ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

カジノ構想:これを経済戦略の目玉とするのは末期的思考ではないのか?

2014年10月17日 10時33分16秒 | 国際・政治

 日本では、これまで何度となくカジノ構想が浮上してきました。第二次安倍内閣発足後、カジノ解禁に向けての議論が本格化しようとしています。勿論、2020年に開催が予定されている東京オリンピックに向けた話でもあるのですが、それに留まらず、経済戦略の目玉として位置づけられようとしているのです。既に6月、政府はIR(Integrated Resort.特定複合観光施設)推進検討について閣議決定を行っていますし、現在開かれている第187回国会(臨時会)では、第185国会会期中の2013年12月5日に衆議院議員提出法案第29号として提出され、同日に衆議院内閣委員会に付託されながら閉会中審査扱いとされた「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」が衆議院で審議されています。名称からしてバブル期一の悪法ともいわれたリゾート法(正式名称は「総合保養地域整備法」。昭和62年6月9日法律71号)の焼き直しのようなものを思い起こさせますが、見事に破綻したリゾート法の轍を踏むようなことにならないのでしょうか。

 また、カジノも賭博も(公営競技は除いて)解禁はされていないことになっているのに、実際はパチンコなどの存在もあってギャンブル大国であるとも言われる日本です。本当にカジノ解禁に問題がないのかと訝るのは自然なことです。

 そればかりでなく、日本でカジノを経済戦略の目玉とすることは、いかにも目先のことだけを考えた短期的思考であり、何ら生産性のない、公正という観点も欠落させた末期的な思考ではないかと思われます。理由は簡単で、賭博は既に存在する財なり富なりを収奪し、あるいは滅失させるだけで、何ら再生産にも再分配(勿論、公正なものです)にもつながっていないとみるべきであるからです。

 昨日(10月16日)付の朝日新聞朝刊1面14版トップ記事は「(深層カジノ上)『カジノ効果』追う日本 首相『成長戦略の目玉』」で、2面13版に続きの記事があります。読んでいて考えさせられる内容ですが、印象的なのはシンガポール国立大学公共政策大学院のドナルド・ロウ副学院長のコメントであり、重く受け止めるべきでしょう。引用させていただきましょう。

 「経済政策としてカジノに注目するのは悪くない。しかしIT(情報技術)や自動車などの産業と違って、カジノで20年も30年も国の優位性を保つことはできない」

 経済政策から離れてギャンブル依存症の問題について指摘されることがあります。これに関連して、モンテカルロで有名なモナコ公国では、国民のカジノ理由が禁止されているそうです(経済的な理由からしても当然のことでしょうが)。また、シンガポールでは、国民であれば入場料を徴収され、人ごとに入場制限ないし禁止の措置も可能であるとのことです(この話は上記朝日新聞記事に登場します)。外国の例にも様々なものがありますので、一概に言えないのですが、タックス・ヘイヴンとされる国や地域が少なくないことも、気に留めてよいことです。

 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」は衆議院のサイトに掲載されているので、詳細はそちらを御覧いただくことといたしましょう。ここでは、まず提案理由を引用しておきます(下線は引用者である私によるものです)。

 「特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものであることに鑑み、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する基本理念及び基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより、これを総合的かつ集中的に行うことが必要である。これが、この法律案を提出する理由である。」

 「目的」を定める第1条とほとんど同じ文章ですが、ここには、公営競技に関する諸法律と同じような構造が示されています。参考までに、下記の諸規定をお読みください。

 自転車競技法(昭和23年8月1日法律第209号)第1条第1項:「都道府県及び人口、財政等を勘案して総務大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)は、自転車その他の機械の改良及び輸出の振興、機械工業の合理化並びに体育事業その他の公益の増進を目的とする事業の振興に寄与するとともに、地方財政の健全化を図るため、この法律により、自転車競走を行うことができる。」

 小型自動車競走法(昭和25年5月27日法律第208号)第1条:「この法律は、小型自動車その他の機械の改良及び輸出の振興、機械工業の合理化並びに体育事業その他の公益の増進を目的とする事業の振興に寄与するとともに、地方財政の健全化を図るために行う小型自動車競走に関し規定するものとする。」

 モーターボート競走法(昭和26年6月18日法律第242号)第1条:「この法律は、モーターボートその他の船舶、船舶用機関及び船舶用品の改良及び輸出の振興並びにこれらの製造に関する事業及び海難防止に関する事業その他の海事に関する事業の振興に寄与することにより海に囲まれた我が国の発展に資し、あわせて観光に関する事業及び体育事業その他の公益の増進を目的とする事業の振興に資するとともに、地方財政の改善を図るために行うモーターボート競走に関し規定するものとする。」

 当せん金付証票法(昭和23年7月12日法律第144号)第1条:「この法律は、経済の現状に即応して、当分の間、当せん金付証票の発売により、浮動購買力を吸収し、もつて地方財政資金の調達に資することを目的とする。」

 スポーツ振興投票の実施等に関する法律(平成10年5月20日法律第63号〕第1条:「この法律は、スポーツの振興のために必要な資金を得るため、スポーツ振興投票の実施等に関する事項を定め、もってスポーツの振興に寄与することを目的とする。

 〔競馬法には同旨の規定が見当たりません。〕

 ここで「当せん金付証票」とは宝くじのことであり、「スポーツ振興投票」とはサッカーくじのことです(どちらも刑法第187条でいうところの富くじに当たります)。スポーツ振興投票の実施等に関する法律は1998年に公布されましたので時代背景などが異なりますし、サッカーくじは独立行政法人日本スポーツ振興センター行うこととなっていますから、直接地方財政の改善などに役立つということにはなっていません。これに対し、競輪、オートレース、競艇および宝くじは、いずれも第二次世界大戦後の混乱期に地方財政が窮乏状態となったことから認められるようになったものであり、施行者が地方公共団体とされているのです。とくにこの点が強く示されているのは当せん金付証票法第1条で、引用したように「当分の間」は「浮動購買力を吸収」することによって「地方財政資金の調達」を図ることとなっています。わかりやすい表現に直せば、「国民が持っている余った金を少しでも集めて地方財政に回す」ことが目的です。意地の悪い表現を使えば租税という形によらずに国民の経済力から収奪を行うことを正当化する法律でもある訳です。他の法律では曲がりなりにも「地方財政の健全化」以外の目的も示されていますが、当せん金付証票には「地方財政資金の調達」以外に何の目的も示されていません。逆に国民の側からすれば、宝くじを購入することは形を変えた納税であるとも言える訳です。従って、本来であれば所得税法か地方税法に「当せん金付証票購入控除」を設けるべきであるとも記してよいでしょう(半分冗談ですが、半分は本気です。末等でも当たれば別ですが、外れたらお金は帰ってこないので、納税と同様に考えてもよいでしょう。ちなみに、宝くじの当せん金は非課税です)。

 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」には「観光及び地域経済の振興に寄与する」という、一応の目的が示されています。この点では当せん金付証票法と異なります。しかし「財政の改善」は同様であり、しかも地方財政のみならず国家財政にまで対象が広げられています。

 確かに、賭博も富くじも国家財政や地方財政の改善などには資することでしょう。そうでなければ公営競技が認められなかったはずです。実際に、川崎市も典型例の一つとしてよいでしょうが、公営競技や宝くじは地方財政に大きく貢献しました。しかし、現在はどうでしょうか。中央競馬はどうかわかりませんが、地方の公営競技は衰退しています。私が大分大学に勤務していた時に中津競馬が多額の赤字の末に廃止されました。最近では横浜市鶴見区にあった花月園競輪も廃止されています。他にも赤字が問題となっている公営競技は多いようです。時代の変化について行けなかった、などの理由をあげることはできるでしょうが、ドナルド・ロウ副学院長のコメントが的確に根本的な理由を述べていると考えられないでしょうか。

 それに、観光云々といいますが、大分県の例でいえば何故に由布院が人気を得て維持してきたかを考えれば、カジノ構想が観光に資さず、むしろ逆効果となりうることもありうるのではないでしょうか。奈良、京都、鎌倉などの古都を想起してもよいでしょう(太宰府市などをあげてもよいでしょう)。今日(10月17日)付の朝日新聞朝刊2面14版に「(深層カジノ中)『カジノを』首長走る」という記事が掲載されており、そこには大阪府・大阪市、沖縄県、東京都の動きが紹介されていますが、沖縄県には米軍基地という特殊事情があるのでここでは触れないとして、大阪府・大阪市の場合は夢州(ゆめしま)という、第三セクターの典型的失敗例が候補地となっています。挽回策ということでは理解できますが、何処まで実現できるかは今後の政策次第でしょう(外資系の会社が積極的である点も気になります。結局、日本の国や地方公共団体が得る利益は比率的に僅かなものにしかならないという結果になるかもしれないからです。こういう懸念が出るとしても不思議ではありません)。また、宮崎県がシーガイアで、長崎県がハウステンボスでのカジノの設置を検討しているらしいことも、かなり気になります。シーガイアはリゾート法の産物と言ってもよいもので、やはり見事なまでに破綻した実例です。ハウステンボスも同様で、運営していた会社は会社更生法の適用を受けています。どちらも経営主体が変わり、多少は持ち直しているようですが、いずれもカジノがなかったから失敗したのでしょうか。ちなみに、東京都は、石原慎太郎氏が知事であった時代に港区台場(「お台場」と呼称されることが多いのですが、正式な地名は「台場」です)に誘致することを表明しており、知事が猪瀬直樹氏に交代してからも同じ姿勢を続けていましたが、舛添要一氏に交代してからはトーンダウンしているようです(担当部局が政策企画局から港湾局に変更されています)。

 書いているうちに、取り留めのないようなものになってしまいました。大分大学時代に取り組んでいたサテライト日田問題を思い出しました。カジノ構想などとはあまり関係はないのですが、地元のまち作りなどの問題として考えるべきものとして記しておきましょう。私の「川崎高津公法研究室」に、現在も不定期連載(2000年7月~2004年12月22日)、「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例―日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例―」(月刊地方自治職員研修2001年5月号に掲載)、「場外車券売場設置許可無効確認請求事件」(法令解説資料総覧2003年5月号に掲載)、「地方公共団体の名誉権と市報掲載記事―大分地方裁判所平成14年11月19日判決の評釈を中心に―」(大分大学大学院福祉科学研究科紀要第1号に掲載)、および「地方公共団体の名誉権享有主体性についての試論」(早稲田法学81巻3号に掲載)を載せておりますので、お読みいただければ幸いです。


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