仕事の関係で衆議院のサイトを見ていたところ、現在開かれている第187回国会(臨時会)で審議されている法律案に、非常に気になるものがあります。「経済社会改革の推進に関する法律案」です。
この法律案は、第186回国会会期中の今年(2014年)6月17日に衆議院議員提出法案第44号として提出されたものであり、衆議院には2014年6月17日に受理され、翌日には内閣委員会に付託されていますが、閉会中審査の扱いとなりました。
条文数こそ少ないものの、内容はかなり多岐にわたり、天こ盛りとも言えるものですが、今回は私が気になった条文をあげておきましょう。法律案全体については衆議院のサイトを御覧ください。なお、コメントなどについては基本的に控えますが、どうしても気になるものだけは短く記しておきます。
「(目的)
第一条 この法律は、我が国の経済状況を好転させるためには、民間の自主的な選択に配慮した施策の推進、生産性の高い経済の実現及び地域を中心とした社会のシステムの構築による経済社会の改革(以下「経済社会改革」という。)が喫緊の課題であることに鑑み、経済社会改革に関し、基本理念及びその実現を図るために基本となる事項を定め、国の責務を明らかにし、並びに経済社会改革推進計画の作成について定めるとともに、経済社会改革推進本部を設置することにより、経済社会改革に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の向上及び経済社会の発展に寄与することを目的とする。」
「(民間の自主的な選択に配慮した施策の推進)
第二条 経済社会改革は、民間活動が経済社会の発展の基盤であることに鑑み、国が講ずる施策について民間の自主的な選択に配慮したものとするとともに、これを踏まえて国の行政組織並びに事務及び事業の見直しを行い、行政運営の効率化及び歳出の削減が図られることを旨として行われなければならない。」
「(生産性の高い経済の実現)
第三条 経済社会改革は、技術革新の進展に必要な環境を整備するため、民間活動の活性化に資するよう人材の多様性を確保し、並びに社会における人材の移動に伴う手続及び費用の負担を軽減することにより、民間における生産性を高め、雇用を確保し、及び国民負担の軽減に資することを旨として行われなければならない。」
「(地域を中心とした社会のシステムの構築)
第四条 経済社会改革は、各地域において、商品を使用し、若しくは消費し、又はサービスの提供を受ける者を起点として各産業分野相互の連携を図り、これらの者が商品を使用し、若しくは消費し、又はサービスの提供を受けることにより享受する価値を効果的に創造し、提供し、及び確保するシステムを構築し、及び運営することを旨として行われなければならない。」
「(経済活動への参加意欲の向上)
第七条 国は、経済活動に参加し、又は参加しようとする者の意欲を高めるため、就業に係る規制の緩和、労働契約制度の見直し、新たな事業の開拓及びこれに伴う総合調整に関する業務並びに高度な専門的業務に必要な技能及びこれに関する知識を有する者に対する認定又は資格に係る制度の創設その他の必要な施策を講ずるものとする。」
「(社会保障制度への依存の防止)
第八条 国は、経済活動に参加しようとする努力を怠る者が社会保障制度に過度に依存することとならないよう、社会保障制度の改革その他の必要な施策を講ずるものとする。」
〔趣旨はわからなくもないのですが、文言からして曖昧であり、それこそ「過度に」社会保障制度(例、生活保護制度)の利用を抑制する効果をもたらさないでしょうか。社会保障制度は憲法第25条によるものであり、これを利用することは(少なくとも)日本国民の権利であることが、あまりにも理解されていない、あるいは蔑ろにされていないでしょうか。この条文の趣旨からすれば、日本国憲法から第25条が削除されることが望ましいということになるでしょう。〕
〔第10条などでは「人材」という言葉が繰り返されます。世間でも当たり前に使用される言葉ですが、私が大分大学教育福祉科学部に勤務していた時、教授会の場で「人材」の使用は好ましくないという発言をされた教授がおられました。今でも、その方のお人柄とともに強く印象に残っています。ちなみに、同じ意味で「人才」という言葉もあります。読みは「じんさい」です。〕
「(人材の多様性の確保)
第十条 国は、民間企業の活性化に資するよう、人材の多様性を確保するため、採用慣行その他の雇用慣行の見直しの奨励及び社外取締役の選任の促進その他の必要な施策を講ずるものとする。」
「(地域社会の中心となる都市への人口の集中)
第十六条 国は、地域社会の中心となる都市がそれぞれ魅力あるものとなることによって人口の集中を促進し、効率的な経済の発展を図ることができるよう、道州制の推進その他の必要な施策を講ずるものとする。」
〔これが一番気になります。具体的にいかなる意味なのかがわかりにくい上に、地方自治や地方分権の理念とかけ離れるのではないかと思われるのです。また、日本社会の現実に鑑みて、都道府県庁所在都市への一極集中、各地方の中心都市への一極集中(例.九州地方における福岡市への一極集中)、そして東京への一極集中を法的に担保する結果になりかねないのではないか、と懸念します。道州制の推進が盛り込まれていることからしても、道または州の中心都市(道都、州都とでもいうのでしょうか?)へ人口や経済基盤の集中が加速する可能性は高いでしょう。次の第17条と比較してください。〕
「(農村地域の再生)
第十七条 国は、農村地域の再生に資するよう、若者が夢を求めて農業に参入し、及び農村に居住し、並びに消費者を主体とした豊かな食生活を創造するため、農村地域における雇用機会の創出、農産物等の生産及び加工又は販売を一体的に行う事業の促進、農業及び農村地域を振興する仕組みの再構築その他の必要な施策を講ずるものとする。」
「(安定的で効果的なエネルギー供給のシステム及び効率的な物流のシステムの構築)
第十八条 国は、真に安定的で効果的なエネルギー供給及び効率的な物流を実現するため、国際的な電力供給のシステムの構築、蓄電池を活用した電力供給のシステムの構築並びにバイオマス及び太陽熱の活用並びに複数の輸送機関を活用し輸送時間を短縮する物流のシステムの構築その他の必要な施策を講ずるものとする。」
〔エネルギー政策と交通政策の両面を含んでおり、運用の仕方によっては過度なモータリゼイションを改める機会ともなりえます。〕
提出理由は「経済社会改革に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、経済社会改革に関し、基本理念及びその実現を図るために基本となる事項を定め、国の責務を明らかにし、並びに経済社会改革推進計画の作成について定めるとともに、経済社会改革推進本部を設置する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である」とされており、「本案施行に要する経費としては、平年度約一億八千四百万円の見込みである」とも述べられています。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます