕(2009年、ぎょうせい)636頁。

 ※※地方自治法第252条の17の2第1項に該当する場合には、地方財政法第28条第1項により、都道府県が経費の財源について必要な措置を講じなければならない。また、地方自治法第291条の2第2項に該当する場合には、地方財政法第28条第2項により、同第1項が準用される。

 経費全額負担の原則は、地方自治法第232条第1項にも「普通地方公共団体は、当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費その他法律又はこれに基づく政令により当該普通地方公共団体の負担に属する経費を支弁するものとする」として表現されている。

 その上で、国が法令によって新たに事務の処理を義務づける場合には、やはり地方公共団体が経費を負担しなければならないのであるから、同第2項により、「法律又はこれに基づく政令により普通地方公共団体に対し事務の処理を義務付ける場合においては、国は、そのために要する経費の財源につき必要な措置を講じなければならない」こととされる。この趣旨は地方財政法第13条第1項にも規定される。さらに、この「財源措置について不服のある地方公共団体は、内閣を経由して国会に意見書を提出することができ」(同第2項)※、「内閣は、前項の意見書を受け取つたときは、その意見を添えて、遅滞なく、これを国会に提出しなければならない」(同第3項)。

 ※碓井・前掲書34頁は、意見書提出について「自治体の国政参加権の一種として位置づけることができる」と述べる。

 地方財政法第13条に規定される財政措置に関する権利は、あくまでも個別の地方公共団体の権利であり、地方公共団体の連合組織などについて認められるものではない。地方公共団体の全国的な連合組織については、地方自治法第263条の3に規定されており、第1項において設置した場合の総務大臣への届出義務を規定した上で、第2項において届出をした全国的連合組織が「地方自治に影響を及ぼす法律又は政令その他の事項に関し、総務大臣を経由して内閣に対し意見を申し出、又は国会に意見書を提出することができる」と定めている。

 もっとも、内閣に対して意見を申し出、または国会に意見書を提出するとしても、個別の地方公共団体、全国的連合組織の意思が確実に反映されるとは限らない。内閣は、提出された意見を参考にするなどの政治的義務を負うものと思われるが、提出された意見を着実に反映する財源措置を講じなければならないという法的義務を負うものとは解されない。また、国会は、提出された意見書を誠実に処理しなければならないものと思われるが、その趣旨を必ず実現しなければならないとは言えない。その意味において、個人の請願権と類似する性格を有することとなる。

 一方、地方財政法第21条第1項は「内閣総理大臣及び各省大臣は、その管理する事務で地方公共団体の負担を伴うものに関する法令案について、法律案及び政令案にあつては閣議を求める前、命令案にあつては公布の前、あらかじめ総務大臣の意見を求めなければならない」と定め、同第2項は「総務大臣は、前項に規定する法令案のうち重要なものについて意見を述べようとするときは、地方財政審議会の意見を聴かなければならない」と定める。これは、地方公共団体の過重負担を防止するためのものであるが、ここで総務大臣は地方公共団体の代理人的な地位にある訳ではない。また、同第22条第1項は「内閣総理大臣及び各省大臣は、その所掌に属する歳入歳出及び国庫債務負担行為の見積のうち地方公共団体の負担を伴う事務に関する部分については、財政法(昭和22年法律第34号)第17条第2項に規定する書類及び同法第35条第2項に規定する調書を財務大臣に送付する際、総務大臣の意見を求めなければならない」、第2項は「総務大臣は、前項に規定する書類及び調書のうち重要なものについて意見を述べようとするときは、地方財政審議会の意見を聴かなければならない」と定めるが、これについても第21条と同様のことを指摘しうる。

 

 2 経費全額負担の原則に対する例外

 前述の通り、地方財政法第9条は経費全額負担の原則を定める。しかし、同条ただし書きは、同第10条ないし第10条の4までに規定される経費については例外としている。また、附則にある第34条ないし第36条、災害関係の多くの法律が、経費全額負担の原則に対する例外を定める。このうち、第10条の4は、第10条ないし第10条の3と性質を異にするので、別個に扱うこととする。

 地方財政法第10条ないし第10条の3に定められる国の経費負担は、一般に国庫負担金と言われる。ここで辞書的に定義を記すならば、国庫負担金とは、地方公共団体が行う事務で国と地方公共団体の相互の利害に関係する事務に要する経費につき、国と地方公共団体との経費の負担の区分に基づき、国が義務的に負担する給付金をいう。この種の事務について国が経費を一部でも負担するのは当然のことであるため、いわば割勘的に国と地方公共団体がそれぞれ分担するのである〈碓井・前掲書71頁〉

 ここで地方財政法第10条ないし第10条の3までの規定を読むと、経費全額負担の原則は実のところ法的意味に乏しいことが理解される。たとえば、普通国庫負担金を定める第10条は「地方公共団体が法令に基づいて実施しなければならない事務であつて、国と地方公共団体相互の利害に関係がある事務のうち、その円滑な運営を期するためには、なお、国が進んで経費を負担する必要がある次に掲げるものについては、国が、その経費の全部又は一部を負担する」として、義務教育職員の通常の給与に関する経費(第1号)、義務教育諸学校の建物の建築に要する経費(第3号)などを掲げ、第10条の2は「国がその全部又は一部を負担する建設事業に要する経費」を掲げる。

 第10条の2に定められる国庫負担金は建設事業費国庫負担金ともいい、第10条の3に定められる国庫負担金は災害復旧事業費等国庫負担金ともいう。

 なお、第10条の4は「専ら国の利害に関係のある事務を行うために要する」経費について「地方公共団体は、その経費を負担する義務を負わない」と定め、「国会議員の選挙、最高裁判所裁判官国民審査及び国民投票に要する経費」、「外国人登録に要する経費」、「国民年金、雇用保険及び特別児童扶養手当に要する経費」などを掲げる。これらは国庫委託金といい、国庫負担金と区別される。

 これらは、いずれも本来ならば国が自らの機関を通じて行うべき事務であり、それを地方公共団体の機関に委任しているのであるから、地方公共団体が経費負担の義務を負わないことは当然である(もっとも、地方公共団体が自ら経費を負担することが許されない訳ではない)。しかし、「国会議員の選挙、最高裁判所裁判官国民審査及び国民投票に要する経費」については実額負担ではなく、国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律によって定められた基本額および加算額のみが負担されることとなる。また、第10条の4に規定された諸事務を地方公共団体が支弁した場合に、その金額を直ちに国に対して請求しうるものではない、とされている。

 

 3 経費負担の区分の意味

 地方財政法第10条ないし第10条の3を再読すると、いずれの規定においても「国が、その経費の全部又は一部を負担する」と定められているものの、負担割合の詳細については一切示されていないことがわかる。結局、第11条により、「第10条から第10条の3までに規定する経費の種目、算定基準及び国と地方公共団体とが負担すべき割合は、法律又は政令で定めなければならない」ということになるのであるが、第10条ないし第10条の3に列挙される事務の根拠法律を参照しても、国の負担割合が規定されているものもあれば規定されていないものもあって統一がとれていない。とくに、根拠法律に規定されていないものは政令に委任されており、全く問題がないとは言えない。また、負担割合を規定しているとしても「予算の範囲内」などとしている例も多い。碓井教授の表現を借りるならば、「国庫負担金は、割勘的な経費負担であるのに、ここでは、『予算の範囲内』という留保によって、補助金に転化されているといえよう(負担金の補助金への転化)」〈碓井・前掲書37頁〉

 国庫補助金は、地方財政法第16条によって「その施策を行うため特別の必要があると認めるとき又は地方公共団体の財政上特別の必要があると認めるときに限り」国から地方公共団体に交付するものとされている。特定の事務や事業の実施を奨励するための補助金を奨励的補助金といい、財政援助をするための補助金を財政援助補助金という。いずれにせよ、概念上は国庫負担金と異なり、国の利害に関係のある地方公共団体の事務事業について当然に経費として支出すべきものではない。しかし、同第18条が国庫負担金、国庫委託金および国庫補助金を併せて国庫支出金と総称すること、この三種類がいずれも特定の使途に向けられた経費であることから、とくに国庫負担金と国庫補助金との区別が曖昧になりやすいのである。

