ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

水利地益税の課税団体(2)

2019年01月07日 00時00分00秒 | 法律学

 2019年1月6日8時付の「水利地益税の課税団体(1)」に続いて、水利地益税の課税団体の話です。高知県いの町および熊本県湯前町が残っています。

 まずは高知県いの町です。いの町税条例第3章第2節、第152条から第161条までが、水利地益税に関する規定です。条文を引用させていただきましょう(http://www2.town.ino.kochi.jp/reiki2/reiki_honbun/r037RG00000186.html)。

 第152条(見出しは「水利地益税の納税義務者等」):「水利地益税は、町の経営する水利に関する事業から利益を受ける土地に対し、その地積を課税標準として当該土地の耕作者に課する。」

 第153条(見出しは「水利地益税の税率」)第1項:「水利地益税の税率は、1平方メートルにつき4円とする。」

 同第2項:「前条の規定による受益の程度が著しく低いと認められる土地に対しては、町長に、町議会の同意を得て前項の税率を軽減することができる。」←文面がおかしいという気もしますが、そのまま引用しておきます。

 第154条(見出しは「水利地益税の賦課期日」):「水利地益税の賦課期日は、7月1日とする。」

 第155条(見出しは「水利地益税の納期」):「水利地益税の納期は、8月1日から同月31日までとする。」

 第156条(見出しは「水利地益税の徴収方法」):「水利地益税は、普通徴収の方法によって徴収する。」

 第157条(見出しは「水利地益税に関する申告義務):「水利地益税の納税義務者は、水利地益税を課せられるべき事実が発生し、又は消滅した場合においては、その発生し、又は消滅した日から10日以内に次に掲げる事項を記載した申告書を町長に提出しなければならない。その申告した事項に異動を生じた場合においても、また、同様とし、その提出期限は、その異動を生じた日から10日を経過した日とする。

 (1)納税義務者の住所及び氏名又は名称

 (2)水利地益税を課さるべき土地の地番及び地積

 (3)納税義務の発生消滅又は異動の年月日及びその事由」

 第158条(見出しは「水利地益税に係る不申告に関する過料」)第1項:「水利地益税の納税義務者が前条の規定によって申告すべき事項について正当な事由がなくして申告しなかった場合においては、その者に対して10万円以下の過料を科する。」

 同第2項:「前項の過料の額は、情状により、町長が定める。」

 同第3項:「第1項の過料を徴収する場合において発する納入通知書に指定すべき納期限は、その発付の日から10日以内とする。」

 第159条(見出しは「水利地益税の納税管理人」):「水利地益税の納税義務者は、町内に住所、居所、事務所又は事業所を有しない場合においては、町内において独立の生計を営む者のうちから納税管理人を定め、これを定める必要が生じた日から10日以内に納税管理人申告書を町長に提出しなければならない。納税管理人を変更した場合その他申告した事項に異動を生じた場合においても、また、同様とし、その提出の期限は、その異動を生じた日から10日を経過した日とする。」

 第160条(見出しは「水利地益税の納税管理人に係る不申告に関する過料)第1項:「水利地益税の納税義務者が前条の規定によって申告すべき納税管理人について正当な事由がなくして申告しなかった場合においては、その者に対し10万円以下の過料を科する。」

 同第2項:「前項の過料の額は、情状により町長が定める。」

 同第3項:「第1項の過料を徴収する場合において発する納入通知書に指定すべき納期限は、その発付の日から10日以内とする。」

 第161条(見出しは「水利地益税の減免」):「災害その他特別の事情が有るもののうち町長において必要があると認めるものについては、水利地益税を免除する。」

 

 最後に、熊本県湯前町です。「水利地益税の課税団体(1)」において紹介した総務省の「参考資料 資料1−2」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000162255.pdf)では同町が課税団体として紹介されているのですが、現在参照できる湯前町税条例(http://public.joureikun.jp/yunomae_town/reiki/act/frame/frame110000142.htm)を見ると、水利地益税に関する規定が存在しません。同条例の第3章第1節(第141条〜第149条)は入湯税に関する規定であり、おそらくはその次の第2節(第150条以下)が水利地益税に関する規定であったはずです。いつ廃止されたのかはわかりません。

 前回に紹介した朝日町税条例の第3条第2項は「町税として課する目的税は、次に掲げるものとする」として、第1号に入湯税、第2号に水利地益税をあげていますが、水利地益税に関する規定(第152条から第160条まで)が削除されています。これに対し、湯前町税条例の第3条第2項は「町税として課する目的税は、入湯税とする」と定めており、水利地益税は書かれていません。やはり、湯前町は水利地益税の課税をやめたと見るのが妥当です。

 そこで先の総務省の参考資料を再び読むと、湯前町の水利地益税の概要は次の通りです。

 課税客体:土地

 納税義務者:土地の使用者(所有者ではなく、使用者とされています)

 課税標準および税率:10アールあたり2800円

 

 結局、2019年1月6日現在において水利地益税の課税団体は登米市、羽島市、いの町の3市町のみです。総務省の「市区町村数を調べる/政府統計の総合窓口」(https://www.e-stat.go.jp/municipalities/number-of-municipalities?year=2019&month=1&day=6&op=search&file_format=csv&sort_key=todoId&sort_order=&form_build_id=form-wFo7Ur91HKCwYOiJ0eG0RMR9-SEEBQHNFTu6BM4RdZs&form_id=city_count_form)によると、2019年1月6日現在における政令市の数は20、市(政令市を除く)の数は772、町の数は743、村の数は189で、市町村数は合計で1724です。従って、水利地益税の課税団体は全市町村の0.17%にしかなりません。法定税(地方税法に税目として定められている地方税)として存続させる意味が残っているのかどうか怪しいところで、法定外目的税にしてもよいのではないかと思われるほどです。実際に、総務省は水利地益税、共同施設税および宅地開発税を法定税から法定外税に移行することを検討していたようで、「法定税の法定任意税化・法定外税化の検討」という資料も公表されています(http://www.soumu.go.jp/main_content/000162254.pdf)。

 かつて、私は「地方目的税の法的課題」日税研論集46号(2001年)306頁において「少なくとも、都道府県の水利地益税、共同施設税および宅地開発税については、廃止することも考えられるべきであろう(廃止した後、法定外普通税または法定外目的税として再導入することは、可能であると思われる)」と記しました。この時には市町村の水利地益税を文章に入れなかったのですが、「少なくとも」と書いたのです。つまり、実は念頭に置いていた訳です。


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