 このことは、摂津訴訟として法廷の場においても問題となった。まずは事案を見ていくこととする。

 摂津市は、市内に四箇所の保育所を設置し、その費用として合計9272万9990円を支出した。同市は、地方財政法第10条の2第5号、児童福祉法第52条(当時)、同第51条第2号(当時)、児童福祉法施行令第15条第1項(当時)、同第16条第1号の規定に従い、国は摂津市 が支弁した費用の額からその費用のための寄付金などの収入額を控除して得られた精算額の2分の1を国庫が負担すべきであると主張した。その上で、摂津市は「各会計年度終了時において当該年度中に支弁した設備費用につき、何ら特別の手続を要せずに直接右法及び法施行令の各規定に基づいて国庫に対し精算額の2分の1に該当する金額の負担金支払請求権を取得するものと解すべきである」として、支出額の2分の1である4636万4995円から、既に国が交付決定し支払った250万円を差し引いて得られた4386万4995円を支払うように請求した。

 これに対し、国は「国の負担金についての具体的な請求権は、(中略)補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(中略)第六条所定の交付の決定(中略)の効果として発生し、同法第一五条所定の補助金等の額の確定があつた場合の確定額が当該請求権の金額となる」と主張した。

 東京地判昭和51年12月13日行裁例集27巻11・12号1790頁は、「負担金については交付決定を経由することなく各実体法の規定に直接基づいて具体的な請求権が発生するとの見解をとれば、国はいつ、いかなる内容の負担金支払請求権が発生し、それが行使されることになるのかを把握することが困難となり、その結果適正化法の前示目的の達成が不服又は著しく困難となるのみならず、予算編成にも支障が及び、ひいては財政上の基本原則として採用されている会計年度独立の原則を脅かすこととなり、また、国家財政の計画的運用、財源の効率的活用も不可能となることが明らかであ」ると述べた。その上で、児童福祉法第52条などについて「右規定は単に抽象的な国の負担義務を定めた規定にとどまると解すべきであつて、右規定から直接具体的な負担金請求権が生ずると解することはでき」ず、「右各規定は市町村が任意に設置する保育所のすべてを負担金交付の対象とすべきことを規定したものではなく、また負担金交付対象とした保育所の設備費用についても、市町村が現実に支出した費用の全額をもつて負担金の額算定の基礎とすべき旨を規定したものではな」く、「行政庁が当該保育所を負担金交付の対象とすべきものか否かを判断し、交付対象とすべきものと判断した場合に、合理的な基準に基づいて算定した設備費用額を基礎とする一定割合の額の負担を国に命じている規定であつて、具体的負担金請求権は行政庁の合理的な判断とそれに基づく行為によつて発生することを予定した規定」であると判断した。

 しかし、このように理解すると、結局、地方財政法第10条の2第5号の規定の意味は失われかねない。国庫負担金は裁量性を認めうるような性質のものではないはずである。その点において、一審判決には疑問が残る。摂津訴訟二審判決(東京高判昭和55年7月28日行裁例集31巻7号1558頁)は、児童福祉法および同施行令の当該規定のみから具体的請求権が発生しないとした点において一審判決と同様であるものの、「地方財政法10条以下に現定されている地方公共団体に対する国の負担金と同法16条所定の地方公共団体に対する国の補助金とを比較するとき、同法上これらの性質に異つた点のあることは右各規定からみて明らかであり、とくに、前者は義務的なものであり、後者は裁量的なものである点において大きな差異があるというべきである」と判示している。

 

 4 寄付等の禁止

 地方財政法第4条の5は、国が地方公共団体またはその住民に対して、直接的か間接的であるかを問わず、寄附金を割り当てて強制的に徴収してはならないと規定する。同条は、地方公共団体が他の地方公共団体または住民に対して同様の行為をなすことも禁止する。

 この規定の趣旨は、寄附金などによって国のサーヴィスの提供先が左右されるなどの弊害を防ぐこと、寄附金などのために地方公共団体の財政に負の影響を与えることを防止することにある。その意味において、この規定は地方公共団体の税財政権を保障するとともに、財務法上の規制法でもある。

 なお、地方財政法第24条は「国が地方公共団体の財産又は公の施設を使用するときは、当該地方公共団体の定めるところにより、国においてその使用料を負担しなければならない。但し、当該地方公共団体の議会の同意があつたときは、この限りでない」と定めている。この但し書きにある議会の同意については見解が分かれるが、包括的な同意の議決や条例の定めによる同意ではなく、個別的な同意の議決を必要とすると考えるのが妥当であろう。

 

 ▲第6版における履歴:2022年12月23日掲載。

 ▲第5版における履歴:未掲載。


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